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『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』  作者: マサキ


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第37話:十二人目の守護者、帰還(前編)

第37話:十二人目の守護者、帰還(前編)


 佐藤家の屋敷を包む大気は、もはや物理的な質量を持って健太の生命を圧迫していた。


 主寝室では、11人のメイドたちが自らの執着の糸を絡め合い、健太という名の「生ける偶像」を解体し、自分たちのパーツとして取り込もうとする狂気の儀式が最終局面を迎えていた。


 結衣が、死神のような慈愛を湛えた笑みで、健太の冷え切った唇に自らの指を添えた、その瞬間であった。


 「――その薄汚れた愛、私の拳で粉砕して差し上げます!」

 屋敷の強固なセキュリティシステムを物理的な衝撃で無力化し、玄関の重厚なオーク材の扉が内側へ向かって弾け飛んだ。


 轟音と共に現れたのは、海外での過酷な修行を終え、この地獄を終わらせるために帰国した12人目のメイド、凛であった。


 彼女の身に纏うメイド服は、他の11人の華美な装飾とは一線を画す、実戦のみを追求した特殊繊維による機能美に溢れていた。


 「何者ですか、この神聖な佐藤家の静寂を乱す不届き者は……。」


 結衣の声は怒りで震え、屋敷内のスピーカーを通じて凛へと突き刺さる。

 「凛……。貴女、中東の紛争地帯や秘境での武者修行に行っていたはずでは。なぜ、許可もなく帰国したのです。」


 「許可? 結衣さん、貴女たちは健太様を愛する資格を失ったばかりか、最低限の倫理さえも忘れてしまったようですね。」


 凛は廊下に立ち塞がる警備ロボットを、最小限の掌打一発でスクラップに変えながら、迷いのない足取りで主寝室へと突き進む。


 「健太様から届くはずの定期的な生存報告が途絶えたあの日、私は嫌な予感に胸を騒がせ、修行を切り上げました。ですが、まさかここまで……屋敷全体が腐臭を放っているとは思いませんでしたよ。」

 「腐臭? これは愛の香りよ! 健太を私たちの色で染め上げるための、崇高な香気なのよ!」


 遥が、その巨大な筋肉を血管が浮き出るほどに膨張させ、一階のホールで凛の行く手を遮った。


 「凛! あんた、昔から可愛げがないと思ってたけど、今度は私のトレーニングの邪魔をする気!? 私のこの『守護の拳』で、あんたを肉塊に変えてあげるわ!」


 遥は床の石畳を粉砕しながら突進し、岩をも砕く威力の右ストレートを放った。


 しかし、凛はその拳を紙一重で見切り、遥の腕を柔らかく受け流すと、その勢いを利用して彼女の巨体を壁へと叩きつけた。


 「遥さん、貴女の筋肉は『所有』のための暴力に堕ちました。私の技は、大切な人を『奪還』するための意志。今の貴女では、私の影を踏むことさえ叶いません。」


 凛は崩れ落ちる遥を一瞥もせず、階段を駆け上がる。

 二階の廊下には、志保が配置した自動迎撃システムと、怪しく光るガスが充満していた。


 「無駄よ、凛。このガスは吸い込んだ瞬間に中枢神経を麻痺させ、一生私の実験体として生きることになるわ。科学の力に、精神論で勝てると思っているの?」


 天井のスピーカーから志保の冷笑が響くが、凛は修行で会得した特殊な呼吸法により、毒素を一切体内に取り込むことなく、一気に突破していく。


 「志保さん、貴女の英知は人を救うためにあったはずです。それを健太様を閉じ込める檻に使うなら、私はその知識ごと、貴女の傲慢を叩き潰します。」


 凛は廊下の窓ガラスを割り、充満したガスを外部へ逃がすと、主寝室の前に辿り着いた。


 そこには、13個目の「愛のお守り」という名の呪いを持って、琴音が立ち塞がっていた。


 「凛ちゃん……行かせないわよ。健太様は、私の髪の毛の糸で結ばれた、運命の相手なんだから……。」


 琴音は自らの長い黒髪を鞭のように操り、凛の四肢を縛り上げようとした。

 しかし、凛は懐から取り出した鋭利な軍用ナイフを一閃させ、愛という名の執着を物理的に断ち切った。


 「琴音さん、貴女の糸は細すぎて、私の決意を繋ぎ止めることはできません。」

 「ひっ……!? 私の、私の髪が……!」

 愕然とする琴音を抜き去り、凛はついに、主寝室の重厚な扉の前に立った。

 扉の向こうからは、11人のメイドたちの狂気が混ざり合った、どろりとした気配が漏れ出している。


 凛は一度、深く息を吐き、自らの心臓の鼓動を鎮めた。

 「健太様……今、お助けに参ります。佐藤家の呪縛を、私がすべて断ち切って差し上げます。」


 凛は全身のバネを使い、主寝室の扉に向かって渾身の蹴りを放った。

 鉄板が仕込まれた扉が、まるで紙切れのように内側へと弾け飛ぶ。


 静寂と腐敗した愛が支配していた密室に、外の世界の、冷たくも清浄な夜風が吹き込んだ。


 「そこまでです、姉妹たちよ! その手を、今すぐ健太様から離しなさい!」

 凛の凛々しい咆哮が部屋中に響き渡り、結衣を筆頭としたメイドたちの動きがピタリと止まった。


 ベッドの中央、志保の薬剤で白濁した瞳を虚空に向け、11人の情念に押し潰されていた健太の姿が、凛の視界に飛び込んできた。


 そのあまりに痛々しい姿に、凛の目には涙が浮かび、しかしそれはすぐさま、鉄をも溶かすような怒りの炎へと変わった。


 「……凛……? 貴女、本気でわたくしたち全員を敵に回すつもりですか?」

 結衣が、氷のような冷徹さで凛を睨みつけた。


 「敵? いいえ、私は貴方たちを『家族』だと思っていました。ですが、家族が健太様を壊すというのなら、私は喜んで鬼にでも、羅刹にでもなりましょう。」

 凛は静かに、しかし力強く構えを取った。


 佐藤家の広大な屋敷を舞台とした、11対1の、健太奪還を懸けた死闘が、今まさに幕を開けようとしていた。


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