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『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』  作者: マサキ


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第36話:愛の墓標と静寂の檻

第36話:愛の墓標と静寂の檻


 佐藤家の屋敷を包む夜は、もはや時間の概念さえも呑み込み、永遠に明けることのない深い闇へと沈んでいた。


 主寝室の空気は、11人のメイドたちの情念が結実し、物理的な重圧となって健太の動かぬ肉体を押し潰そうとしていた。


 「健太様……。貴方の指先が、こんなに冷たくなって……。でも、わたくしには分かりますのよ。この冷たさこそが、わたくしへの純粋な献身の証なのだということが。」


 結衣は健太の手を自分の頬に押し当て、体温の失われつつあるその感触に、狂おしいほどの悦びを感じていた。

 「バイタルデータは、もはや生命の維持という目的を放棄し、純粋な『存在』としての定常状態に移行したわ。健太の肉体は今、私の理想とする完全なマテリアルへと進化したのよ。」


 志保はモニターに映し出されるフラットな波形を、聖書の記述でも読むかのような敬虔な眼差しで見つめ、キーボードを叩く指を止めることなく、健太を世界の理から切り離していた。


 「定常状態なんて言葉で片付けないでよ! 健太は今、私の筋肉が発する熱を吸収して、新しい命に生まれ変わろうとしているのよ! 私の鼓動が、彼の新しい心臓になるんだから!」


 遥は、健太の冷えた体を自らの剥き出しの肌で包み込み、自らの強靭な心筋が刻む激しいリズムを、彼の肋骨越しに直接叩き込むことで、強引な蘇生を試みていた。


 「遥……。その熱は健太様には毒よ。健太様は、私の影の中で、光も熱も届かない絶対的な安寧を求めていらっしゃる。私がその魂を、闇の奥底へと連れて行って差し上げるわ。」


 舞は影から這い出した無数の腕を健太の体に絡みつかせ、彼の存在そのものを次元の隙間へと引きずり込み、誰の目にも触れぬ「私だけの秘密」へと変貌させようとしていた。


 「舞、その湿った闇で健太様を汚すのはおやめなさい。健太様を飾るのは、わたくしが愛の言葉を刺繍したこの極上のシルクと、わたくしの吐息が染み込んだ贅沢な香りだけで十分ですわ。」


 絵里は、健太の周囲を自らの私物で埋め尽くし、彼を自らの華麗な生活の一部として、あるいは最も価値のあるコレクションとして、永遠に飾り立てることに執着していた。


 「絵里お姉ちゃん、お人形で遊ぶのは杏奈の方が上手なんだよ! 健太お兄ちゃん、今度は杏奈が描いたこの絵の中に一緒に入ろう? そうすれば、もう誰にも見つからないよ!」


 杏奈は健太の胸の上に自らのクレヨンで歪な家族の絵を描き込み、その紙を彼の肌に爪を立てて貼り付けることで、自らの妄想の世界へと彼を無理やり引き摺り込んでいた。


 「杏奈ちゃん、絵の中なんて寂しいわよ……。私の、健太様の睫毛を一本ずつ丁寧に結び合わせたこの『愛の目隠し』で、彼に私以外の光を一生見せないようにしてあげるの。」


 琴音は、健太の瞼に極細の髪の毛の糸を縫い付けるような仕草を見せ、彼を外界から完全に隔離し、自分の指先の動き一つで彼の世界が完結するように、緻密な罠を仕掛けていた。


 「目隠しなんて、健太様が私の味を忘れてしまうじゃない……。私の、自分の舌を少しずつ削って混ぜたこの『永遠の蜜』を飲めば、彼の味覚は私だけに支配されるのよ!」


 莉奈は、血の混じった不気味な液体を自らの口に含み、それを健太の動かない唇へと流し込み、彼の体内を自分の肉体の一部で満たすという、凄惨な儀式を繰り返していた。


 「莉奈さん、その鉄の味は健太様の純真を壊すわ。私の、自分の涙を蒸留して作ったこの『悲しみの水』こそが、彼を永遠の静寂へと還す唯一の聖水なんだもん……。」


 陽葵は、もはや砕け散ったティーカップの破片を健太の口元に寄せ、陶器の鋭いエッジが彼の唇を傷つけることさえも、彼と自分を結ぶ永遠の傷跡として愛おしんでいた。


 「……完璧な構図だわ。11人の狂気が健太様という名の墓標を囲み、絶望という名の賛美歌を歌っている。これこそ、私が死ぬ瞬間に書き終えるべき『愛の黙示録』の終章よ!」


 詩織は、もはや紙が残っていないにもかかわらず、自らの太腿にペンを突き立て、そこに溢れ出す血で健太への狂信的な愛の言葉を刻み込み、自らを物語の一部へと化していた。 


 「……あ…………。」


 健太の喉から漏れる音は、もはや呼吸ですらなく、ただの物理的な風の音に過ぎなかった。


 彼の心は、11の方向に引き裂かれ、もはや修復不可能なほどに細かく粉砕され、メイドたちの独占欲という名の海へと溶け出していた。


 「健太様、今、わたくしに『殺してくれ』とおっしゃいましたわね? ええ、承知いたしました。わたくしが、貴方の『生』を終わらせ、永遠の『愛』へと昇華させて差し上げますわ。」


 結衣は、健太の首筋に冷たい指を添え、その脈動の終わりを自分の指先で看取ることが、自分に与えられた唯一にして最大の特権であると信じて疑わなかった。


 「違うわ! 健太は私の筋肉の熱に焼かれて、灰になりたいと願っているのよ! 私の名前を、その消えゆく魂の最後の一火で叫んでいるのが聞こえるわ!」


 遥が結衣の手を振り払い、健太の肉体の残骸を自分のものにするべく、狂ったような力で彼を自らの懐へと抱き込み、背骨が砕けるほどの抱擁を繰り返した。


 11人のメイドたちは、健太という名の「かつて幸福であった青年」を解体し、自分たちの愛という名の供物として捧げるべく、互いの肌を裂き、髪を毟り、言葉の呪いを吐き捨てながら、その抜け殻を奪い合い続けた。


 健太の精神は、その凄まじい愛の爆心地で、もはや救済すらも拒絶するほどに、完全に、そして絶対的に消滅した。

 「……あ……ああ……。」


 健太の頬を伝った一筋の涙。

 それは、彼という人間がかつてここに存在し、そしてたった今、宇宙から永遠に抹消されたことを告げる最後の信号であった。


 しかし、その涙さえも、メイドたちは愛の結晶として、あるいは勝利の美酒として、互いの舌で貪り合い、一滴の湿り気さえも残さぬように吸い尽くした。


 佐藤家という名の密室に、もはや未来という概念は存在しない。


 11人の狂ったメイドたちと、彼女たちの歪んだ情念によって再構築された「健太」という名の空虚な器だけが、永遠に続く闇の円舞曲を、終わることなく踊り続けていた。


 「健太様、永遠に……永遠に、この佐藤家という名の、わたくしたちの愛の墓場で、幸せに眠り続けましょうね。」


 「健太、私だけのものよ。貴方の存在しない魂さえも、私の所有物として、私の心に閉じ込めておくんだから……。」

 「お兄ちゃん、ずっと、ずっと杏奈と、死後の世界でかくれんぼしようね。絶対、絶対、絶対だよ!」


 重なり合い、増幅され、反響し続ける11の呪詛に近い愛の告白が、自我を失った健太の肉体に、新しい「永遠」という名の地獄を、深く、深く、二度と消えぬように刻み込んでいった。


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