第31話:完全なる牢獄
第31話:完全なる牢獄
健太の絶叫は、佐藤家の分厚い壁と防音処理の施された調度品に完全に吸収され、外界へ繋がる窓から虚空へと霧散した。
メイドたちは動じない。
いや、むしろその拒絶こそが彼女たちの愛情をさらに燃え上がらせ、健太を所有したいという欲望を極限まで過熱させていた。
「健太様……そんなに暴れては、またお体が傷ついてしまいますわ。わたくしが、この氷のように冷たい手で、その熱を冷まして差し上げます。」
結衣が静かに、しかし逃れようのない絶対的な力で健太の細い腕を掴み、背後から締め付けるように拘束する。
その手はまるで死者のように氷のように冷たく、健太の肉体に逃れようのない絶対的な支配の力を伝えていた。
「健太の抵抗は完全に想定内。脳内物質の分泌量が異常なまでに上昇している。すぐに、完全に自我を停止させる鎮静剤を打つ必要がある。」
志保が慣れた手つきで特大の注射器を持ち、健太の抵抗する腕に躊躇なく突き刺した。
冷たい液体が血管を通り、健太の意識を急速に白濁させ、理性を闇へと叩き落としていく。
「あ……あぁ……もう、やめ……て……。」
膝から崩れ落ち、視界が二重になっていく健太を、遥が、まるで獲物を抱える猛獣のように抱きとめた。
「もう暴れないで。健太は私が守るの。私の鍛え上げられた筋肉の中で、一生動けないようにしてあげる。それが愛よ、健太。」
遥は健太をベッドへと投げ飛ばすように運び、その上に馬乗りになって体重をかけた。
「ハッ! ……フッ! ……健太……健太……健太……! 私のものよ……!」
遥の呼吸が荒くなり、彼女の瞳は愛という名の狂気に完全に支配され、健太を肉体的に完全に破壊しようとしていた。
「遥さん、その筋肉の圧迫は健太様の血流を阻害しますわ。わたくしが優しく、彼の体の隅々まで、わたくしの支配を刻み込んであげますわね。」
絵里が冷たい表情で遥を押し退け、健太の高級なジャケットを強引に脱がせながら、その肌に自分の頬を、まるで飢えた蛇のように擦り付けた。
「健太様の香り……わたくしだけのもの……この香りで、わたくしの細胞が満たされていく……ふふっ……。」
杏奈が結衣の隙間から滑り込み、健太の胸に必死にしがみついた。
「健太お兄ちゃん! 杏奈の匂い、たくさん付けてあげたよ! だから、もう他の人の匂いはしなくなっちゃったね! 杏奈だけを愛して!」
琴音が健太のベッドの周りに、無数の人間の髪の毛で作った禍々しいお守りを配置し、部屋を魔法陣のように囲んでいく。
「これで大丈夫……。健太様は、私の髪の毛という愛の糸に縛られ続けていますわ……この糸は絶対に切れないの……。」
莉奈はシチューの残りを、ドロドロのピンク色に輝く状態で、健太の口元へ無理やり運んだ。
「健太様……これを飲めば、もっとお利口さんになれるわ……さあ……莉奈のすべてを飲み込んで……。」
陽葵は部屋の照明をさらに落とし、自分の髪を煮込んだハーブティーの湯気で部屋を異様な香りで満たした。
「健太様……夢の中で、陽葵のところに来てね……だもん……もう誰も、健太様の邪魔はしないもん……。」
舞は部屋の隅で、メイドたちの様子を冷ややかに見つめながら、いつでも健太を隠せるように、部屋の床下の隠し通路の準備をしていた。
「誰も、健太様を壊しはしない。私が、この密室の中で彼を守り続ける。私の影の中に閉じ込めることが、最大の保護。」
詩織はベッドの下で、この修羅場を日記の最終章『絶対的な愛の鎖』として猛烈な勢いで執筆していた。
「メイドたちの愛が一つになり、健太様は真の幸せを手に入れた。ああ、これぞ究極の物語……誰も介入できない完璧な世界……。」
11人のメイドの狂気が、健太をベッドという名の逃れられない牢獄に閉じ込めた。
健太の意識は志保の薬で濁り、メイドたちの愛の言葉だけが、心地よい悪夢のように聞こえていた。
「僕の……僕の世界は……もう……。」
健太の視界が完全に閉ざされ、佐藤家の長い夜は、まだ終わりの見えない闇の中へと続いていった。




