第14話:聖なる夜の独占欲! クリスマス・プロポーズは誰の手に?
第14話:聖なる夜の独占欲! クリスマス・プロポーズは誰の手に?
カレンダーがいよいよ最後の一枚になり、屋敷の外では粉雪が舞い始めた。
街は煌びやかなイルミネーションに彩られ、誰もが恋人と過ごす特別な夜を心待ちにしている。
僕、佐藤健太の住むこの屋敷もまた、今日という日のために、結衣たちの手によって幻想的な装飾が施されていた。
「……すごいな。まるでお城の舞踏会だ」
リビングに置かれた、天井に届きそうなほど巨大なクリスマスツリー。
そこには本物の宝石のようなオーナメントが飾られ、暖炉には温かな火が灯っている。
「ご主人様、見惚れていらっしゃる暇はございませんわ。……本日は『聖なる夜』。私たち10人のメイド、そして美波様にとって、一年で最も重要な決戦の日なのですから」
メイド長の結衣が、真紅のドレスのような、特別仕様のメイド服に身を包んで現れた。
その瞳には、いつもの余裕の中に、隠しきれない情熱と「独占」への覚悟が宿っている。
「決戦……? 落ち着いてよ、結衣。今日はみんなで楽しくパーティーをするんじゃなかったの?」
「ふふ、パーティーはあくまで序興に過ぎません。……今夜、ご主人様には『ある決断』をしていただかなければなりませんの」
結衣が僕の耳元で囁いたその時、ドアが勢いよく開いた。
「健太! 待たせたわね!!」
現れた美波を見て、僕は息を呑んだ。
彼女はいつものジャージや制服ではなく、白を基調とした、まるでお姫様のような華やかなパーティードレスを着ていた。
「美波……すごく綺麗だ」
「……っ、当たり前でしょ。今日のために、バイト代はたいて買ったんだから。……ねえ、健太。今夜だけは、あの子たちに譲らないからね。あんたの『一番』、私がもらうんだから!」
美波が僕の左腕を強く抱きしめる。
そこへ、さらなる衝撃が襲いかかった。
「健太様ぁ~! 陽葵は、健太様への『クリスマスプレゼント』になっちゃいましたぁ!」
陽葵が、サンタクロースをモチーフにした、極限まで露出度の高いベアトップの衣装で僕の右腕に飛び込んできた。
衣装の縁には白いファーがあしらわれているが、彼女の豊かな肉体を隠すにはあまりにも面積が足りない。
「ひ、陽葵……! 寒くないの、その格好!?」
「健太様の愛があれば、陽葵はいつでもポカポカですぅ! さあ、今夜は陽葵をたっぷり『開封』してくださいねっ!」
「……。健太様、浮ついた心は禁物です。……今夜のメインディッシュは、私の知的なプロポーズ……いえ、プレゼンテーションですわ」
志保は、黒のシックなイブニングドレスに身を包み、手には一本の赤い薔薇と、何やら厚い書類を持っていた。
パーティーが始まり、最高級のシャンパンと料理がテーブルを埋め尽くす。
だが、その華やかさとは裏腹に、空気は火花が散るような緊張感に満ちていた。
「さあ、ご主人様。……プレゼント交換の時間でございます」
結衣の合図で、11人の美女たちが一斉に僕の周りを囲んだ。
「まずは私からですっ! 健太様、陽葵のプレゼントは……この『愛の引換券』です! これ一枚で、陽葵と一生一緒にいられる権利を差し上げますっ!」
陽葵が、自分の手書きだという、キスマークのついた手作りチケットを僕に押し付ける。
「……。私は、健太様と私の『将来設計図』を。……卒業後の生活から、老後の資産運用、そして……子供たちの教育方針まで、すべてシミュレーション済みです。これに署名していただければ、貴方の人生は完璧に保証されます」
志保が、法的に有効そうな書類を差し出し、僕の手をペンへと導く。
「ちょっと!! そんな重たいもの、プレゼントじゃないわよ! 健太、私からは……これよ」
美波が、少し照れくさそうに差し出したのは、手編みの赤いマフラーだった。
「……あんた、すぐ風邪引くでしょ。だから、私が守ってあげるの。……ずっと、ずっとよ」
「美波……ありがとう」
僕がマフラーを手に取ろうとした瞬間、結衣がその手を優しく、けれど拒むように遮った。
「皆様、素晴らしい贈り物ですわね。……ですが、私からのプレゼントは、もっと直接的なものです」
結衣が合図をすると、屋敷中の明かりがふっと消え、ツリーのライトだけが幻想的に僕たちを照らした。
「ご主人様。……今夜、この屋敷の地下にあるプライベート・チャペルにて、私は貴方に『永遠』を誓いたいのです。……10人のメイドを代表して。……いえ、一人の女として」
結衣が僕の前に跪き、小さなベルベットの箱を開けた。
そこには、雪の結晶を象った、眩いばかりのダイヤモンドのリングが収められていた。
「……えっ、結衣……これって……」
「はい。プロポーズでございます。……私を、貴方の『正妻』としてお選びいただけませんか?」
その言葉をきっかけに、事態は収拾のつかないパニックへと発展した。
「ずるいです、結衣姉さま! 陽葵だって、お嫁さんになりたいですぅ!」
「……。論理的に考えて、健太様のパートナーに最も相応しいのは私です」
「あんたたち、健太を独り占めしようなんて100年早いわよ!!」
11人の美女たちが、僕を奪い合って抱きつき、囁き、涙を流す。
雪降る聖夜のリビングは、一瞬にして、僕を巡る「最終戦争」の戦場と化した。
「……みんな、待って! 落ち着いてくれ!!」
僕は叫んだが、彼女たちの愛の熱量は、すでに制御不能なレベルに達していた。
左右から腕を引かれ、背中からは莉奈がおんぶし、足元では別のメイドが僕の足を抱きしめている。
「……健太様。……お選びください。……今夜、誰の腕の中で朝を迎えるかを」
結衣の瞳が、暗闇の中で妖しく、そして深く僕を射抜く。
雪はさらに激しさを増し、屋敷を白く包み込んでいく。
外の世界がどれほど冷え込もうとも、この屋敷の中だけは、11人の執念にも似た愛の炎で、燃え上がるように熱かった。
「……僕は……僕は……」
僕は、11人の美女たちの顔を見渡した。
献身的な結衣、情熱的な陽葵、知的な志保、一途な美波、そして元気な莉奈たち。
誰か一人を選ぶなんて、そんなこと、僕にはできない。
「……僕は、みんなが欲しいんだ。……誰か一人じゃなくて、11人全員と、ずっと一緒にいたいんだ!!」
僕の、本心からの叫び。
それは、本来なら傲慢で、わがままな言葉のはずだった。
だが、その言葉を聞いた瞬間、11人の美女たちの顔に、かつてないほどの輝きが宿った。
「……ふふ。……左様でございますか。……やはり、貴方は私たちの愛すべき、強欲な主君ですわ」
結衣が、勝利を確信したような笑みを浮かべた。
「いいですよぉ、健太様! 11人全員で、健太様を一生離さないってことですねっ!」
「……。合理的ですね。……ならば、今夜から『11人体制での溺愛スケジュール』を再構築いたします」
「あんた……本当にバカなんだから。……でも、そんなところも、大好きなのよ」
美波も、涙を拭って僕に抱きついてきた。
「――さあ、ご主人様。……聖夜の本番は、これからですわよ。……11人全員による、終わりのない『愛の洗礼』。……朝まで、いえ、一生かけて、受けていただきます」
結衣が僕のシャツのボタンに手をかけ、他のメイドたちも一斉に、僕という「最高の贈り物」を解体しにかかった。
雪降るクリスマスの夜。
僕は、11人の愛の牢獄に自ら鍵をかけ、彼女たちの甘い吐息と情熱の渦へと、深く、深く沈んでいった。
そこにあるのは、世界で一番甘くて、重くて、幸せな「愛の終着駅」だった。
第14話 完




