第12話:母来たる! 11人の嫁候補(?)との直接対決
第12話:母来たる! 11人の嫁候補(?)との直接対決
学園祭の熱狂が冷めやらぬ、日曜日の昼下がり。
僕はリビングのソファで、陽葵に膝枕をしてもらいながら、莉奈に耳掃除をしてもらうという、もはやこの屋敷では「日常」となった至福の時間を過ごしていた。
「健太様、動いちゃダメですよぉ。陽葵の柔らかいところで、じっとしててくださいね?」
「そうだよ、健太様。莉奈が綺麗にしてあげるからね。……えへへ、耳元でふーってしちゃうぞ」
「わっ、莉奈、くすぐったいって……っ」
左右から甘い吐息と柔らかな感触に包まれ、僕の理性は今日も今日とて溶け始めていた。
そんな、完璧に守られた「聖域」に、その声は響き渡った。
**『――ごめんください! 健太、いるの!? 母さんよ!!』**
「……え?」
聞き覚えがありすぎる、パワフルで少しお節介な声。
インターホンのモニターを見るまでもなく、僕は跳ね起きた。
「は、母さん!? なんで……今日来るなんて聞いてないぞ!」
「あら、ご主人様。お母様がいらしたのですか。……佐藤家の正室の座を巡る、最初で最大の関門ですわよ」
メイド長の結衣が瞬時に「メイド長モード」に切り替わり、背後のメイドたちに鋭い指示を飛ばす。
「陽葵、莉奈、すぐにお召し物を整えて。志保、おもてなしの準備を。他の者は玄関からサロンまでの清掃を秒単位で完了させなさい。……行きますわよ!」
「「「はいっ!!」」」
メイドたちが一斉に散る。その動きは、先ほどの甘えん坊な姿からは想像もできないほど、軍隊のように正確で迅速だった。
「ちょっと! 健太の母さんが来るの!? 私、まだ心の準備が……!」
二階で着替えていた美波も、異変を察知して階段を駆け下りてきた。
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玄関の重厚な扉を開けると、そこには派手な柄のシャツにサンバイザーという、いかにも「地方の元気なお母さん」といった出で立ちの母・恵子が立っていた。
「あら健太! あんた、連絡もよこさないでこんなお城みたいなところに……って、あらぁ!?」
恵子が言葉を失った。
玄関ホールには、結衣を筆頭に、完璧な礼装を整えた10人の美女メイドたちが、レッドカーペットの両脇に整列していたのだ。
「――ようこそおいでくださいました、恵子様。私たちは、健太様にお仕えしております専属メイド隊でございます」
結衣が深く、優雅に一礼する。
「……え、ええ!? メイド!? 健太、あんた……悪いことでもして捕まる寸前なの!?」
「違うよ母さん! これは、その……話せば長くなるんだけど……」
「お義母様! お久しぶりですっ!」
「あら、美波ちゃん! 良かったわ、健太がこんな怪しい女の人たちに囲まれてて、美波ちゃんまでいなかったら私、警察に電話するところだったわよ」
恵子の言葉に、メイドたちの間にピリッとした緊張感が走った。
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サロンに案内された恵子は、志保が淹れた一杯数千円はするであろうお茶を啜り、本題に入った。
「……それで? 健太、説明しなさい。この子たちは一体なんなの?」
「ええと……実は、僕がこの屋敷の相続人に選ばれて、彼女たちはそのケアを……」
「身の回りの世話だけではございませんわ、お母様」
結衣が隣で微笑みながら、僕の肩にそっと手を置いた。
「私たちは、健太様の『人生そのもの』をお預かりしております。生活のサポートはもちろん、心のケア、そして……将来の伴侶としての資質を磨くお手伝いも、全力でさせていただいておりますの」
**「伴侶!? あんたたち、健太のお嫁さんになるつもりなの!?」**
恵子が身を乗り出した。
「はいっ! 陽葵は、健太様の子供をたくさん産んで、幸せな家庭を築く覚悟ですぅ!」
「……。健太様の学業と健康、そして佐藤家の繁栄は私が責任を持って管理いたします」
「ちょっと、あんたたち!!」
美波が机を叩いて立ち上がった。
「健太のお嫁さんは、昔から私って決まってるんだから! おばさん、そうですよね!?」
「まあまあ、美波ちゃん。……でもねぇ、これだけ綺麗な子たちが揃ってると、健太も迷っちゃうわよねぇ」
恵子は、意外にも楽しそうな表情を見せ始めた。
「よし! ならば、私が直々に**『佐藤家の嫁』**に相応しいかどうか、審査してあげようじゃないの!」
こうして、屋敷を舞台にした「佐藤家・嫁取り合戦」という名の、地獄のオーディションが幕を開けた。
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第一審査は「料理」。
陽葵は、山盛りの肉料理で男の胃袋を狙い、志保は栄養学に基づく究極の健康食を出す。
美波は、僕が子供の頃から大好きだった「懐かしの家庭の味・肉じゃが」で対抗した。
「……どれも美味しいわねぇ。でも、美波ちゃんの味は、やっぱり落ち着くわ」
「でしょ!? おばさん、やっぱり私の勝ちね!」
「いいえ。……恵子様。料理は味だけではございませんわ」
結衣が合図を出すと、別のメイドたちが、僕の足をマッサージし、肩を揉み、口元を拭うという、至れり尽くせりの「食事介助」を始めた。
「……健太、あんた……こんなに甘やかされて、バカになっちゃわない?」
恵子が怒るかと思いきや。
「……でも、私もやってほしいわね、これ。……ちょっと、そこの可愛い子、私の肩も揉んでくれる?」
「はいっ、お母様! 喜んで!」
陽葵が恵子の背後に回り、全力でマッサージを始めた。
恵子は「あぁ~……極楽だわぁ……」と、あっという間にメイドたちのサービスに骨抜きにされてしまった。
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第二審査の「掃除・洗濯」は、メイドたちの独壇場。
そして最終審査――「健太への愛の告白」。
美波は涙ながらに幼い頃からの絆を訴え、メイドたちは一人ずつ、僕の指に、髪に、耳元に、熱い誓いのキスを落としていった。
「健太様……陽葵は、貴方のすべてを包み込みたいんですっ」
「……。生涯、貴方の影となり、光となり、お支えいたします」
「ご主人様。貴方を、世界で一番甘い地獄へお連れしますわ」
11人の美女たちに囲まれ、告白の嵐を浴びる僕。
それを見守る母・恵子。
「……。わかったわ」
恵子は立ち上がり、僕の肩をポンと叩いた。
**「健太。……あんた、いい女たちに恵まれたわね。母さん、安心したわ」**
「ええ。こんなに必死に、あんたを奪い合ってくれる子が11人もいるなんて、親孝行よ。美波ちゃんも、負けてられないわよ?」
「おばさん……! はい、私、絶対にあきらめません!」
「ふふ、美波様。……良きライバルとして、これからも切磋琢磨いたしましょう」
その夜、屋敷は大宴会となった。
恵子を中心に、メイドたちが酒を注ぎ、歌い踊る。
「……健太。あんた、幸せ者ね」
母の言葉に、僕は心から頷いた。
佐藤家の正室の座を巡る戦いは、母の公認を得て、さらに激しく、そして甘く続いていくのだった。
「……さあ、ご主人様。お母様もお休みになられましたし……。今夜は、誰が最初にお母様に『初孫の顔』を見せるか、会議をいたしませんか?」
結衣の甘美な誘惑の声が、夜の静寂へと溶けていった。
第12話 完




