前世
神からのメッセージとは?
間宮は、カードで占うだけではなく、神様の声が聞こえるという。
「声って言ってもね、本当に耳で聞こえるわけじゃないのよ。カードを引いた瞬間に、意味や言葉のイメージが自分の考えとは違うところから届く感じ。だから私は、それを神様の声って呼んでるだけよ」
昔からの知り合いに相談しているという感覚はなくなった。彼女を通して神の意思が聞けるなら是非知りたい。
「自分でも信じられないの。こんなことになってしまって。実は……あのね、私……その理学療法士の速水さんを好きになってしまったの」
もう顔をあげられなかった。
「賢哉さんは?」
「変わらず、ずっと優しい。なのに…….なんでこんなことに」
賢哉とのトラブルのすえに速水に走ったと思われたくない。悪いはわたし。
「でもね不思議なの。私の心を代弁してくれて、一緒にいてストレスがないっていうか……有り得ないんだけど、こんなに年も離れているのに縁を感じるの」
とても気のせいだと思えない。なのに浮気なんて。会うタイミングが重なったがり、危ない時に影が現れたり……偶然って言い切れないこと続いて……なんか、あからさまなまでに普通じゃない事が起きているの」
最後まで聞き終えると、間宮はカップを机に置き、しばらく目を瞑る。
「ただ一つ確かなのは」
そう言うと静かにこちらを見た。
「その人と出会って、あなたの内側が動き始めてるってこと、変化を起こす出会いは本物よ。カードで占ってみましょうか」
その言葉に、縋るように見上げる。
「そうだ、あと……あのね。さっきお昼に検索したら、ツインレイって言葉がでてきたんだけど」
ようやく言えたその一言に、胸の奥がわずかに軽くなった気がした。
「そう……そのへんもカードに聞いてみるわね」
真宮は静かにカードをきり始めた。
意志があるように飛び出したカードを含め、規則的にカードは並べられた。そして一呼吸すると、カードを順にめくり始め、そして目を瞑ったまま宙を仰ぐと、何かを聴きとるようにしながら口を開いた。
「そうね、確かに縁があるようね。深い縁が」
その第一声が、私だけの感覚ではなかったと証明されたようで嬉しい。
「あのね、物語だと思って聴いてね。前世の話しなんだけど……」
絵本の読み聞かせを待つ子供のようにワクワクしてきた。
「そうね……どこの国だかわからないんだけど……エジプトかしら」
今度は何かを注視するかのように眉根を寄せる。
「昔、歳の離れた姉弟がいました。二人は、まだ幼かったんだけど、仲のいい姉弟だったようね。しかし政治的な理由から……たぶん……お家存続とか何らかしらの理由から、結婚する事になったようね。昔は、中東とか一部の国ではそういう習慣はあったみたいなんだけど……。そう……だけど弟は、物事を理解するにはあまりにも幼にも関わらず、結局政治的な理由から殺されてしまったようね。姉は、自分が守ってあげられなかった事を、ずっと後悔しながら、最後には亡くなったようよ」
その言葉は、まるでその時代からタイムスリップしたかのように、今感じている感情そのものだった。
速水の事故がきっかけで、自分の気持ちに気付いた事もあったからなのか、守ってあげたいという感情が沸いたのだと思っていたが、もし前世の記憶が今の自分を動かしているのだとしたら、幼くして亡くなった弟を前に、次に生まれ変わって、またどこかで出会う事があったのなら、今度こそは、自分の出来る事を精一杯やって守るんだと、強く心に誓った事だろう。
翌日、母の見舞いに行く。病室を出る頃には面会時間の終わりが近づいていた。
速水が廊下に現れると、いつものように互いの帰る時間を確かめ合うでもなく、自然と足並みが揃う。
「今日は一緒に帰れそうですね」
その一言に、小さく胸が温かくなる。同時に、胸の奥で抱え続けていたものが静かに疼いた。
占いの話なんてくだらないと思われるかもしれない。
そんな考えが何度も頭をよぎるけれど、胸の奥に溜まり続けていたものを、このまま抱えたまま帰ることもできなかった。
駅へ向かう途中、街灯に照らされた歩道を並んで歩きながら、意を決して口を開いた。
「昨日……職場の先輩の間宮さんに占ってもらったの」
横を見る勇気が出ず、視線は足元のアスファルトに落ちたままだった。
こちらへ向ける気配を感じるが、否定も肯定もせず、ただ静かに耳を傾けている空気が伝わってきて、それがかえって言葉を続ける力になった。
「間宮さん、看護師の仕事だけじゃなくて……占いとかヒーリングもやっていて。新人の頃からお世話になってて、結婚のことも、賢哉のことも知ってる人なの……」
自分でも何を弁解しているのかわからないまま、関係性を説明してしまう。信頼できる人なんだと、先に理解してもらいたかったのかもしれない。
小さく息を吸い、続ける。
「それで……私たちのことを少し話したら」
一瞬、言葉が詰まる。本当に口にしていいのか、最後の迷いが胸を掠める。
「不思議な縁があるって言われて」
歩幅がわずかに乱れ、鼓動がやけに大きく響く。
「もちろん、全部をそのまま信じてるわけじゃないの。
ただ……」
この気持ちが、ただの気の迷いとか、寂しさから来てるものじゃないと、思いたかったのかもしれない。ようやく速水の方を見上げる。
「……知っていてほしくて」
夜風が静かに吹き抜け、言葉の余韻だけが二人の間に残った。
足元を見ながら続ける。
「話してきたけど、何だか最近不思議な事が起きているのが、単なる私の妄想や、年甲斐もなく湧いた恋心を、普通の浮気と同じに思われたくなくて……速水さんには知っていてほしかったんです」
「不思議な話ですね」
その穏やかな返事に、胸の奥の緊張がほどけていく。
ありのままの自分を見せても拒まれないという、確かな安心感があるからこそ、隠そうという発想がないのかもしれない。
「ねぇオモシロイと思わない、前世で姉弟だったなんて……本当にこんな事があったと思う?」
ずっと否定してきた浮気や不倫。その違いが何なのかもわからずただそれはいけない事だと思ってきたが、真宮によって深い縁があると言ってもらえただけで、自分の中に新しい解釈が生まれた気がした。
ここからどうなって行くのでしょう?




