ツインレイ
ありえない出会いに意味があった。
最近、思ったことが現実になっている気がする。
美術館でのこと。そして、あの危うい瞬間に差し込まれた偶然。そこに感じる違和感の原因は、奇跡のようなタイミングだった。
昼休み、ふと思い立ち携帯を取り出してみる。
『危険な時に必ず現れる人 意味』
胸の奥がざわつく。答えを探しているのか、何を確かめたいのか、自分でも分からない。
『タイミングが合いすぎる人 偶然』指が止まらない。
『魂のつながりがある人』
そして、一瞬の沈黙のあとに表示された言葉に、視線が吸い寄せられた。
——ツインレイです。
魂の対。
試練。
強烈な引力。
避けられない出会い。
こんな言葉を信じられるはずもない。看護師として現実を見てきた人間が、そんな言葉に救いを求めるなんて。
——間宮さん。彼女ならわかるかもしれない。
ふいに思い浮かんだのは、職場の先輩だった。
新人の時、アソシエイトナースとして担当してくれて、結婚式にも来てくれて賢哉の事も知っている。それに彼女は、看護師とは別に、占いとヒーリングを副業にしていて、仕事以外でも何かと相談に乗ってくれた。
「でも……」
だからといって、こんな話をしたらどう思われるかを考えると、安易に相談も出来ない。大切だからこそ嫌われたくないと思ってしまう。
自分の中でさえ整理がつかず、ため息をひとつつくと、携帯を閉じた。
ツインレイ……
頭の中でキーワードを繰り返す。こんなの現実離れしているとわかっている。なのに否定できないどころか、心の奥で確信している。
間宮さんなら、なんて言うんだろう?
一日の仕事が終わり、更衣室へ向かう廊下を歩き出す。
頭の中では、速水のこと、美術館のこと、偶然の重なりが何度も巡っていた。
——考えすぎだよね。
そう言い聞かせた瞬間。
「詩乃ちゃん、お疲れ様ー」
という声にはっと顔を上げる。
「あっ……間宮さん」
また叶った。
「顔が険しいけど、何かあった?」
見透かされている。
「いえ……大丈夫です」
反射的にそう答えたけれど、間宮は微笑んだまま首を傾げる。
「大丈夫って言う人ほど、大丈夫じゃないんだよね」
ずっと張りつめていた糸が音もなく切れたみたいに、返事をしようと口を開いた瞬間、視界がにじんだ。
自分でも驚くほど唐突に、涙が溢れてくる。こんな場所で泣くつもりなんてなかったのに。
「ご、ごめんなさい……」
理由を説明できるほど、気持ちは整理されていなかった。ただ、誰にも言えずに抱えていた罪悪感も、抑え込もうとしていた感情も、一人では抱えきれないところまで来ている気がした。
「場所、変えよっか」
仕事終わりで疲れているのに、時間を作ってくれる優しさに、小さく頷いた。
「よかったらうちに来ない?」
間宮は最近、病院の近くに家を買い、両親と同居を始めたと言っていた。そして着替えを終えると、駅とは逆の方へと歩き始めた。
「これ飲んで少し待ってて」
熱いお茶を出してくれると、子供を預けにいった。もう、どこから話そうかと迷っている場合ではない。
「忙しいのにありがとうございます。実は母が先日病気で倒れて、それから色々な事が起きて。もう自分ではどうしたらいいのかわからなくて……」
間宮は正面に座ると、穏やかに頷く。
「それだけじゃないんです。何だか急に不思議な事が起きていて……こんな話、間宮さんならわかると思って、相談したかったんです。だけど、人に言える話でもなくて……」
迷惑はかけられないと思うのに、言葉が胸の奥で渦を巻き、どこからほどけばいいのか分からない。
美術館のこと。
偶然の再会。
胸を締めつける感情。
「……あの、母のリハビリを担当してくださっている方がいて」
やっと出た言葉は、ずいぶん遠回りな入口だった。間宮は何も言わず、ただ続きを促すように視線を向けている。
「速水さんっていう理学療法士の方なんですけど……最初は、本当にそれだけで。母のことで助けてもらって、感謝していて……」
そこまで言って、息が詰まる。
違う、それだけじゃない。自分でも認めたくなかった部分が、喉の奥で引っかかる。
「あのね、私の事を気にする必要はないわ。ジャッジしないから」
「ジャッジですか?」
「そう。物事には、良いも悪いもないのよ。本当は」
そんなはずはない。
「だってね、極端に思うかもしれないけれど、戦争の時は、人を殺めることでさえ正義になるじゃない。それに、一夫多妻制のある国もある。つまり、時代や地域で変わる正しさに絶対はないってことよ」
「だけど……」
悪いものは悪いという考えを変えられない。
「それより、話を進めましょう。でも不思議ね、ちょうど今朝に詩乃ちゃんの事が気になっていたけど、こういう事だったのね」
やっぱりわかっちゃうんだ。
見透かされているような気がした。もう全てを話してもいいと思った。
日々の生活の中で、サポートが入っていることに、気づいている人はどれほどいるのだろう?




