裏話11_エセル失踪!
レア・マーデの内陣内の一室、一般市民なら一家族分と言っても良い広さの部屋で少女は大声を上げた。
「エセル様が失踪!?、どういうことです。」
少女の名はクリスティア・マイセン、エセルの婚約者である。
目の前の地味な服装の男が頭を下げる。
「姿を見掛けないので村人に尋ねたところ、2週間ほど前にこの地を離れたということで・・・」
男の名はスタンリー、マイセン家の情報部のトップになることを蹴ってクリスティアに使えることを選んだ変わり者でもある。
彼がエセルの調査、監視をするようになったのは今から5年前、クリスティアとの婚約の話が出た時だった。
その時点で既にエセルは学院を卒業し、城塞都市には殆ど姿を見せることが無かった。
その為フリーダ領の村に偵察に行ったところあっさりバレた・・・
元々村民の数が多い訳でなく家族・親戚で皆生まれた時から顔見知りで構成される村だ。
余所者が村に近付いただけで注目を集める。
亡くなった奥方や後妻の一件でマーデの都市の住人に対し、敵意を持つ村民は多かった。
何度か接触を試みた結果、曖昧な態度だと殺されかねないと判断する。
彼は大事なお嬢様との婚約の話が出ていること、その為の調査としてきたことを実直に話した。
何度か誠実に対応し、彼の方にエセルや村に悪意や害意が無いことが村民に伝わるとスタンリーに対しては村民達の態度が軟化していく。
そうやってフリーダ領で領主一族や村人と関わるうちにそれなりの信頼関係を築いてきた。
そんな彼がエセルの失踪を2週間も気付かなかったのは・・・単純に別件で駆り出されフリーダ領に行けなかったことが原因だ。
彼の部下や同僚は村民達との信頼関係が無く、誰一人として村に近付けなかったのである。
そじてクリスティアも彼らが平気で憶測の報告をすることを知っているのでスタンリー以外を信用していない。
別件から戻ってきて早々にフリーダ領に派遣してエセルの失踪を知ったのであった。
スタンリーの報告を聞いてクリスティアは何故、エセルが失踪したかを理解した。
「なるほど、教会の干渉ですか・・・」
フリーダ家に聖遺物があるというのは昔から知られている話だ。
1000年前、教祖トリスタンがマーデに来訪した際、滞在した家。
手紙や指南書が代々伝わっており、トリスタン教会は折に触れ、手に入れようとしている。
そしてその関係者が不審死するという伝説まである。
聖遺物を引き継いでいるフリーダ家の、そして代々引き継ぐ際公開され立ち会う者達が何事も無いことを思うと聖遺物そのものに問題は無い。
次の継承に向けて誰が立ち会うかで教会や大学、研究者が盛り上がっていることも聞いている。
「フリーダ家の宝に手を出すものは呪われる。」
これが伝説ではなく実話であることはマーデの貴族や教会関係者はよく知っている。
そして現在のマーデの教会のトップは腐敗した上層部を一掃して乗り込んできた新任の枢機卿。
清廉で真っ当な枢機卿、マーデにおける一般市民の評判は良い。
法王の信任も厚く、実務能力も優れている。
そしてコミュニケーション能力も高くカリスマ性も強い。
彼が説法をする時は聖堂に人が溢れると言われている。
そんな相手との付き合いにマーデの有力者の多くは試行錯誤している。
そして彼は継承時の立会いに名乗りを上げている。
彼の目的は聖遺物を見ること、そしてそれを教会に寄贈させることだろう。
それが教会の陰にいるものの怒りを買うとは知らずに。
「呪の話はご存じないのでしょうか?」
スタンリーの言葉にクリスティアは首を横に振った。
「前にお会いしたことがあるけどご存じだったわ。」
クリスティアは後継者であるエセルの婚約者。
会話にはフリーダ家の聖遺物の話が当然出る。
「知っていて何故・・・」
「ご自身に後ろ暗いところが無いからでしょうね。・・・」
悪意が無いから呪いには掛からない。
そんな単純な話ではないことに何故気が付かないのだろう。
「この1000年の間、フリーダ家に手を出そうとしたものが悪人だけだと何故思えるんでしょうね。」
クリスティアの言葉にスタンリーは視線を下に向けた。
「自分が正しいと思っている者の傲慢ですか。」
歴史を調べれば、呪は老いも若きも、善人も悪人も関係なく発動していることが分る筈だ。
一度発動すれば関係者を根絶やしにするまで刈り尽くす。
そこにフリーダ家の意思等無い。
亡くなった当主の奥方の事故の後、関係者の不審死が相次いだ。
その中には奥方の親友やその家族、フリーダ家が親しくしていた者も含まれる。
先代の法王が在位していた時の話だ。
今の法王や枢機卿はその頃は法王国に居て当時のことを知らないのだろう。
呪が発動するのはそう遠い話ではない。
そう思ってクリスティアはため息を吐いた。
閲覧、有難うございます。
フリーダ家の方はスタンリーが暫くこっちに来ないことを見越してエセルを巡礼に出しました。




