↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/25

15歳の巣立ち(後編)

前章では、大樹の異動や夏帆の敦賀南中学への入学など、新しい生活が始まりました。敦だけが陽生学園第二高校に入学し、寮に入るのを待つだけとなり、前日や出発当日の状況が描かれました。前日の夜、敦は入寮への心配や不安、寂しさから就寝後に号泣し、ひろみが励ましました。出発のとき、ひろみは改札からホームに行く敦の後姿を見ながら、なんとも言えない気持ちになり、泣き出しました。


一方、敦と大樹は無事に津にたどり着きました。本章では、敦と大樹が入学式前日と入学式当日にどのように感じながら迎え、敦が巣立っていったのかを描きました。

(1) 巣立ち前夜


大樹と敦は、敦賀から電車を乗り継いで津駅に20時近くに到着し、予約した駅前のスターイン津駅前ホテルにチェックインして、客室に入って荷物を置いた後、フロントに鍵を預けて夕食を食べに外に出た。大樹が「何、食べたい?」と聞くと、敦が「なんでもいいよ」と答える。駅前には多くの居酒屋があり、肌寒さの中で焼き鳥等の匂いが食欲をそそる。


大樹が「居酒屋でいいか?」と聞くと、敦は「いいよ」と答える。大樹は、敦とは今日が最後だし、明日から寮に入り決まった食事を食べるので、今日は腹一杯食べさせようと思っていたので、居酒屋ならいろいろ食べられるからいいのではないかと思い、居酒屋の中に2人が入った。居酒屋では4人用個室に通されて、2人が座り、大樹がメニューを取り、敦と一緒に見ながら「焼き鳥でも食べるか?」と聞くと、敦が「いいね」と答える。


大樹が「他にないか?」と聞くと、敦が「刺身、ポテトフライ、豚キムチ炒め、イカの姿焼き、唐揚げ」と答えるので、大樹が笑いながら「いや…食べるね」と言うと、敦が「腹減ったし、明日から好きな物食べられないからね」とにこやかに答える。「お父さんは何を頼むの?」と聞くので、大樹が「まずはビールかな。お前も何かドリンク頼んでいいよ。それと、枝豆、揚げ出し豆腐かな」と答え、「とりあえず頼むか?」と聞くと、敦は「いいよ」と答えて、ボタンを押して店員にオーダーを通す。


しばらく待つと、ビールとコーラの飲み物とお通し、刺身が来たので、大樹が「敦の今後に乾杯」と言い、グラスを当てて、大樹は半分位まで飲み、敦も飲む。大樹が「まあ、刺身でも食べれや。明日からは食えないからな」と言い、敦が口にほおり込み、大樹も食べて「美味しいよな」と言うと、敦も「美味しいよな」と答える。居酒屋での二人の宴は、しばらくの別れを惜しむかのように会話を楽しみながら進むのであった。


大樹はほろ酔い気分で、敦は満腹感を味わいながら、居酒屋の外に出ると、春の夜の冷たい風が心地よく顔に当たりながらホテルに戻るのであった。スターインホテルは大浴場があるので、大樹が「大浴場でも行くか?」と聞くと、敦が頷くので、タオルとバスタオルを持って大浴場に行く。体を洗い、浴槽に入りながら、大樹が「気持ちいいな」と言うと、敦が頷き、他愛もない会話を楽しみながら入浴を味わった。


部屋に戻ったのが23時だったので、大樹はガーメントバッグから敦の制服を取り出し、ホテルのハンガーに掛け、敦の着てきた洋服をガーメントバッグに入れる。また、自分のスーツをガーメントバッグから取り出して、ホテルのハンガーに掛け、ガーメントバッグに着てきた服を入れて、入学式に行く準備を完了した。


大樹が敦に「明日の準備が終わったから、そろそろ寝るか」と聞くと、敦が「わかった」と言い、大樹が「明日は8時出発だから、7時前に起きて朝食食べて行くよ。では、お休み」と言うと、敦が「わかった。お休み」と言い、消灯してベッドに入る。大樹は、朝、抵抗しないことを懸念して「明日は大丈夫かな」と考えて眠れなかったが、横から寝息が聞こえたので、寝れたみたいだなと安心し、大樹も眠りに入って行き、巣立ちの前夜は終わるのであった。


(2)別れの朝


朝、6時30分に大樹が起床すると、既に敦は起きていた。大樹が眠い目をこすりながら「おはよう。着替えて、朝食食べに行こうか」と言うと、敦が「おはよう!、わかった」と答え、敦は制服に、大樹はスーツに着替えて部屋を出た。


1Fに降りて、朝食コーナーに着く。朝食はバイキング形式であるため、大樹は洋食スタイルで、トースト、スクランブルエッグ、ベーコン、サラダを、敦は和食スタイルで、ご飯、味噌汁、焼き魚、海苔、ひじきの煮物、スクランブルエッグ、ベーコン、サラダを取ってきた。大樹が「よく、食べるな」と言うと、敦が「寮に入るまでに腹一杯食べないとね」と笑って答える。二人は別れを惜しむように、何気ない会話を楽しみながら食べるのであった。大樹も敦も食事を終えた後、コーヒーとヨーグルトを食べて、満足しながら最後の食事を終えた。


その後、洗面等を済ませて、ホテルをチェックアウトし、津駅に向かった。


津駅では路線図と料金表を見て、榊原温泉口までの切符を買い、ホームに向かう。いよいよ、陽生学園第二高校に向かうのである。8時10分頃に、鳥羽行きの急行に乗り込み、乗換駅である伊勢中川へ向かう。車内は空いており、二人はシートに座る。電車は、津や久居市街を通り抜けると、田園地帯を走り、それに太陽が照りつける。大樹は「さすが、太平洋側だな」とかたわいもない話をしていると、8時30分前に伊勢中川駅に到着する。


ホームを降りると、同じ電車から、大樹と敦のように、保護者と陽生学園第二高校の制服を着た生徒がところどころ見られた。大樹が敦に「お前の同級生になるやつらだな」と言うと、敦が「そうやね」と答える。大樹と敦は、伊勢中川始発の名張行きの普通電車に乗り換え、着席すると、ほとんどの乗客が、保護者と陽生学園第二高校の生徒であり、大樹の正面にはお母さんらしい保護者と背が高い男子生徒が座った。その生徒は、カバンの中からゲーム機を取り出して遊び始める。敦は、学校が近づいてくる現実感から緊張し始めるが、大樹は、前の生徒を見て「腹一杯、ゲームをさせているのだろうな」と思っていた。


電車は、20分位で榊原温泉口に到着すると、多くの保護者と生徒が降りてきて、改札口を通る。


駅前広場には陽生学園行きの観光バスが駐車しており、案内役の先生に従い、バスに乗り込む。敦の緊張は最大になり、顔が赤らめ、心臓の鼓動が大樹まで伝わってくる。大樹が小声で「緊張しているのか」と聞くと、敦が頷く。大樹が「そうか、それはしょうがないよな」と答えるだけしかできなかった。


バスは榊原温泉口駅を発車し、しばらく田舎道を走った後、峠道に入り、頂上付近の門から陽生学園第二高校に入る。敷地の道の端には満開の桜が、敦を含む新入生を歓迎するかのように咲き誇り、山とのコントラストが美しく、眼下には津市の他、四日市や名古屋までの街並みが太陽に照らされながら輝いていた。


(3)入学という別れの時


バスは、陽生学園第二高校の敷地内をしばらく走り、玄関に着き、大樹と敦が降りる。玄関の中では在校生が受付に立っており、敦が名前を言うと「敦のクラスは1年4組で、寮は至天寮です。至天寮行きのバスに乗ってください」と言われる。敦と大樹はバスに乗り込み、更に先まで進み、5分ほどで到着する。


大樹と敦はバスを降り、寮の前に生徒がおり、受付をしていたので、大樹は「お前が名前を言え」と小声で言うと、敦が「1年4組の野坂です」と震えた声で言う。在校生が1人来て「案内します」と言い、二人は敦が今日から寝たり勉強したりするブースに着いた。そこには勉強机とベッドが2つあり、横が面倒を見る先輩のエリアで、敦のエリアには宅配便で送った荷物と衣装ケースが2個あった。


大樹は箱から衣類を出して、寮着はハンガーに、下着は衣装ケースに入れるなどの片付けをする。大樹は「ひろみを連れてきたらよかったな」と思いながら、衣類の片付けを終える。大樹が「これで終わったな。今日からここで再出発か」と言うと、敦は緊張が最大限なのか、声が出ずに頷くしかできない。


11時30分過ぎ、校内放送で「保護者の方は、自らの荷物を持って、バスに乗り、食堂に集合してください」との放送があったので、大樹が「じゃあ行くな。元気で頑張れよ!」と言うと、敦は不安そうな顔で「わかった。俺、高校では卓球するから」と答える。大樹は「あのな、せっかく親から離れたのだから、好きなことしなよ。卓球にこだわる必要ないからね。まあ、入学式後に来れたら、また話そう!」と答えて、寮を出た。大樹は帰る前に少し顔を見ていけると思っていたが…。


大樹は食堂に行くと「昼食を食べてください」と言われたので、列に並び昼食のカレーとサラダ及び牛乳を受け取って、一人で食事を取りながら敦のことを心配していたので、カレーの匂いや味を感じることができなかった。すると、放送が流れて、大樹は体育館に移動して、教頭先生から学校の教育方針やお願いを聞くのであった。


一方、敦は大樹が食堂に行った後、これからの生活に不安を感じるとともに、ここにいてもいいのかなと思いながら、自らのブースの椅子に座り、配布された携帯電話のカレンダーを見ながら「早く、帰りたいな。ゴールデンウィークにならないかな」と思っていた。緊張しながら座っていると、横の先輩が「野坂君やね、2年4組の田崎だけど、よろしくね」とブースに来て、敦が「よろしくお願いします」と答える。田崎が「今からご飯を食べに食堂行くよ」と言われ、敦は緊張しながら食堂に行き、列に並び、昼飯を食べる。田崎と話をしたが、緊張やこれからの生活の不安から何を話したか覚えていなかった。


13時30分、体育館では学校での話が終わり、在校生が席に座り、話し声がガヤガヤ聞こえていた。大樹は「高校生やな」とほのぼのと思っていると、何かのタイミングで話し声が聞こえなくなり、マイクから「第37回 陽生学園第二高校、入学式を開始します」と司会の先生が大声で言う。吹奏楽部が演奏を始め、新入生が不安そうに、猫背姿でうつむいたまま入場する。新入生は、高校に入る嬉しさよりも、これからの生活に対する不安が感じられるようであり、敦も不安げに入場してきたのを大樹も見ていて「大丈夫かな」と思うのであった。


新入生が入場すると、司会の先生が「君が代斉唱、生徒起立」と言うと、体育館にはドッと大きな音がして在校生が大きな声で歌うのを見て、大樹は高校の時の筑紫野産業高校の厳しさを思い出し、驚愕していた。勿論、校長の挨拶もダラダラ起立するのは新入生だけで、在校生はビシッと起立・礼を揃えながら行い、校歌も大声で歌っていた。大樹は在校生を見て「これは昔のスパルタ教育の名残だな。敦、大丈夫か!」と何度も思うのであった。


入学式の終了後、生徒主催の新入生歓迎会が行われ、各部の発表が行われ、体育館に張り詰めた緊張が和やかな空気に変わり、たまに笑いを含めながら会は進み終了した。


その後、保護者は教室に行くと1年4組のホームルームが始まった。生徒は席に座り、保護者は後ろから見守った。敦の担任は南田という少し強面の教師であったが、生徒に対して次のことを言っていた。


今から、慣れない生活だけど、一緒に克服しよう。


悩みなどがあったら、すぐに相談してね。


その後、ノートを一人一人に配り「ここに、嬉しかったこと、悲しいこと、悩みなどを毎日書いて提出してね」と指示。


君たちには厳しい話であるが、明日から毎日の朝テストがあるから寮の先輩と勉強してね。また、月間、読書1000頁運動として、毎朝20分読書の時間があるので、ゴールデンウィークまでに1000頁読んでね。終わらないと帰省できないから。


大樹は「この学校、意外と厳しいけど、敦、大丈夫かな」と思うのであった。その後、ホームルームが終了し、生徒たちは帰寮していく。その後、保護者が生徒の席に座り南田の話を聞く。南田は、学校生活のことや、子供を自立させるために保護者から電話するのを控えてくれとのお願い、子供に異常が感じられたときは、躊躇せずに電話をしてください。手遅れになってはいけないので、と説明を終えた後、「最後にお願いですが、今日は生徒に会わずに帰ってください。子供が帰りたがり、大変なことになりますので、お願いします」との説明があり、南田の説明は終了した。


大樹は玄関から榊原温泉口行きのバスに乗り、陽生学園第二高校を後にする。道沿いの桜を見ながら「15歳で巣立たせるのは可哀そうだな。これから大丈夫かな」と心配しながら、景色を眺めて駅を目指すのであった。


(4)安堵感と寂しさ


バスは榊原温泉口に着き、京都までの乗車券と特急券を購入するため、窓口に並んでいると大樹の携帯電話が鳴った。大樹が履歴を見ると敦だったので、通話ボタンを押す。大樹は、敦に何かあったんじゃないかと思いながら、「どうした?」と聞くと、敦が「先輩から電気スタンドが必要だと言われたので送って欲しい。また、1000頁運動で本が必要だから、西村京太郎の推理小説も送って…」と言う。大樹が「わかった。明日送るから、ところで、今何しているの?」と聞くと、敦が「一人で携帯見ながらボケッ…としている」と答える。


大樹が「横の先輩は面倒見てくれないの?」と聞くと、敦が不安そうな声で「寝てる…」と答える。大樹は「先輩が面倒見ると言いながら、野放しか…騙されたな…」と陽生学園第二高校に対する不信感と敦の今後の生活に不安を感じたが、それを言うと本人が不安になることを懸念して、心を鬼にして「今から、切符買うから、電話切るね!ゴールデンウィークは待ってるからな」と言い電話を切った。


駅のホームに入ると、すぐに特急電車が入線して乗り込み、指定された席に座る。電車は、駅を発車して山を登り始め、東青山駅を通過すると新青山トンネルに入り、電車は陽生学園第二高校から離れていく。電車から見る山や田舎の風景の中に春の柔らかな日差しが降り注いでいるが、大樹は後ろ髪を引かれながら、敦賀に帰っていった。


敦賀に帰り、自宅に着いたとき、大樹は無事に敦を陽生学園第二高校に入学させたことに安堵感を覚えた。しかし、夕食を食べるときにいつもいる敦の姿がないことや、敦の部屋が静寂に包まれているのを見て、大樹は一抹の寂しさを感じるのであった。


次回は、最終回として、敦の高校入学以降のエピソードをトピックのような感じで描いていきます。

本章では、大樹の異動や夏帆の敦賀南中学への入学、新しい生活の始まりとともに、敦が陽生学園第二高校に入学し、寮に入るまでの前日と当日の様子を描きました。入寮前夜、敦は不安や寂しさから号泣し、ひろみが励ます姿が感動的でした。また、出発当日、ひろみが涙を流しながら見送る姿も心に残ります。


一方、敦と大樹は無事に津にたどり着きました。そして、敦が入学式を迎え、新しい環境でどのように感じながら一歩を踏み出していくのかが描かれました。大樹と敦の父子の絆や、敦の成長に対する期待と不安が交錯する姿が印象的でした。


次章では、敦の高校入学後のエピソードをトピックのような形で描いていきます。彼の新しい友人や学校生活、そして成長の過程においてどのような出来事が待ち受けているのか。敦がどのように困難を乗り越え、新しい環境に適応していくのか、どうぞご期待ください。


そして、次章が最終章となります。これまで物語をお読みいただきありがとうございます。最後までお楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。