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15歳の巣立ち(前編)

前章では、寂しい卒業式も終わり、陽生学園第二高校に行き、制服等の物品を引き取るなど、新しい生活の準備も終わりました。本章では、4月に入り、大樹の異動や夏帆の敦賀南中学への入学など、新しい生活が始まる中、いよいよ敦の旅立ちが迫ってきた前日や当日の様子を描きたいと思います。

(1) 大樹の新たな門出


4月1日、雲の切れ間から陽が差しているが、北陸の4月の朝晩は冷え込んでいる。大樹は異動で敦賀事務所 安全品質統括部 危機管理・品質保証統括室(通称:危機品)に異動のため、スーツに身を包み、少し緊張しながら車に乗り込み、敦賀事務所に向かった。玄関に着き、2階の左端の一角が、危機品のエリアである。ドアを開けて入ると、正面に安全品質統括部長の三宮、その右横に次長の岡尾と嘱託の吉井が座り、左側に中田室長、その横に山井室長代理が座り、真ん中のデスクに一般職の平崎と山中が座り、事務の女性の竹下が座っていた。


大樹は三宮のところに行き、「本日から赴任します野坂と申します」と挨拶すると、三宮が中田のところに案内し、「野坂さんのことはよろしく」と言われた。中田が「野坂の席はここで、紹介と業務の説明は後程行うから」と言い、大樹は新しい席に荷物を置いた。その後、朝礼で挨拶を行った後、中田とともに各所への挨拶回りに出かけた。ところどころで知り合いも多かったので、少し緊張が緩和された。


その後、大樹は中田と会議室に行き、業務の説明を受けた。業務の内容は、平崎とペアで緊急時対策所の機器の管理、規定の整備、その他平崎のフォローが主な仕事であり、4月8日の半日休暇と4月6日と4月9日の有給を取得した。


一緒に仕事をする平崎は、50歳前後で背が180cm位と高く、メガネをかけた優しい感じの人であった。仕事は、平崎と一緒に行うOJT(On-the-Job Training)方式であり、始めは緊急時対策室のチェックシートを確認しながら点検を行い、その後に毎日行う業務の説明を受けた。その後、規定と各所への連絡先の改定を指示されながら行う。このときに、異動時期である4月、7月、10月、1月は多忙であると説明を受けた。改定作業をしたが、各所からの連絡が昼から夕方にかけて次々と入ってくるため、初日から残業となり、自宅に帰ったのは21時であった。


さらに、この部署では、危機管理が大きな仕事であり、プラントで事故・トラブルが発生したときは緊急時対策室が立ち上がるため、退勤後や休暇中も緊急電話で呼び出される多忙な部署であることに後程気づき、「とんでもないところに来たな…」と感じた。しかし、周りが協力的であり、現場上がりのザックバランな方々だったので、楽しく仕事をしていたし、いろいろな経験をすることができ、大樹の成長に寄与したのだった。


(2)新たな挑戦へと続く道


4月6日(水)、朝は相変わらず寒いが、少し日が差す朝であった。夏帆が真新しい制服に着替え、大樹とひろみ及び夏帆は車に乗り、敦賀南中学に向かった。大樹とひろみは、敦賀南中学で敦の対応が良くなかったため、できれば他の中学に行かせたかったが、田舎であるため越境入学の制度もなく、仕方なく入学させるしかなかった。


グランドに車を止め、殺風景なグランドを歩いて体育館に向かうと、校舎や体育館の周りの桜が満開になっていた。体育館の前に張り出されたクラス分けに従い、夏帆は無表情で、不安そうに自分のクラスへ向かい、大樹とひろみは体育館に入る。夏帆は、小学校では無視されたり、悪口を言われるなど辛い思いをしており、同じ小学校からの生徒も多いため不安で、本当は学校に行きたくなかった。しかし、兄の敦が陽生学園第二高校に入学して寮に入るのを見ていたため、それだけは避けたいと思いながら、この日を迎えたのだった。


大樹もひろみも「夏帆も不登校にならなければいいな…」と思いながら、入学式を見守った。夏帆は1年3組になり、入学式では担任の先生の紹介があり、麻生が担任になった。麻生は昨年まで3年生の担任で進路担当をしており、陽生学園第二高校の川村とも会っている教師であった。また、他の1年生の担任も昨年までは3年生の担任だった先生であった。大樹とひろみは、夏帆が楽しい中学生活を送れることを願いながら、家に帰るのであった。


自宅に帰ると、敦はゲームを楽しんでいた。大樹もひろみも、明後日からゲームもできなくなるため、何も言わずにたっぷりゲームをさせてやろうと思い、その姿を見守るのであった。


昼食を食べたあと、敦はゲームをしていたが、14時頃に「陽生学園第二高校の制服を着て中学に行き、明日から行くことを伝えたい」と言い出した。大樹とひろみも「今更…」と驚いたが、わがままを言えるのも明日の夕方までなので、ひろみが「わかったよ、じゃあ制服に着替えて」と答えた。


敦は制服に着替え始めた。制服はブレザーで、ネクタイを締めなければならないため、大樹がネクタイの締め方を教えながら制服を着せた。大樹とひろみは「何か、大人びてるね…」と言い、夏帆は「制服かっこいいね…」と言った。敦のブレザー姿は、大人びた感じであり、これからの生活に期待を感じさせるようだった。


15時過ぎ、敦とひろみは学校に出かけた。いつものように玄関に着くと、近くの桜の木が満開であり、昼を過ぎると暖かくなり、小鳥のさえずりが敦賀南中学に響き渡っていた。玄関前には卒業生らしい高校生が5人おり、その中に敦の知り合いらしき高校生がいた。彼の名前は竹田で、小学校のときに同じクラスで仲が良かったとのことで、敦賀市にある私立西福高校へ進学したらしい。一緒に西福高校に入学した同級生と中学に遊びに来ていたようだ。


竹田が5人の生徒と近づいてきて、「敦やん、久しぶり。そんな制服見たことないけど、どこに入学したの?」と聞いてきたので、敦が「三重県にある陽生学園」と答えると、竹田が「へ…家から通うの?」と聞いたので、敦が「明日から学校に行き、寮に入る」と答えた。竹田が驚いた顔で「ほんまか…寮に入るの嫌じゃないの?」と聞いたが、敦は「仕方ないよ、そこしか入れなかったからね…」と答えた。


竹田が「そうか、大変やな…ところで、何で中学来たん?」と聞いたので、敦が「明日から三重に行くので、挨拶しにきたんよ」と微笑みながら答えると同時に、上野が玄関に出てきて、笑いながら「お…お前ら、高校の制服、様になっているじゃん…」と言い、生徒達を見回したところ、見慣れない制服の生徒を見つけ、驚きながら「お…敦、その制服かっこいいやん、今日はどうした」と聞いてきた。敦が「明日から三重に行き、入寮するので挨拶しにきました」と答える。


上野が「そうか、体に気を付けて、頑張れよ!」と言うと、敦が「卒業式では写真を撮らなかったので、写真を撮ってください」と頼むと、上野が「わかった」と答え、敦と上野のツーショットで写真をひろみが撮った。ひろみが敦に「友達はいいの?」と聞くと、敦が「写真撮っていい?」と聞く。竹田が「いいよ、みんなも呼んでいい」と楽しそうに言ったので、敦が「いいよ」と答え、上野と竹田を含む5人で写真を撮った。


その後、敦が「ありがとう」と言うと、上野がにこやかに「明日から、頑張れよ!」と励まし、竹田を含む3人も「敦、元気でな…」と言い、別れた。敦の卒業式は誰とも写真を撮らない寂しいものであったが、中学の制服姿ではないが、みんなで写真を撮れたので、挨拶に来てよかったと思いながら、中学を後にするのであった。


(3) 最後の夜


敦とひろみは自宅に帰るため車に乗る。ひろみは夕食を何にするか迷っていたので、「何が食べたい?」と聞くと、敦が「焼肉」と答える。ひろみが「わかった。そうするか」と微笑みながら答える。その後、スーパーに寄り、焼肉の材料を買って帰る。



ひろみと敦が帰ってくると、大樹と夏帆が「おかえり~」と言い、大樹が「どうだった?」と聞くと、敦が「先生とも写真撮ったし、遊びに来ていた同級生とも写真を撮ったよ」とにこやかに答える。大樹が「そりゃ~よかったな…」と驚きながら言う。大樹が敦とひろみに「今日の夜はどうする?」と聞くと、敦がにこやかに「焼肉」と答える。大樹が明るく「そうか、今日は盛大に焼肉とするか、夏帆の入学祝いもあるしね…」と言うと、夏帆が「え…今日、焼肉?」と嬉しそうに聞いてきたので、ひろみが「あんたの祝いと敦の門出だから奮発したのよ」と答える。夏帆は「やった…」と喜びながら言う。


居間で焼肉すると油が飛び散り、匂いが部屋にこもるので、野坂家では台所に新聞を敷いて、4人が床に座って行う。大樹と敦は新聞紙を敷き、ホットプレートを置く。ひろみと夏帆が野菜を切る。台所には野菜を切る音が響く中、大樹と敦は床に座る。ひろみと夏帆が野菜を切り終えると、ひろみが冷蔵庫から牛肉を出して大樹に渡す。ホットプレートの電源をONにして、しばらくして大樹が手をかざすと鉄板が熱くなっているのを確認し、まずは牛肉を焼き始める。


鉄板の牛肉から煙が出始め、香ばしい匂いが漂ってくる。焼けた牛肉を確認し、夏帆、敦、ひろみ、大樹の皿に入れる。その後、大樹とひろみは缶ビールを開け、敦はペットボトルのコーラをグラスに注ぎ、夏帆はお茶をグラスに注ぐ。大樹が「夏帆の入学と敦の明日からの門出に乾杯」と言い、4人で乾杯する。大樹とひろみはビールを、敦はコーラを、夏帆はお茶を飲む。


それから、大樹が肉や野菜を焼きながら、それぞれの皿に入れていく。他愛のない会話をしながら、時には笑いながら、家族4人の最後の夜を惜しむかのように過ごす。最後に大樹は焼きそばを焼き、ソースの香ばしい匂いが漂う中、焼きそばを頬張り、満腹になった。


22時過ぎ、それぞれが入浴を終え、寝室に行こうとしたとき、敦が「今日は最後の夜なので、居間でみんなと寝たい」と言い出した。ひろみが「4人は無理だから、夏帆の部屋は襖を隔てた隣だから、夏帆は自分の部屋でいいよね」と聞くと、敦は「それでいいよ」と答え、夏帆も思春期を迎え、皆で寝るのは嫌だったので、ほっとしながら「私は自分の部屋で構わないよ」と答える。


その後、こたつを端に寄せて、夫婦の布団の横に敦の布団を持ってきて敷く。23時過ぎて、夏帆は「おやすみ」と言い、自分の部屋に行き、消灯する。大樹は職場の異動で疲れていたのか、すぐに眠りに入ったが、ひろみは敦が明日から寮に入るので、寂しさと、中学まで不登校であった息子が15歳で巣立つことに不安を感じ、なかなか眠れなかった。


敦も明日には家から巣立ち、学校の寮に入らなければならないので、不安と寂しさから眠れずにいた。15歳の心には厳しかったのだろう。突然「明日から行きたくない」と叫び泣き始める。ひろみも耐え切れず涙を流しながら「わかるよ…わかるよ…」と背中を摩りながら答えるが、これ以上かける言葉が思いつかない。しばらくの間、ひろみは背中をさすりながら「辛いよね…私も辛いけど、中学に行けなかったから、しょうがないのよ」と言葉をかける。


夜中の居間に2人の泣き声だけが響く。敦が落ち着いてきたのか「俺、高校卒業したら福井の大学に入り、帰ってくるから」と嗚咽しながら言ったので、ひろみが「わかったよ、待ってるから、3年間しっかりと過ごして帰ってきてね」と答える。敦は「わかった。3年後は絶対に帰るからね…おやすみ」と言い、ひろみが「わかったよ。待ってるから、今日はゆっくり寝なさい」と答え、二人とも眠りにつく。


15歳の敦には寮に入るための負担はかなりのものだろうと感じる夜であった。


(4)旅立ちの日


4月7日(木)、雲一つない快晴の朝であるが、放射冷却のためか少し肌寒い。大樹は自転車で会社に向かうが、途中のお寺の桜が散り始めており、田舎の冷たい空気を正面から受ける。大樹は「ついにこの日が来たな…今日、敦は行くかな…だけど、15歳で親元を離すのは可哀そうだな…」と考えながら会社へ向かう。仕事中、大樹は敦を連れて行くことばかり考えて不安と寂しさを感じていたが、多忙な部署なので、昼まではそのことを忘れながら、やみくもに業務をこなして、12時に挨拶をして会社を後にし、12時30分に帰宅する。


大樹とひろみ及び敦の3人で、昨日の余りの焼きそばを頬張ったが、敦は観念したのか落ち着きを取り戻しており、焼きそばだけでは足りないのか、どんぶりのあまりご飯をお茶漬けして食べる。大樹が「お前、すごい食べるな…」と驚きながら言うと、敦が「焼きそばだけじゃね」と笑いながら答える。大樹は、最後だから腹一杯食べれればいいと思いながら「まあ、腹一杯食べてな」と答えるのであった。


昼食を食べ終わったとき、ひろみが「今日、何時の電車に行くの?」と聞いてきたので、大樹が「今日、お前がパートであることと、夏帆が16時頃に帰ってくることを考慮して、16時57分のサンダーバードの指定を取ったので、16時30分前に送って…」と答えると、「わかった」と答える。庭には陽ざしが柔らかく降り注ぎ、爽やかな風がここちよく吹き、外に干している4人分の布団と洗濯物が優しく揺らぎ、小鳥のさえずりが春を感じさせる。大樹は、敦の布団を見て、しばらくは使わないんだな…と切なく感じるのであった。


16時頃に夏帆が帰宅してから、敦は行く準備を始めた。今日の夜は三重県津市のホテルに宿泊するので、制服ではなく私服に着替え、制服はガーメントバッグに入れている。16時20分、大樹も敦も用意ができたので、荷物を車に詰め込んだ後、敦が玄関に頭を下げて「お世話になりました」と挨拶し、4人が車に乗り込む。敦は車の外を眺めながら、「しばらくは、この風景は見納めだな…」と哀愁漂いながら言う。ひろみが「次はゴールデンウィークだから、元気な姿で帰って来てね」と答える。駅までの道中、道路沿いの桜の花びらがちらちらと散るのを見て、別れの春を感じさせる風景であった。


16時40分頃、駅の有料駐車場に車を置き、駅へ向かい、待合室で座る。16時50分過ぎに大樹が「じゃあ行くか…」と言い、改札に向かう。大樹と敦が改札内に入り、ひろみと夏帆が改札外から手を振り、「敦、元気でね…」と言いながら手を振るので、敦が振り向き手を振り「行ってきます」と答え、前を向いてホームに向かう。ひろみは敦の後姿を見ながら、いろいろな思いがこみ上げて涙を流すのであった。


16時55分に、北陸トンネルを潜ってきた特急サンダーバードが夕陽を浴びながら入線してきて、ドアが開いたので、2人は乗り込み、指定された座席に座ると、列車がホームを離れ、ループ線に入り、一瞬敦賀の市街地が一望できるが、赤くなり始めた夕陽が降り注ぐ。敦がため息をつきながら「しばらくは、この町ともお別れか…」とボソッと言う。


2人はサンダーバードを京都で降りて、近鉄に乗り換え、京都から大和八木、大和八木から伊勢中川、伊勢中川から津と急行を乗り継ぎ、津駅近くのホテルにたどり着いた。


4月7日(木)、大樹と敦は敦賀を出て、三重県津市までやってきた。4月8日(金)は陽生学園第二高校の入学式であり、敦の本当の巣立ちは、これからである。

陽生学園第二高校に行き、制服等の物品を引き取るなど、新しい生活の準備も終わりました。本章では、4月に入り、大樹は新しい職場に赴き、平崎を含む仲間たちが協力的であったことに安堵する一方、初日から20時過ぎまで残業をするなど多忙な職場の洗礼を受けました。


次に、夏帆ですが、敦賀南中学に入学しました。本来は越境入学させたいところでしたが、敦賀にはそのような制度がないため、仕方なく入学させることになり、この子も不登校にならなければいいなと大樹もひろみも思うのでした。


最後に敦ですが、陽生学園第二高校への出発が迫る中、前日には敦賀南中に行き、元担任の上野や偶然に会った友達との会話を楽しむとともに、写真を一緒に撮るなど良い思い出ができました。また、最後の晩餐で焼肉を食べて満腹になった反面、不安感や寂しさから耐え切れず、就寝後にその叫びとともに号泣し始め、ひろみが慰めるのでした。


ついに出発の日、敦は涙を見せることはありませんでした。一方、ひろみは旅立つ息子を見て、いろいろな思いがこみ上げて涙を流すのでした。


敦と大樹は、ついに三重県津市までたどり着きました。敦は明日の入学と同時に入寮し、本当の巣立ちを迎えます。敦はぐずらずに陽生学園第二高校にたどり着き、入学することができるのか、そのときの敦と大樹の心情を含めて描いていきたいと思います。

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