希望の光
前章では、陽生学園のオープンスクールに申込み、10月31日(土)の朝、野坂家の4人は車で伊勢路の学校へ向かいました。陽生学園に到着すると、前に止まった1台の車があり、その車を4人の先生が囲んでいました。大樹は何をしているのかと思いながら見ていると、運転席のヘッドレストにしがみついて降りようとしない生徒がいたのを見て、大樹は敦も同じことをしないかと戦々恐々としていました。
本章では、敦が車から降りてオープンスクールに参加し、どのような体験をするのかを描きたいと思います。
(1) 陽生学園第二高校
野坂家が乗った車は駐車場にたどり着き、案内係に従い駐車しようとするが、先に停めた1台の車に4人の先生が取り囲み、車の中には中学生らしき生徒が運転席のヘッドレストにしがみついて降りようとしない様子が見られた。4人の先生が説得する様子があった。大樹は、敦が同じ状況になるのではないかと戦々恐々としていた。一方、敦はこれから起きる不安の中で降りたくなかったが、ここまで来て抵抗するのは恥ずかしいと思っていた。大樹がエンジンを止めて「降りるぞ」と敦に言うと、敦は頷いてドアを開けた。また、後部座席に座っていた夏帆もドアを開けて降りた。
山の中の学校であり、駐車場の左側は山で紅葉がきれいで、右側にオレンジ色の校舎が山の紅葉とマッチし、校舎の隙間から太陽の陽ざしが4人を照らしていたが、標高が高いため、ひんやりとした風が4人を包み込んでいた。
4人は案内係の指示に従い、玄関へ向かった。敦は緊張感が漂っており、顔が硬直していたので、大樹が「今日は見るだけだから大丈夫だよ」と励ましていると、中庭の木々に囲まれたところに玄関があり、4人が入ると右側に1人の先生と3人の女子生徒が立っていて、大きな声で「おはようございます」と挨拶した。1人の生徒が「本日はようこそ、陽生学園に。お名前をお願いします」と聞いてきたので、大樹が「野坂敦です」と答えると、名簿を見ながら「野坂さんですね、今日は4人の参加ですね」と確認され、大樹が「はい、そうです」と答えると、先生が「4人参加なので2000円いただきます」と言った。大樹が2000円を払う。
それと同時に、3人の男子生徒が野坂家の方へ近づき、一人ずつ挨拶をする。1人目が「陽生学園第二高校2年の石田と申します。本日は保護者の方を案内します。よろしくお願いします」と挨拶し、次に「陽生学園第二高校1年の戸田と申します。本日は敦君の案内を行います。よろしくお願いします」と挨拶し、最後の一人が「陽生学園第二高校の1年の鳥羽と申します。本日は私も敦君の案内をしますので、よろしくお願いします」と挨拶する。
大樹とひろみは「本日は、よろしくお願いします」と挨拶した。大樹とひろみは、他の学校では生徒は受付のみで、その後は先生が案内するが、この学校では生徒が案内を行うのか…すごいな…と度肝を抜かれた。
すると、石田が「これから私が会場に案内します」と先導し、敦の横には戸田と鳥羽が横に並ぶように歩くと、戸田が敦に「緊張しなくていいからね。俺も昨年は同じ立場だったから、緊張するのはわかってるよ。心配しなくていいよ」と言うと、敦は「はい」と答え、落ち着きを取り戻し始める。石田は、大樹とひろみ及び夏帆に、歩いている途中の説明をしながら進み、視聴覚室に入る。
視聴覚室は陽ざしがないため、少し暗い雰囲気の部屋で、窓の外にはオレンジ色の校舎しか見えなかった。野坂家は席に案内され、右側から敦を挟むように戸田と鳥羽が座り、その横にひろみ、夏帆、大樹、石田と座った。
戸田と鳥羽は、敦にいろいろと話しかけ、緊張をほぐそうとしていた時、一人の刈り上げた小太りの中年男性が大樹の前側に座り、「陽生学園の北陸担当をしている川村と申します。野坂さんですね。本日はよろしくお願いします」と挨拶する。
大樹が「野坂です。よろしくお願いします」と挨拶すると、川村が「今日はお越しいただきありがとうございます。朝早かったでしょう」と聞いてきたので、大樹が「7時30分に出てきました」と答えるような会話をしていた。最後に川村が「敦君のオープンスクールに行くことが決まったので、敦賀南中学を訪ねて進路指導の麻生先生と話してきて、敦君の状況を聞いてきました。それに合わせて案内する生徒を人選しましたので、今日は色々と見てもらい、わからないことは遠慮なく案内役の生徒に聞いてください」と言って、別の生徒のところに行った。大樹とひろみは、きめ細やかな学校の対応に対して、すごいな…と思っていた。
ただ、一人不満を感じていたのは夏帆だった。心の中で「何で私が、お兄ちゃんの学校に付き合わなきゃいけないの」と思うと同時に、山奥の学校であるため、いたるところにカメムシが見られる。夏帆は虫が嫌いなので、ひろみに対して「カメムシ多すぎて頭おかしくなる…」と言ったり、暇をつぶすようにもらったプリントの裏に陽生学園第二高校の校章を学校のパンフレットを見ながら描いたりして暇をつぶしていた。
ひろみが「ごめんね!あんたに関係ないことに付き合わせて!」と言うと、夏帆は「私には関係ないのに…嫌だよ…」と言っていた。大樹は夏帆に可哀そうなことをしたな…と思いながら「まあ、今はお前には関係ないし、退屈だと思うが、3年後にはお前も高校進学のときが来るから、その時には役に立つかもよ」と小さい声で言うが、夏帆は「へぇ…」と怪訝な顔で返事をした。3年後、夏帆もこの学校のオープンスクールに参加することになるのであるが、それは別の話である。
11時頃、35~40歳位の男性が登壇し「陽生学園第二高校の教師で、本部長である赤松力と申します。本日は、陽生学園第二高校と第一高校のオープンスクールに参加していただき、誠にありがとうございます。今日は、不登校生徒対象のものですが、皆様が今日この学校のオープンスクールに来られたのは、お子様の不登校で対応している皆様において、かなりの進展だと思い、自分をほめてあげてください。本日の予定は、今から陽生学園の説明を簡単に行った後、各寮に行き、内部の見学を行い、食堂で昼食をとり、お子様はクラブ活動見学、保護者は学費等の説明を受け、その後閉会となります」と言い、陽生学園第二と第一高校の説明をした。大樹は、赤松が言った「この学校に来たことは進展だと思ってください」という言葉に対して、確かにここまで来るのはきつかった…と思い納得するのであった。
(2)スッキリした
11時30分頃、赤松の説明が終わり、寮の説明に移る際、ここで敦と別れることになった。大樹とひろみ及び夏帆は石田に案内され、玄関に向かい、待っていたバスに乗り込む。敦は戸田と鳥羽が案内する。敦はこのようなとき、寂しい顔で大樹やひろみを見つめるが、戸田や鳥羽に心を開き、楽しそうに話していたので、いつもの不安げな顔はしていなかった。
しばらくして、大樹とひろみ及び夏帆を乗せたバスはさらに登り坂を進み、5分後に寮の玄関に到着する。そこで、見学している生徒たちを乗せたバスで移動してきた石田が出迎え、寮の中に入る。
石田が「ここは陽天寮と言いまして、進学を目指す生徒が入り、他にスポーツ推進のために入った生徒が入る至天寮、特進の生徒が青天寮に入ります」と説明する。そして、生徒たちが寝る部屋に入ると、大部屋に多くのパーティションで囲まれているのが見え、石田が「部屋は各ブースで囲まれており、2年生もしくは3年生のいずれか1人と1年生が1人のペアになっており、上級生が下級生の面倒を見ます。夜の19時~21時は自習時間であり、上級生が下級生に教えています」と説明する。
大樹とひろみは「へぇ…すごいね」と驚きながら返事をするとともに、敦が良ければこの学校がいいかなと思い始める。
ある程度の説明が終わった後、大樹が石田に「嫌なこと聞いていい?」と聞くと、石田は「どんなことですか」と答える。大樹が「石田君も不登校だったの?」と聞くと、石田が「私も中学2年から不登校になり、中学3年生のときにオープンスクールに行って、この学校に進学しました」と答える。大樹が「寮に入るの嫌じゃなかったの?」と聞くと、石田は「はじめは不安で、すごく嫌でしたが、先輩たちがよく面倒を見てくれて、今は楽しく過ごし、大学進学を目指して頑張っています」と答える。大樹もひろみも、不登校だった生徒がこんなに変われるんだなと驚きを隠せなかった。
その後、石田の案内で陽天寮の大部屋に案内されると、敦と戸田及び鳥羽が座って待っていたので合流した後、寮監の先生の説明を聞いた。その後、12時30分頃に校舎にある食堂へ行くため、バスで移動し、校舎に戻る。石田と戸田及び鳥羽の案内で食堂に向かう。
食堂は400人位は入れる広さで、天井が高く、おしゃれな感じだった。食堂内には昼食のカレーの匂いと唐揚げのいい匂いが漂い、多くの保護者と生徒が5列ほど並んでおり、食事当番が給仕をしている。野坂家の4人は案内役の生徒が教えた通りに列に並び、食事当番が渡す方式であり、メニューはカレーと唐揚げ、サラダ、牛乳で、かなりのボリュームがあった。小食のひろみと夏帆はびっくりしていた。
7人が席に座り、昼食を食べ始める。野坂家の4人と案内役の生徒3人は会話をしながら食事を楽しんでいると、生徒たちの発表が始まる。それを見ながら大樹もひろみもいい学校だなと感じていた時、一人の若い小太りの男性が近づいてきて、大樹と敦の後ろから「このオープンスクールのあと、陽生学園第一高校を見ることができますが、行きませんか」と聞いてきた。大樹が敦に「どうする?」と言うと、朗らかな顔で「せっかくここまで来たのだから、見てみたい」と答えたので、大樹が「行きます」と伝える。
すると、その男性が「場所は後程当校の車で案内しますので、着いてきていただけたらと思います」と答えた。大樹はここに来る前まで敦が陽生学園に行くのを嫌がっていたのに、積極的になっていたことに驚きを隠せなかった。
13時30分頃、敦は案内役の生徒と部活見学、敦以外は学校の入学までのスケジュールと入学金、授業料等の費用の説明を受けた。費用は初期に約90万円、毎月に約13万円がかかるとの説明があった。大樹は以前に調査していたので、頭の中で金額を計算していた。お金は現在の貯金が〇円、家を建てるために貯蓄した社内預金が〇円とか計算していた。大樹は敦が高校に入ると今の家では部屋が不足するため、家を建てようと計画していたが、敦が陽生学園に行きそうだということで、その計画をやめていたので、それを使おうと考えていた。
一方、敦は戸田と卓球場で、久しぶりに卓球をして、今までの鬱憤を晴らすかのように汗を流して楽しんでいた。その時も案内役の生徒と話しながら楽しく過ごし、心の中で陽生学園へ入学してもいいかなと思うようになっていた。
14時30分頃、学費等の説明が終わった頃、清々しい顔で帰って来た敦が入ってきて、嬉しそうな顔で「スッキリした」と答えた。その後、「陽生学園第一高校の見学に移動します」と言われたので、敦は案内役の生徒に「今日はありがとうございました」と挨拶し、陽生学園第二高校を後にした。
(3) 陽生学園第一高校
野坂家の車を含め5台の車の前に、公共の交通機関でオープンスクールに来た参加者を乗せた陽生学園のバスが先導する形で、陽生学園第二高校を出発する。車は坂を下るが、眼下には名古屋くらいまでの景色が一面に広がっているので、大樹が「ここからの景色すごいね。夜景が綺麗だろうな」とにこやかに話すと、行くときは緊張気味だった敦もニコニコ笑いながら「確かに」と答える。
敦がスッキリしたのか、いろいろと話してくる。敦の明るい姿は久しぶりだなとひろみも思っていた。陽生学園第二高校の門を左に曲がると、峠道をどんどん下る。山の景色は紅葉に染まり、夕方の陽ざしがそれを照らしていた。
峠を下りると、バスが右に曲がり、近鉄線の踏切を渡る。木々に囲まれた丘の中にバスが入っていくので、ついて行くと門の中に入り、今度は青い校舎が右側に見えていた。見学者がそれぞれ駐車し、車を降りると、案内係が1台のバスに乗るように案内されたので、野坂家の4人を含む見学者がバスに乗り込む。
すると、20歳代位の青年が乗り込み、バスが走り出すと、彼が流暢に学校施設を案内する。誰もが先生だろうと思っていたのだが、後で陽生学園第一高校の生徒であると聞いた時、すべての参加者が驚きの声を上げた。
寮の玄関に着くと多くの生徒が出迎え、寮の中を案内する。内部は陽生学園第二高校の構造とは変わらないが、パーティションが少し低かった。その後、バスで校舎に案内される。青い校舎が2つ並んでいる間を歩き、校舎の前には花壇があり、素晴らしいコントラストが綺麗で、参加者を出迎えてくれるようだった。
参加者は2階の一部屋に通された。野坂家の4人はトイレに行きたくなったので、教員らしい人に聞くと、教員が1人の生徒に案内するように声をかけた。
その生徒が「こちらへ」と言うので、野坂家の4人がついて行く。大樹が「君も不登校だったの?」と聞くと、その生徒が「僕も中学1年生から不登校ですが、他に幼稚園、小学校、中学校に全く行かなかった先輩がいて、その人は『俺は不登校でなく、無登校だ』と言ってました。その人はこの春に防大に行きましたよ」と笑って話したので、野坂家の4人はこの学校、すごいなとびっくりするのであった。
さらに、最後に個人面談のとき、担当の教師が敦にいろいろ聞いてきたが、敦は流暢に答えていた。大樹やひろみは、敦賀南中学の教師に対してこんなにペラペラ話す姿を見たことがないのに、なぜ初めて会った教師にベラベラ話すのか不思議に思ったし、驚いた。
最後に、その教師が「お父さん、お母さんからも何かありますか」と聞かれたので、大樹が「今日、バスで案内していたのは生徒ですよね。あの子も不登校だったのですか」と聞くと、教師はニコニコしながら「そうです」と答える。大樹が「どのような教育をしたらあのようになるのですか」と聞くと、教師が「私たちは何も教育してませんよ。寮に入ったときの指導役の先輩が教えたのではないですか。私たち教師は、悩んでいたときに手を差し伸べるだけですよ」と笑みを浮かべながら答えた。
大樹もひろみも不思議な感覚になり、陽生学園にさらに興味を示すとともに、敦を預けてもいいなと感じながら、陽生学園第一高校を後にした。
帰りの車の中は緊張感ではなく、朗らかな雰囲気が漂い、道中、多賀SAのレストランで夕食を食べた。その時も会話が弾み、野坂家では久しぶりに落ち着いた美味しい食事であった。
この陽生学園のオープンスクールが、野坂家の「希望の光」になっていくのか?
陽生学園に到着すると、前に止まった1台の車があり、その車を4人の先生が囲んでいました。大樹は何をしているのかと思いながら見ていると、運転席のヘッドレストにしがみついて降りようとしない生徒がいたのを見て、大樹は敦も同じことをしないかと戦々恐々としていましたが、敦は無事に車を降りることができました。
その後、受付を済ませた後、大樹を含む保護者には陽生学園第二高校の2年の石田が、敦には1年の戸田と鳥羽が案内役で寮内案内、ランチ、部活見学を共にしました。大樹とひろみは石田の案内が素晴らしかったことに驚き、敦は戸田と鳥羽と会話をしていくうちに打ち解け、部活見学では戸田と卓球をしたことで汗を流し、今までのモヤモヤが無くなりスッキリしました。
さらに、陽生学園第一高校では、施設の案内をした生徒の説明がわかりやすかったことと、個人面談で敦が日頃は敦賀南中学の先生にはあまり会話をしないのに対し、初対面の陽生学園第一高校の先生とはペラペラと話すことに不思議を感じると共に、帰りの車では会話が弾み、途中の夕食でも会話が弾み、野坂家では久しぶりに落ち着いた美味しい食事ができました。
次章では、陽生学園のオープンスクールに参加して、敦を含む野坂家の状況がどのように変化していくかを描いていきたいと思います。




