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来るべきときが来た

前章では、9月26日(土)に敦が筑紫野産業高校のオープンスクールに参加して、充実した1日を過ごしました。高校とはどういうものかを理解し、敦賀に帰宅後「明日から学校に行くよ」と前向きな発言をしたことで、大樹もひろみも安堵しました。


本章では、筑紫野産業高校のオープンスクール後に敦が学校の教室に入り、不登校を克服できたのかを詳細に描きたいと思います。

(1)やっぱり駄目か!!

 

 9月26日、敦は筑紫野産業高校のオープンスクールに参加して、充実した1日を過ごした。高校進学への希望が芽生え、後は中学校に通い、教室に入るという最大のハードルを越えることが課題となった。


9月27日(月)、どんよりと曇り、秋雨が降り、少し肌寒い。野坂家では車が1台しかないので、雨の日は、ひろみが大樹を敦賀支社まで送ることになっている。大樹は敦に「今日から頑張れよ!行ってきます」と言い、7時30分頃に車に乗り、会社へ向かった。


会社までの距離は約10分であるが、道中、楽しそうに登校する中学生の姿が見られる。大樹は登校中の中学生を見ながら「今日から敦は行けるかな」とつぶやくようにひろみに聞く。ひろみは「今日は行ってくれると思うよ」と微笑みながら答える。大樹が「何で家の子だけ、学校に行かなくなったのだろう」と小声で聞くと、ひろみは「私もそう思うよ。だけど、今日は行きそうだと思う」と少し不安を感じながら苦笑いをして答えた。


そんな話をしている間に、車は敦賀支社に着き、大樹は「敦のこと、よろしくな」と言って車を降りた。


ひろみは折り返して自宅に戻ると、敦は制服に着替えて、行く準備はできたが、顔が真っ赤で調子悪そうにしている。ひろみが「どうしたの?」と聞くと、敦が「具合悪いが、学校に行く」と強がりを見せて答えるが、様子がおかしいので、ひろみが「顔が少し赤いので、熱を測りなさい」と言う。敦は辛そうに「わかった」と答えて、検温を開始する。


しばらくして、体温計の音がピピッと家の中に鳴り響く。敦が体温計を確認すると、38.0℃になっていた。ひろみは「熱が高いから、今日は休みなさい。電話をしておくから」と言い、敦を布団に寝かせてパートに出かけた。


一方、15時30分にひろみが帰宅すると、敦の発熱は収まり平熱になり、ゲームに夢中になっていた。


このようなことは、それ以降も続き、敦は、嫌なことがあると発熱するという不思議な体になり、学校に行けなくなった。

,

(2)家庭教師のイドムの裏切り


 9月29日(水)、天気は曇り空で、時々日差しが差すが、少し肌寒い日だった。ひろみが15時30分頃に自宅に帰って来た。敦は相変わらず朝に発熱し、昼過ぎに平熱になるため、起きてきてパジャマのままで居間でゲームをしていた。ひろみが「どう、大丈夫?」と聞くと、敦は無表情で「大丈夫。熱は36.5℃になったよ」と答えた。ひろみは「なんでだろう」と首をかしげながら「そうか」と答えた時、携帯電話が鳴った。発信先は家庭教師のイドムだった。


 ひろみが通話すると、相手は岡部であり「8月に1回だけ家庭教師を受けましたが、それ以降は急な欠席が続いていますね。誠に申し訳ございませんが、貴方のお子さんを面倒見ることができませんので、契約終了してください」と言ってきた。ひろみには思い当たる節があった。敦は8月の終わりから家庭教師のイドムから派遣される家庭教師が自宅に来て教えてもらっていた。


 8月29日(土)の19時に、敦は家庭教師のイドムの塾にひろみと2人で行くと、岡部と家庭教師の山口がいて、挨拶をしたのち、山口と敦が実習室に行った。山口は敦の学力を把握するため、いろいろと問題を解かせたが、元々勉強が得意でなく、中学2年生から学校に行っていなかったため、中1の問題も解けず、途方に暮れた山口が「こんな問題も解けないのか」と言ったことで、敦は家庭教師に不信感を抱き、家庭教師の日に具合が悪くなり、それ以降は欠席していたのだった。


 山口からの暴言については、その時は両親に知られたくなかったので理由を述べなかったが、高校に行ったときに、教師は生徒が理解できないときは理解するように教え方を変えないといけないことを教えられ、それを両親に告げたことで、大樹は「言ってくれたら苦情を言い、家庭教師を変えてもらったのに」と笑いながら言ったのに対し、敦は「そのときはわからないので俺が悪いと思ってたし、お父さん俺のことを聞いてくれなかったやん」と笑いながら答えたので、大樹が「ごめんなさい」と言い、笑い話になっている。


 ひろみは岡部の対応に呆然として、「はい」としか答えられなかった。


 17時過ぎ、天気が悪かったので、ひろみが大樹を敦賀支社に迎えに行った。ひろみは意を決して、大樹に敦が教室に入っていないことと家庭教師のイドムからの契約解除のことを伝えた。大樹は「は…営業の時は、いいことばっかり言って、手に負えないから解除かよ。帰ったら俺から電話する」と憤慨したが、大樹は1回しか家庭教師を受けていないことをそのときは知らなかった。


 大樹は、自宅に帰宅後、早速家庭教師のイドムに電話した。大樹が「岡部さん、契約解除とはどういうこと?」と聞くと、岡部は「初回の1回だけ受けて、それ以降は突然のキャンセルが続いており、見通しが立たないので継続不可と判断しました」と答えた。大樹が「貴方、営業の時、不登校の実績も十分と言ったし、このようなことも想定できたのではないのですか。普通なら1回話し合いをして解除ではないですか、いきなり解除はないでしょう」と大声で詰めると、岡部は「それはそうだと思いますが、家庭教師も都合があるのです。こんなにキャンセルされたら面倒見切れませんので、解除でお願いしたい」と答えた。


 大樹は、もうここは無理だと判断し「わかりました。入学金と授業料を返金してください」と言うと、岡部は「受けていない授業料は返金しますが、家庭教師を受けた1回分の授業料と契約金は返金できません」と答えた。大樹はさらに熱くなり「1回分の授業料は仕方がないが、お前のところが勝手に解除したのだから、入学金の返金するのが筋ではないか」と言うが、岡部は「契約書に入学金は返金しないと書いていますので、それは無理です。それと、野坂さん、下の子供がいますよね、その子の家庭教師を頼むときは入学金はいりませんよ」と平然と答えた。


 大樹は怒りを抑えながら「わかったが、お前のところには二度と頼まん!」と言い、電話を切った。大樹は敦に対しての怒りより、家庭教師のイドムに見捨てられたということに途方に暮れると同時に、もう来るべきときが来たかなという悲壮感が漂い、もう最終手段である陽生学園への進学という手段しかないと感じた。大樹はその夜、敦を怒ることなく、パソコンから陽生学園のホームページを開き、10月31日(土)のオープンスクールに申し込んだ。


(3)説得


 9月30日(木)、大樹は出社して仕事をしていたとき、突然、携帯電話が鳴った。番号を確認すると知らない番号だったが、昨日の夜に陽生学園に申し込んでいたので、そこからの電話だと思い通話ボタンを押した。


すると、女性の声で「初めまして、陽生学園の鈴木でございます。野坂さんの携帯ですか」と聞いてきたので、「野坂です。よろしくお願いします」と答えた。鈴木は「敦君は、どのような状況ですか」と聞いてきたので、大樹は「中学2年生のときから不登校になり、それから別室登校となり、教室には入れていません」と答えた。鈴木は「そうですか、苦労をお察しいたします。ところで、当日は4人での参加でよろしいですか」と聞いてきたので、大樹は「私と妻及び敦の他、娘も行きますので、4人です」と答えた。


鈴木は「10月31日(土)はお待ちしておりますので、10時までに本校へお越しください。なお、昼食代は一人500円ですので、受付で2000円を払っていただけたらと思います。その他、お聞きしたいことがありますか」と聞かれたので、大樹が「息子ですが、制服に着替えるのに凄く時間がかかるので、普段着でも構いませんか」と聞くと、鈴木は「大丈夫です。その他、何かありませんか」と聞かれたので、大樹が「中学に言う必要がありますか」と聞くと、鈴木は「必要ありません。その他、ありますか」と言われたので、大樹は「大丈夫です」と答えて通話を終了した。


大樹は、ついに来るべきときがきたな…と落胆しながら、しょうがないと自分に言い聞かせるとともに、敦に言うと構えるので、ドライブに行くぞと黙って連れて行こうと思っていた。


10月1日(金)、朝から小雨交じりで、少し肌寒かった。大樹はひろみに送迎してもらっていた。17時過ぎ、大樹は帰りの車に乗り込んだ。外は小雨交じりで風も強く吹いており、現在の野坂家の状況を表しているようだった。大樹はひろみに陽生学園のことを話そうと思い、助手席で前を向きながら、「敦のことだけど、筑産に行った後、教室にも入れないし、イドムも契約解除になったので、来るべきときがきたと思い、10月31日のオープンスクールに申し込んだ。ただ、敦に言うと構えるので黙って連れて行こうと思う」と話した。ひろみが「制服に着替えないといけないので、黙って連れて行くのは無理じゃないの」と答えた。


大樹が「大丈夫だよ。今日、陽生学園から電話があったので、制服に着替えるのが厳しいから普段着でいいかと聞いたら大丈夫と言われたので、問題ないよ」と言う。ひろみが「黙って連れて行くのはよくないよ。去年の6月に騙して先生に迎えにきてもらったときに、電柱にしがみついて大変なことになったし、そのあとも大変だったのよ。だから、話すべきだよ」と言う。大樹が顔をしかめながら「陽生学園に行くと言ったら、構えて行かないんじゃないのか」と言うと、ひろみが強い言葉で「それでも、話さないと駄目だよ。私は話したほうがいいと思うよ」と答えたときに家に着いた。


21時過ぎ、大樹と敦は風呂から上がり、夏帆が入浴を開始した。夏帆は長風呂なので、話す時間があると思い、大樹はひろみと敦を呼んだ。大樹は話しづらいな…と思いながら、冷静に「敦、筑産に行った後、お前、教室に入っていないよね」と聞くと、敦はまた怒られると思い怯えた顔で頷いた。大樹が「家庭教師のイドムも首になったし、頼みの綱もなくなり、来るべきときが来たと思って、10月31日にある陽生学園のオープンスクールに申し込んだので、皆で行くことにした」と言うと、敦は涙目になりながら「ついに、俺を陽生学園に放り込むのか…俺、行かないよ」と声を荒げて答えた。


大樹が「今すぐに放り込むのではないよ。まずは、陽生学園に見に行って、お前が良ければ入学させるし、嫌だったらまた考えよう。それと、入学は来年4月だから」と言うと、不満げに「わかった」と答えた。大樹が「オープンスクールは、筑産に行ったときのように、学校がどのようなところか、自分に合うか合わないかを判断すればいいから」と言うと、敦は「それでいいなら、行くよ」と嫌々答えた。ひろみが「嫌なら断ればいいから、とりあえず行ってみよう」と大樹を援護するように言うと、敦が「嫌なら断ってもいいの」と聞くと、大樹もひろみも「いいよ」と答えた。


さらに、大樹が「当日は、制服に着替えなくていいし、お前が初めて行く、名神、新名神、伊勢道を通るから、ドライブに行くつもりで気軽に行けばいいから」と言うと、敦は「嫌だったら、入学しないからな」と念を押すように言うので、大樹とひろみが「それでいいよ」と答え、陽生学園のオープンスクールに行くことが決まった。


(4)いざ伊勢路!!


10月31日(土)、放射冷却により少し冷え込んだが、空は雲一つない快晴で、清々しい朝だった。7時30分、野坂家の4人は車に乗り込んだ。休みにしては朝が早いため、夏帆とひろみは後部座席に座ったとたんに眠りに入る。助手席には敦が座り、大樹が運転する。大樹は三重県に行くのは初めてであり少し不安であったが、新しい場所に行くわくわく感があった。


高速道路を走るためか、山間部を走るためか、山の木々の紅葉が赤々としており、オープンスクールに行く雰囲気ではなかった。そのため敦も制服を着ておらず、高速道路を走っているときは、笑いながら大樹と会話を楽しんでいた。車は北陸道、名神高速、新名神高速と順調に進み、亀山JCTから伊勢道に入ると少し車が増えてきたが、渋滞はない。大樹が「お伊勢参りかな…少し車が多くなってきたな」と言うと、敦が少し顔を曇らせながら「そうやね…」と返事をする。敦は、少しずつオープンスクールに行くという緊張感が出てきたようだった。


9時00分頃、車は久居ICを降りて一般国道を青山高原の方へ走った。高速道路を走っているときは流暢に話をしていた敦の口数が減り、心の中で「お父さん迷え!」とずっと願っていた。しばらく走ると、かなり田舎道を走ることになり、進行方向の山の上に茶色い建物の集まりが見えてきた。大樹が「あれが、陽生学園じゃないか」と言うが、敦は緊張と恐怖から「ついに来たか…嫌だな」と思うだけで、大樹の言葉は聞こえなかった。


車が峠のふもと付近に来た時、まだ9時40分位だったので、大樹が「タバコとトイレへ行こう」と言い、ふもとのコンビニで休憩する。敦の心の中では、ついに来たのか…このまま迷わないかな…と願っていた。


9時50分頃、4人は車に乗り込み、走らせると峠を登り始めた。なかなか険しいカーブを徐々に登り、カーブを曲がるとすぐに左側に門が見えたので、大樹は左折する。大樹は独り言で「いや~曲がり損ねるとこだった」と言い冷や汗をかく。一方、敦は迷わなかった…とがっくりしていた。


門をくぐってもさらに登るが、なかなか校舎にたどり着かない。大樹が「でかいな…」と言うが、敦にはこの言葉が緊張で耳に入らない。約1km位走ったところで建物があったので、着いたかと思ったが、「陽生学園本部」であり、案内係がいたので窓を開けて大樹が「オープンスクールはどこに行くのですか」と聞くと、「もう少し先まで行ってください」と答えたので、少し走るとグラウンドや体育館が見えて、更に登ると駐車場があり、1台車が止まっている横で案内係がここに停めてと合図する。


ここで、大樹は衝撃的な光景を見る。先生と思われる方が4人ほど車を取り囲み、車内には中学生らしい生徒が運転席のヘッドレストにしがみついて車を出ようとしなかったのを見たとき、大樹とひろみは、まさか敦も同じことをしないだろうな…と不安を感じたのであった。

筑紫野産業高校のオープンスクール後、敦は制服に着替えて学校に行こうとしましたが、発熱により断念しました。同時に、嫌なことがあると発熱する不思議な体になってしまいました。


さらに、家庭教師のイドムについて、最初の1回は行ったものの、急な欠席が続いたことで契約解除を言い渡され、大樹とひろみは途方に暮れました。大樹は来るべきときが来たと判断し、10月31日の陽生学園のオープンスクールに申し込み、敦を説得しますが、敦は嫌々行くことに同意しました。


10月31日、野坂家の4人は三重県にある陽生学園に向かいますが、先に着いた車を4人の先生が取り囲み、中学生らしい生徒が運転席のヘッドレストにしがみつき説得をしている状況を見て、大樹とひろみは不安になるのでした。


次章では、敦が抵抗せずに陽生学園のオープンスクールに無事に参加できたのかを詳細に描きたいと思います。

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