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新年度 !!光と影の間で

新年度の始まりには、新たな希望と同時に不安も伴うもの。学生たちの心の中で、光と影が交錯するこの季節、様々な葛藤と成長の物語が繰り広げられる。


本章「新年度における光と影」は、新しい道への希望と挫折を描いた物語です。野坂家では、大樹は異動により新しい職場へ出勤し、順調な滑り出しができるのか。敦は新3年生になり、新しい担任やクラスメートと共に不登校を克服して教室に入り、新しい仲間と過ごせるのかが課題となります。春の陽射しの中、彼らがどのような状況に直面し、どのように対処していくのかを描いています。


読者の皆様には、登場人物たちの心情に共感し、彼らが乗り越える挑戦から勇気を得てもらいたいと思います。

(1)新年度


 4月1日(月)、冷たい風と春の柔らかい太陽が交差する朝だった。大樹は、今まではINECのバスで通勤していたが、原子力関係機関のバスに乗らないといけないので、乗車場所が変わり、原子力機関の社宅の駐車場に向かって歩く。歩く距離はINECのバス停と変わらないが、そこまでの行程が異なる。まだ季節は寒いが、心地よい太陽の光を背中に感じながら、バス乗り場途中のグラウンドの桜が大樹の新しい道を歓迎するようだった。


バスを降りると、顔見知りの方々が「久しぶり…今日からなの?」と声をかけてくる。大樹は「今日から安全評価センター 経年劣化研究室に出向になったので、よろしく」と答える。大樹は、安全評価センター 経年劣化研究室に入ると、出向解除になる前に一緒に働いた榊室長、小川さんや新しいメンバーもいた。大樹は「今日から出向で配属になった野坂です。よろしくお願いします」と挨拶すると、新しい席に案内された。


4月1日なので、入構教育や仕事の説明を受けて、大樹は「仕事の内容は、難しくて出来るかなとの不安もあったが、昨年度の状況よりはましだと思い、新たに頑張ろう!」とモチベーションが上がるのであった。


4月7日(月)から敦や夏帆の新学期がいよいよ始まる。大樹は自分の新年度は上々の滑り出しであったことから、「子供たちもいい方向に向かうといいな、特に敦は初日が大切だよ…」と考えていた。


4月5日(日)、大樹は夕食の準備をしている台所に行き、ひろみに話しかける。「明日は、休みか?」と聞くと、ひろみは「明日は、休みよ」と答える。大樹が「明日は、新学期の最初の日なので、敦を絶対に登校させないといけない。ここでつまずくと、不登校のままになるからね」と言うと、ひろみが「わかってる。明日は、送り迎えを含めて対応するから任せておいて」と答える。大樹もひろみも、敦には学校のことを触れずにその後を過ごした。


4月7日(月)は心地よい朝が訪れた。7時過ぎ、夏帆はいつも眠い目をこすりながらギリギリで家を出ていて、登校班に迷惑をかけることがあったが、今日から6年生になる自覚もあり、少し早めに家を出た。大樹とひろみは「さすが、6年生になると自覚してるよね」と微笑みながら笑いあった。7時30分に大樹も家を出る。残されたのはひろみと敦であるが、今日は珍しく、8時前に家を出た。ひろみもそう感じていた。


敦は今日から中学3年生でクラスも担任も変わるし、天気も晴れているので、気持ちよく歩いて行った。玄関前には多くの生徒がおり、中には同じクラスになったことを喜び合う生徒の姿がある。敦は誰とも話すこともなく、珍しい目で見られたり噂されたりしているような感覚もあり、嫌な気持ちを抑えながらクラスを確認すると「3年5組」だった。


敦は自分の出席番号の下駄箱に靴を入れて、3年5組に入り、黒板に席の配置案内があった。敦は自分の席に座るが、誰とも話すことなく、時が過ぎて行く。8時30分に新しい担任の先生が入って来て、教壇の前に立ち「今日から担任になりました上野と申します。よろしくお願いします」と言いながら配布物を配る。敦は何気なく受け取る。上野は30歳前後で背が高く、バレーボール部の顧問であり、体育会系で少し強引な感じの教師だった。


その後、敦は終業式とクラス毎の写真撮影を行うが、腫物扱いされるような気がして誰も話しかけるわけでも無く、針のむしろにいる感覚だった。心の中で、「俺は、腫物扱いされており、居場所がない」と思い、早く家に帰りたい、学校には行きたくないとの思いしかなく、ホームルームが終わると、敦は振り向くことなく一目散に帰宅するのであった。


敦が帰宅したら、ひろみがにこやかに「おかえり…どうだった」と聞く。敦は、明日から学校に行きたくないと思いながら、母親に心配をかけたくないので「まあ、特に問題ないよ…」と素っ気なく答えて、家の中に入り、ゲームを開始する。大樹が帰って来た時も、同じように聞かれるが、とりあえず学校の話はしたくないので「まあ、まあ、だった」と答えた。4月7日の新学期、敦が素直に学校へ行き、大樹とひろみは安堵し、学校に行ってくれると期待したが、本当の戦いは、次の日からだと、誰もが思っていなかった。


(2)やっぱりダメか


4月8日(火)、春ながら春雨が降る朝だった。慌ただしい中、朝食を食べて、7時過ぎに夏帆が、7時30分に大樹が家を出る。 昨日は、大樹が家を出た頃から学校に行く準備を始めた敦が、今日は用意をしようとしない。ひろみが「まさか!」と思いながら、「早くしないと学校に遅れるよ」と敦に声をかける。しかし、敦はどうしても学校へ行きたくない。ひろみがパートに行く9時まで粘らなければならない。敦は制服にゆっくりと着替える振りをしながら、横目でひろみの様子を伺う。ひろみが苛立ちながら「早くしないと遅れるよ」と声を荒げると、敦は「わかってる」と言いながらトイレに向かう。


昨年度と違い、ひろみのパートの時間が1時間遅くなっているので、籠城する時間を長くしなければならない。トイレの外から苛立ったひろみの急かす声が聞こえるので、耳を塞ぎながら聞こえないようにし、目をつむり嵐が過ぎるのを待つ。 8時30分、ひろみの声が聞こえなくなった。ひろみは「ダメだったか…」と落胆しながら学校に電話して、「3年5組の野坂です。お世話になっております。実は、息子の敦が2年生の時と同様に学校に行きたがらないことを伝えてください」と言う。すると、学校から「後程、上野先生から連絡するように言いますので、大丈夫ですか」と返答があり、ひろみは「9時からパートなので、それまでに連絡していただけたらと思います」と伝えると、学校から「わかりました。伝えておきます」と答え、電話を切る。


8時50分頃、上野から電話がかかってきた。「3年5組担任の上野です。よろしくお願いします。敦君が学校に行くのを拒否しているんですか」と聞かれ、ひろみは言いにくそうに「そうなんです。現在もトイレにいて出てきません。もう少ししたらパートに行かないと行けないので困っています」と答える。上野が「わかりました。放課後の16時頃、時間が取れますか」と聞いてくると、ひろみが「わかりました。16時頃に伺いますので、よろしくお願いします」と返答し、電話を切る。


ひろみは電話を切った後、「今からパートに行ってくるね。もういい加減にしてよ」と怒鳴りながら家を出る。敦はひろみが出た後、トイレのドアをゆっくり開けて、誰もいないことを確認してからゲームを始める。敦は学校に行けない自分への情けなさより、この嵐が過ぎ去ったことに安堵する。


16時前にひろみが家に帰り、敦を連れて学校に行こうとするが、頑なに拒否された。「あんたって子は…」と声を荒げながら家を出て行くひろみ。敦は悪びれもなくゲームを続ける。夏帆も小学校から帰ってきたが、敦がゲームをしているのでテレビを見ることができず不満に思う。何でこんな情けない兄がいるのか…と家が嫌になるのであった。


16時頃、ひろみが学校に着く。玄関前の桜が舞い散り、春の木漏れ日が2階の玄関を照らしているが、ひろみは景色を楽しむ余裕もなく足早に2階の玄関へ向かい、インターフォンを押す。いつものように事務の女性が対応し、開錠して第2カウンセリングルームに通される。そこには担任の上野と3年生の学年主任である野田が待っていた。 上野が「3年5組の担任になった上野です。こちらが学年主任の野田です。よろしくお願いします」と挨拶すると、ひろみは「野坂敦の母です。よろしくお願いします」と返答する。学年主任の野田はスーツ姿でありながら坊主頭の田舎のおっちゃん風な感じであった。


ひろみが「敦のことですが、昨年から不登校が始まりずっとカウンセリングルームに登校していましたが、3月までには一部授業と給食まで食べれるようになりました。昨日の新学期にはちゃんと登校していましたが、今日は制服に着替える途中にトイレに入り、それから出てきません。私はパートに行かないといけないので、電話して休ませました」と言うと、上野が「そうですか。昨日は登校していたので安心しましたが、今日は来ていなかったので心配していました」と返答する。すると横に座っていた野田が「学年主任の野田です。敦君のことは昨年度からの引継ぎで、カウンセリングルーム登校の件は聞いていますが、何か心当たりはありますか」と尋ねてくる。


ひろみが「いじめはありましたが、その都度解決してきましたので、他に心当たりはなく困っています」と答える。野田が「わかりました。では、昨年度と同じようにカウンセリングルームに登校してもらい、滞在時間は本人に任せるようにして様子を見ましょう」と提案すると、ひろみは「わかりました」と応じる。野田が「では、お母さんにお手数ですが、明日から送って来てもらい、上野先生に連絡するようにしましょう。上野先生、それでいいですね」と言い、上野が「はい、わかりました」と答える。ひろみは「では、よろしくお願いします」と言い、学校を後にする。


ひろみは家に帰り敦に「明日からカウンセリングルーム登校が認められたから、朝送って行くね」と伝えると、敦は「わかったけど、ずっと学校にいないといけないの?」と不安そうに聞く。ひろみが「好きな時間に帰ってもいいんだよ」と答えると、敦は「このこと、お父さんに言うの?」とさらに聞いてきたので、ひろみが「しばらくは学校行ってると言うけど、早く教室に戻ってね」と答えると、敦は安心した顔で「わかった」と返事する。


次の日以降、敦はカウンセリングルームに登校し、午前中には帰っていたが、大樹がそれを知るのはもう少し後のことだった。


(3)カウンセリングルーム


4月9日の朝、夏帆は7時過ぎに学校へ、大樹は7時30分に会社に行く。ひろみは「敦、どうする?」と聞くと、敦が「カウンセリングルームならば行く…」と言うので、ひろみが「8時30分までに用意してね」と答える。ひろみは、今日は行くのかな…と思いながらパートの準備をしている。


時間は8時20分。「敦、早く用意して…」と声をかけると、敦は不安そうな顔で洋服に着替え始める。8時30分、敦は着替え終わり車に乗り込む。


学校に着くと、1階の玄関は施錠されているので2階玄関に回り、インターフォンで呼びかける。若い女の先生が出迎え、敦のみを連れて行く。敦は不安げにひろみの方を振り返りながら、カウンセリングルームに向かう。


カウンセリングルームには昨年から面倒を見てくれた支援教諭の川村が出迎えてくれる。川村は50歳過ぎの背の低い女性で、微笑みながら敦に「おはよう、敦君」と声をかける。敦は「おはよう」と答える。その後、周りを見渡すと、今までは1人だったが、今日は2人の生徒が座っている。1人は中学3年生の女子生徒で本を読んでおり、もう1人は2年生の男子生徒でぼんやりと座っている。


川村が「今日、温かいね…」と話しかけるが、敦は目を見ることなく「はい」と素っ気なく答える。それ以降の会話も「はい」との返事のみであった。


敦としては、カウンセリングルームではゲームもできず、学校の先生に対して心を開いていないため、ここにいることが苦痛だった。しかし、母親との約束なので仕方なくいるだけであり、他の生徒とも話さなかった。


40分ほどすると、担任の上野がカウンセリングルームに入ってきて「敦、来ていたのか」と話しかける。敦は「はい」とだけ答える。上野は「俺としては、早く教室に戻ってほしいよな…」と言うが、敦は上野を含む敦賀南中学の先生を怖がっており、クラスに居場所がないため戻れないことを伝えられず、そっけない返事をしながら嵐が過ぎるのを待つだけだった。


1時間ほどして、上野が「敦、教室に入るのを待っているよ」と言ってカウンセリングルームを出て行った。敦は川村に「今日は帰ります」と伝えて学校を後にした。家に帰って冷蔵庫のお茶を2杯飲んで落ち着いた後、再びゲームを始める。


それ以降、敦は上野の顔を合わせると教室に戻れと言われることと、連れて行かれる恐怖から次第にカウンセリングルームでの滞在時間が短くなり、朝に自宅のトイレに籠城して学校に行かないことも増え始めた。ひろみや大樹が敦が教室に入れない理由を知るのは、高校に進学した後のことだった。

本章「新年度における光と影」をお読みいただき、ありがとうございます。この物語は、新たな始まりとともに訪れる希望と困難を描きました。野坂家の面々が直面した問題や葛藤を通じて、読者の皆様がそれぞれの「光と影」を感じ取り、自身の生活に重ね合わせることができたなら幸いです。


本章では、大樹は新しい職場で順調な滑り出しを見せました。一方、敦は新年度初日には教室に入ることができたものの、周囲が自分の噂をしているのではないかとの思い込みや、誰も話しかけてこなかった孤独感から、翌日から学校に行けなくなってしまいました。ひろみと学校との協議の結果、カウンセリングルーム登校となりましたが、敦賀南中学の先生達を信用できず、上野から「教室に戻ってほしい」と言われる恐怖から、カウンセリングルームへの滞在時間が短くなり、学校に行かなくなるなどの悪化が進んでいくのでした。


次章では、この膠着状態がしばらく続く中で、修学旅行に参加するかどうかの新たな課題が野坂家に降りかかり、どのような決断をするのかを描いていきます。


最後に、ここまでお付き合いいただき、心より感謝申し上げます。皆様の未来に光が射し、困難を乗り越える力となりますように。

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