悪徳領主、街へ向かう 4
アラエルはウキウキ鼻歌を歌いながらスキップするようにルンルンウサギのように飛び跳ね、馬小屋に向かい、馬小屋に着くなりすぐに老齢の灰色の髭が印象的な厩務員に声をかけた。
「サンダース、久しぶりだな」
「ここは豚箱じゃねぇぞ」
口は悪いがサンダースの家系はサンダースの曽祖父の代からここでオズワルド領の馬を管理している歴史ある家系である。だからこそアラエルもこの程度の口の悪さを容認している。いや、正確に言えば何回か辞めさせようとしたが、その度に宰相が邪魔して来て、辞めさせられなかった。
「出会って早々渾身のストレートだな。サンダース。痛かったぞ、心が」
「なんのようだ」
ぶっきらぼうに答えたサンダースとは対照的にアラエルは大袈裟に心臓を抑え、喚いてる。サンダースはアラエルを無視して話のわかる奴であるセバスに視線を向けた、たがアラエルはその視線を切るように割り込んだ。
「城下ーー」
「シュバルツに乗って観ーー」
「城下視察です」
アラエルに遮られる格好となったゼバスだが負けず嫌いが働いたのかさらに言葉を被せた。
「セバスやめろ」
「シュバルツは今奥の牧場に居るぞ、ハァ、今連れてくる、だか怒るぞあいつ」
目の前で口煩い口論を繰り広げてる二人に嫌気がさしたサンダースはこの場を離れようとしたがアラエルが止めた。
「怒るって?」
「今頃お昼寝の時間だ、邪魔されてイライラするぞ」
「うん? そうなのか?」
馬に昼寝の時間なんてあるんだなとアラエルは思ったことを口に出した。
「そうだ。お前さん最後にシュバルツに会いに来たのいつだ?」
サンダースにそう問われ、ハッとした表情を浮かべたアラエルは古い記憶を探る。
「……先月?」
「バカ、半年前だ、それもお前が今日と同じように観光しに行って、シュバルツの奴忘れて来ただろ」
「あぁ、あったね」
「あの後は大変だった。お前に置いて行かれた恨みは酷かったぞ」
サンダースは言葉を放り投げ、アラエルの言い訳を聞く前に、奥へ向かって行ったが足を止めた。
「あぁ、そうだ、シシリー様から伝言だ『お土産忘れるな』だとさ、お前、何やったんだ? 珍しくシシリー様がこっちに来たと思ったらアラエルの奴に伝えてくれって。」
「その件に答える義務はない」
「そうかよ」
奥の牧場へ向かったサンダースはお昼寝中のアラエルの愛馬? である青鹿色の毛並みのシュバルツを起こし、起こされたシュバルツは機嫌悪そうにアラエルたちの前に姿を現したが……
アラエルの姿を見つけたシュバルツは大騒ぎを起こしサンダースの身体が宙に浮いた。
「シュバルツ落ち着け」
「お前が言うな!」
「シュバルツ、アラエルに恨みがあるのはわかる、恨みを晴らすなら乗せた後にしろ、乗せた後に振り落とすなり踏むなり、クソかけるなり好きにしろ」
サンダースはシュバルツの首筋をさすりながら声をかけると大人しくなる。
が今だにあの時のことを忘れてないのか、ギッと鳴いた。
「おい、今ひどいこと言わなかったか」
「何も問題ありせん」
ゼバスが答えた。
「何故セバスお前が答える。」
二人がそんなことを言っている間にもサンダースはシュバルツは鞍を乗せて準備している。
「さぁ、こんなもんでいいだろ、セバスの兄ちゃんどうするだ?馬から歩きか?」
「私も馬でお願いします」
「あいよ、セバスはいい奴だな、アラエルのバカと比べたらいけねぇがよ……」
それだけ呟いたサンダースは二つ目の鞍を取り出して適当な軍馬を連れて来て、その背中に乗せた。
「こいつはダイヤだ。」
サンダースは連れて来た黒毛馬の首筋を撫で、セバスに紹介した。
「気勢は軍馬としては大人しい方だな、だからこっちに持ってきたんだ。セバスでも問題なく扱えるだろう。乗り方、わかってるな?」
「はい。わかってます」
「なら大丈夫だな。一つだけ、鞭は入れるな、叩かれると走らなくなる。だから鞭は渡さないから」
「分かりました」
「先行くぞ!」
セバスが話しているとすでにアラエルはシュバルツに跨り、暴れるシュバルツを宥めながら外へ向かっていた
「お前も大変だな、アラエルから権力奪い取れば?」
「権力なんて面倒なだけですよ、それにあなたもでしょ、一応王家の血を受け継いでるのですから」
サンダースはそれに何も答えず自分の仕事に戻った。