密談
国王の土下座がもうすぐ行われると言う緊迫した空気を打ち消すような笑い声が謁見の間に響く、この場の空気を一変させたその笑い声にグラフィットを含む全員の視線が一斉に声を出した主であるグランドへ注がれる。
「あはは! グラフィット、本当に土下座するのか? 国王の意地はないのか?」
「ぐ、グリエル」
グリエルを見上げたグラフィットの顔は屈辱に染まり、何を思ったのかその瞬間拳に振り上げ、何かと葛藤するように静止するとゆっくりと立ち上がる。
「マルシュ……」
グリエルに向いていた怒りはこの土下座事件の元凶である、マルシュへと向けられた。グラフィットの怒りを全面に受けたマルシュは二歩三歩と後ろに下がるがグラフィットもその隙間を埋めるように動く。
「へ、陛下……」
胴体を守るように両腕を体の前に出し、グラフィックを刺激しないようにさらに後退するが2人のその距離は付かず離れず維持される。
「なんだ?」
「ご、誤解です、話し合えばまーー「話し合いで済んだら戦争など要らん!」ッ! ガハッ!」
誤解だと言い張り、ボディーを守りながら後退りをするマルシュの腹に渾身のボディーブローがめり込み、マルシュの身体は10センチその秒数僅か0.5秒ほどだが地面を離れた。
「……痛い……」
床に叩きつけられたマルシュは日々の衛士の訓練で鍛え上げられた筋肉のおかげで意識は保てたが、腹部を抑えうずくまる。
「おー、ナイス一撃。それなら衛士は要らないな」
その脇でグリエルの呑気な声が聞こえたが、グラフィットは無視した。
グラフィットもいくら衛士達の訓練で鍛えてようと、子供の頃から何故かグリエルにだけは勝てない。たとえ老化が始まったグリエルだとしても、今のグラフィットではグリエルに勝利を収める事は厳しいだろう、だだし、色々な悪徳な手段を使えば勝利への道筋は消えてはいないが。
「アラエル様も学びますか? 力は正義です。力があればオナゴに好まれますよ」
いつの間にかアラエルの脇に立って話しかけたグリエルの口調が少しブレている。
「それ楽しい?」
「楽しいぞ! 毎日女を変えて、あれこれしてもらえるんだ。つまんないわけない。それに気に入った子が居れば寝室に連れ込めるぞ」
セバスに聞いたつもりだっだがだからかともなくグラフィットが割り込んできた。割り込みされたような形となったセバスはグラフィットを押し返し、2人の間に再度割り込んだ。
「グラフィット、子供にそう言うことを……言うな」
「もう成人だろ、なら世継ぎを考えないといけないだろ」
「争いの元だ。お前も幼い頃は目を清流のように輝かせていたのに今では、油のようにギトギトとしてある。あの時のグラフィットはどこに行ってしまわれたのか……悔やんでも悔やみきれない、」
そう、あの時のグラフィットはそれはそれは綺麗な目をしていた、全ての物に好奇心を抱き、全ての物に関心を持っていたが……今では、この有様となってしまった。
グリエルは後悔先に立たずと言った雰囲気を醸し出し、グラフィットを批判した。
「グリエル、あんたも息子に殺されたんだろ。人のことが言えるのか?」
「私はグリエルではありません。セバスです、お見知りおきを」
「そう言うやつなんだな、マルシュ! この者を連れて行け!」
腹の負傷からゆっくりと回復し、やっとの思いで立ち上がったマルシュに向かいグラフィックは左腕をバッと魔法の杖を振るように振りポーズをかっこよく決めたグラフィットの左手が掴まれた。
「え?」
「グリエル様も陛下も、何しにここにきたんですか?」
マルシュの一言はこの場の空気を一変させ、先ほどまでの張り詰めた空気がさらに張り詰めるのが肌で感じられた。
「陛下、仕事する気がないなら執務室に連れ戻しますよ、ただでさえ、聞くに耐えない雑音が夜中中鳴り止まず、迷惑しているのですから、起きているうちに進めてもらわないと困ります」
色々この陛下に不満がある様子のマルシュは陛下に問いかける「仕事しますか? それとも缶詰になりますか?」マルシュが言う仕事とはこの場合、グリエル達との話し合いで、缶詰とは執務室でも仕事のことである。
がしかし、どの道缶詰になる事には変わらない。いい加減仕事してもらわないと部下達が困り、これ以上、逃げ回るのであれば牢屋で仕事させろという過激な意見が一部から出ていて、押さえつけるのも一苦労なのである。
ネチネチネチネチ言われ、つまんなくなってきた、グラフィットはわざと手を叩き自分に視線を集めるような動作を見せた。
「よし、皆のもの仕事に戻るぞ、グリエル達は俺の執務室に来てくれ、マルシュ案内してくれ、俺は少し用事を済ませてから行く」
「用事とは?」
いつもこの手で逃げられているマルシュは問い詰める。
「トイレだ。お前もついてくるか?」
「見張りの者を付けます」
チッと舌打ちしたグラフィットは「見張りが可哀想」と呟き謁見の間を後にした。その背後を衛士達2人が少し間隔を空け、バレてないつもりなのか尾行するように歩いて行った。
「グリエル様達はこちらへ」
マルシュの先導され2人もこの場を後にする。
グラフィットの執務室に案内された2人はメイド部隊から飲み物とお菓子を受け取りお菓子の包み紙を撒き散らし、自分の部屋のようにくつろいでいた。
だがしかし、1人だけ別の感想を持った屑がいた。それがアラエルである。先ほどメイド部達が紅茶を持ってきてくれた時、ほんわかと香った香水の匂いを鼻息荒くしながら嗅ぎまくっていた。本人は気づかれてないと高を括っていたが残念な事にセバスもメイドも気づいていた。
「こっちもこっちで教育を間違えたかも知れぬな」
アラエルの耳に入らない程度の声量で呟いた。
そうして待つ事約10分、複数名の足音が室外から聞こえると、いきなりドアが開け放たれた。
「待たせたな!」
「「はぁ」」
その人物を視認した瞬間、2人のため息が不思議と重なった。ズカズカと入ってきた男は、後ろに部下を2人携え、アラエルと対面する席は腰を下ろした。
「2人とも帰っていいぞ、尾行お疲れ様」
「お前、国王としての威厳はないのか?」
「ない」
グラフィットは尾行して来た2人にそう声をかけると、2人はグラフィットに括り付けられていた、ロープを解き、帰って行った。
と、きっぱりと断言したグラフィットの表情は何故か国王ヅラしていた。
「はぁ、やっと手が楽になったよ、ありがとな!」
すでに聞こえないと思うがグラフィットはドアの向こうにまで聞こえる声量で怒鳴った。
「さて、無駄話はいいや。本題に入ろう」
「何にも言わないのか?」
「進めてくれ」
「お前が俺を誘ったんだろ」
隣に座るアラエルに意味深な視線を送ると、グラフィットを座らせた。グリエルは腕を組み少し前傾姿勢に姿勢を変えた。
「そうだったな、グランドの件はどうなった?」
グラフィットは視線を窓の外に流して、2人の方を見ずに口を開く。
「……あぁ、その件か、アラエルのガキは置いといていいのか?」
「そのために来た」グリエルはそう一言、断言すると少し目を伏せた。「今後の方針を決める為にもアラエル様には居てもらわないと行けない」そう穏やかな口調で言う、それに対してグラフィットは「そうか」グリエルの意思が固いと感じたのかそれ以上は何も言わずに、当事者であるアラエルに視線を向けた。
「俺が? 何のために?」
「じきにわかる」
グリエルはその質問には一切答えず、グラフィットに話の先を促すしたがグラフィットは本当にアラエルの前で話して良いのかと言う視線を向けると、グリエルは少しだけ頷き「話してくれ」と落ち着いた様子で答えた。
その答えを聞いたグラフィットは硬く結んだ口をゆっくり開いた。
「…………正直言ってかなりヤバい。今ある証拠見ている限り、取り潰しまだ行ってもおかしくない」
取り潰し。その言葉を理解したグリエルはその理由を求めるような眼差しでグラフィットを睨むが隣に座るアラエルはと言うとあまりピンと来てない様子で視線を泳がせている。それか先ほどの桃源郷でも思い出しているのかもしれない。
「アラエル様、どこをご覧に?」
「っ、えっと少し2人の話を噛み砕いてたんだ。まとめると、父上が裏で悪事に手を染めていると、それでオズワルド家自体取り潰しになる?」
アラエルの説明はポロポロと砕くように出てきたがその内容は要点を掴んでおり、あのセバスも『おぉ』と思わず口に出していた。
「すごい。てっきりさっきのメイドのことを思っていると思っておったが……」
驚きの声を漏らすグリエルにアラエルと同じ穴の狢のようなグラフィックが『グリエル、騙されてはダメだ』とグリエルにその先を言わせないようにした
「馬鹿は馬鹿なことがよくわかる。その目嘘つきの目だ」
そのままのポーズで硬直しかっこよく決めたと勘違いしているグラフィックの手のひらが叩かれた。
「どっちがバカでもどうでも良い。さっさと話を進めろ」
「俺にだけ厳しなくない?」
「気のせいだ」
突き放された格好となったグラフィックはぐだぐだ言いながらも、本題に入った。




