第九章:【夢】花が、笑った。
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「わぁ!これは何の花?!」
思わず嬉しくなって頑張って上半身をベッドから起こした。
「しらねーよ。俺んちの庭に生えてた奴適当に引っこ抜いてきただけ」
「そうなの?!こんな綺麗な花が生えてるなんて…
オリオンの住んでいるところ、行って見たいなぁ…」
「あ、わりぃーな。お子様は出入り禁止なんだわ」
「あのねぇ…オリオン。この際だからはっきり言っておくけれど
その口調はどうにかならないの?
僕これでも一応神様なんだけど。
分る?
神様。
君ら人間とは全然ちがうんだよ?」
「はん!何をえらそうに!
全然神様っぽくないじゃんかよ。神様っていうのはアルテミスみたいに
美しさと気品、神々しさを含んでそこでやっとそう呼ばれるもんなんだよ。
それに比べてお前はなんだよ。
ちびっこいただの病弱なガキじゃねーか。誰が神として扱うもんか」
もうここは苦笑いするしかなかった。
だが許そうと思う。
月で初めて会ってからというものの
アルテミスの言いつけを律儀に守り
よく花をもって僕の所へ訪ねてきてくれるのだ。
なんだかんだ言って僕のこと気に入ってくれたんだろうか?
最初は腹ただしさで一杯だったがこうもしょっちゅう遊びに来てくれると
嬉しくて仕方がない。
それまではイネ=ノの回診、仕事の話ぐらいで楽しみが何もなかったのだ。
少々口は悪いがそんなのはもう全然気にしないところだ。
「なぁ…いつもくるたびに気になってたんだけどさぁ、
お前の枕元においてある、それ、なんなの?」
オリオンは目をキラキラさせながら僕の枕元にある小さな小箱を指差した。
「これ?大事なものだよ。神儀のときにしか身につけないけどね。
見る?」
ゆっくりと体をひねり枕元に置かれたその小箱を取った。
細かい装飾が施された木箱をそっと開くと中には小豆色の大きな玉が布に包まれ大事そうに入っていた。
「うぉ、綺麗じゃん。見せてよ!」
「あ…見るのはいいけど触っちゃだめだよ。オリオンが消滅しちゃう」
「は?」
「これ、守護石だから」
すると突然目を丸くしながらオリオンは後ろに2、3歩後ずさりしてみせる。
「しゅ…守護石って!?星座守護神が持ってるあの石のことか?!」
「そうだよ?」
きょとんとしながら僕は言った。
「おいおいおいおいおい!!なんでそんな大事なもの枕元にぽんって置いてあるんだよ!!」
「え?なんでって…、大事だから枕元においてあるんじゃないか。
それに僕、一応星座守護神だし。」
「馬鹿言え!
守護石って言ったらあれだろ?!すげー力あって星がいくつも簡単にふっとぶって奴だろ?!
誰かに盗られたらどうするんだよ!!
そういうのは普通神殿の中央とかなんとか、とにかくちゃんとした所で
厳重に管理するもんだろ?!」
「大丈夫だって…。これは僕にしか扱えないんだ。
だから僕以外のものが触ると石の力が強すぎて消えちゃうんだよ。
だから触らないでって言ったでしょ?」
「おいー!そんな恐ろしいもの、ぽんと渡そうとするんじゃねーよ!俺を殺すきか?!」
「そういうつもりじゃ…。
でも君、僕が守護神って意識全然ないでしょ?
これで分ってくれた?僕神様。君人間。」
「はん!何言ってるんだよ、何もできないちび助が!
俺はなぁ、アルテミスがお前に花を届けてやってくれって言うから仕方がなく
いやいや顔も見たくないお前のところに通ってやってるんだぞ。
いいか?
お前、自分で花も摘みに行けないくせにえらそうなこと言うんじゃないぞ?
俺のほうが自由なんだ!
何が神さまだ。いばんじゃねーよ」
「ちょ…何その、無理やりやらされてますって言い方!
そんなに嫌ならなんでアルテミスに断らなかったんだよ。」
「そりゃ…愛しのアルテミスが言ってるんだ。嫌な仕事だってするさ」
「な?!愛し?!
まさかオリオン…アルテミスのこと…!!」
すると突然オリオンの顔が真っ赤になっていくのが分った。
分りやすい奴…。
「残念だってね。アルテミスは女神。君の事なんて相手にしてないって。
まだ僕のほうがふさわしいね!」
「はぁ?!何寝ぼけたこと言ってるんだ?馬鹿じゃねーの?」
「ひどい!!神を侮辱する気?!」
「だーかーら!
俺はお前を神だなんてこれっぽっちも思っちゃいねーよ!」
「頭きた!!」
そう言って守護石入りの箱を投げつけるポーズをとって見せた。
「うわぁ!!邪神だぁっ!!邪神がいる!!」
そういいながらオリオンはわざとらしくのけぞって見せた。
その格好があまりにも間抜けで僕は声をだして笑い出した。
「あはははははははは!!なんだよその格好!!
冗談だって!!
あはは…おかしい!!
おかしすぎるよ!!!」
涙まで出てきた。
あまりにもオリオンのその格好がおかしすぎて笑いが止まらない。
「からかうんじゃねーよ!!」
いじけた顔をしながらオリオンもゆっくり立ち上がるとケラケラと笑い出した。
なんだろう…
こんなに思い切り笑ったの……、
もしかしたら生まれて初めてなんじゃないだろうか?
とにかく…
僕はオリオンが来てくれるのが凄く嬉しくて
毎回その日を心待ちにしていた。
ちいさな花を乱暴に手に持ってやって来ては毒づくオリオンを。




