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第八章:【現】交差地点

-1-


なんて…


なんて、綺麗な…


「…オン…」


なんて、綺麗な桜…


「紫苑!」


はっとして目を開く。


「…あれ…お母さん…?」


心配げに僕の顔を覗き込んでいる母親の顔がそこにはあった。


「気がつきましたかね?」

脇から保健医が顔を出す。


もしや…。


ゆっくりとあたりを見回すと

ここ最近何度も見た保健室の景色が広がっていた。


またやってしまったのか…。


「紫苑、大丈夫?」

ゆっくりと体を起こすと母親が僕の体を支えてくれた。


「お母さん…なんでここに」

「なんでじゃないわよ。学校から連絡もらって急いできたの。

二度も倒れるなんて普通じゃないわ。

一体どうしたって言うの?

昨日も様子がおかしかったから心配していたけれど…

学校休んですぐに病院にいくべきだったわね。

見逃したお母さんがいけなかったの。ごめんなさいね。

さぁすぐ病院で診てもらいましょう」


そこへちょうど担任の先生がやってきて

母はぺこぺこと頭をさげはじめた。


僕はゆっくりと体を起こすと

ハンガーにかけられたブレザーに袖を通しゆっくりと立ち上がった。


「どう?ふらついたりする?」

保健医が聞いたがゆっくりと首を横に振った。


「いえ、もう大丈夫です。」


僕も母と一緒に保健医と担任に頭をさげ保健室を後にした。


外へ出ると日が傾き始め空がオレンジ色に染まり始めていた。


美しい景色のはずなのに

なぜか切なくて仕方がない。


そうだ…

また夢を見ていたんだ…僕。


また…あの夢…。


なんなんだろう…。


射川が言っていた夢の記憶…?


いや…そんなの信じない!

ただの偶然だと思う…。


それにしても

なんだろう

どこか切なく…どこか懐かしい…。


不思議な夢だった。


夢の世界に居心地の良さを感じていた。


僕や僕の周りの人たちが出てきて

優しく微笑んでくれる、そんな世界が…

なんだか気持ちいい…。


ゆっくりと目を閉じるとすっと息を吸って

ぱっと目を開いた。


あれは夢なんだ。

そう割り切るとオレンジ色の桜並木を歩いた。




その後僕は母に連れられ、近くの総合病院で一通りの検査を受けた。

その日のうちにレントゲン、MRI、心電図などを一通り受けたが

その検査の中では異常は見つからなかった。


最悪大学病院で精密検査をさせられる羽目になりそうで気持ちはかなり落ち込んでいた。


あれだけ胸に激痛を受けたのだ。

全くなんともないわけがない。

だが…。

病院の検査で何もひっかからないのだとしたら…。


昨夜射川が言った事を思い出す。

僕の心臓に封印を行ったためにそのような症状がでているのだ、と。


一体どういう事なんだろうか…。


家に帰り着くと母が夕食の準備をしている間

自分の部屋でゆっくりとくつろぐことにした。


制服から私服に着替える。

今日はなんだかいつもより冷え込む。

上にカーディガンを羽織った。


と、携帯の着メロが鳴り響く。


この着メロは野田からのものだ。

携帯を取ると昼間聞いた声が携帯の向こうから聞こえてきた。


「おい、大丈夫か。また倒れたって…」

「心配かけちゃってごめん。今病院に行ってきたんだけど検査では何も異常ないって」

「…異常なしって…一日に2回倒れる自体異常だろ?!」

「そうだけど…」

「まぁいいや。それより明日なんだけど出て来れそう?」

「え?」

「ちょっと話したいことがあるんだけど電話越しじゃちょっとな。

もし体調悪いならしょうがないけど」

「いや、大丈夫だよ。特に明日は何も予定ないし学校にも行く予定だよ。」

「そうか。じゃあ明日の…放課後にでもランチしながらゆっくり話そう。」

「うん、わかった。じゃあ」

そう言って電話を切った。


なんだろう…話しって。

わざわざ電話でそんなことを言うなんて野田らしくない。

何かあったのだろうか?


-2-


ティーカップが音を立てて割れた。


「明人!」

母親の怒鳴る声がダイニングに響く。


「違う!!

みんなだまされてるんだよ!!

こんなのお兄ちゃんじゃない!!」

そういい終えるか終わらないかのうちに家族を置き去りにし

部屋を飛び出すと

階段を駆け上がった。


二階で明人の部屋の扉が乱暴に閉まる音がした。


「…まったく…どうしちゃったのかしらねぇ。

せっかくお兄ちゃんが戻ってきたっていうのに。」


割れたティーカップの破片を慎重に拾い集めながら母が言った。


「いいんです…。少しずつ打ち解けてくれれば…。」

「…そうね…。

でも…

竹人もいい加減家族の前で敬語を使うのはやめなさい。

よそよそすぎるわよ。


私たちは家族なんだからもう少し気を抜いてもいいのよ。

記憶はそのうちゆっくり取り戻せるから今は焦らないで

普通に過ごしていればいいの。

分った?」


「はい…」


ゆっくりと頷き、ティーカップを手に取ったが口はつけなかった。


僕がこの世界へ来てからどれくらい立つだろうか。

射川竹人としてこの家にもぐりこんだ。

竹人が僕の世界に行っている間にこちらの世界では2年もの月日が流れていた。

あまり話をややこしくしたくなかったので

記憶喪失という事にしておいた。


僕は射川竹人として振舞う。

あいまいな記憶を持つが失踪中の記憶は一切ない、という事になっている。

もちろん、あいまいな記憶というのは射川竹人本人から聴いて知りえた情報のことだ。

ただ、やはり顔は瓜二つでも中身は別物だった。

ある日ピアノ演奏を明人にせがまれた。


楽器の扱いくらい自分の力でなんとでもなったが、しかし

弾き方がぜんぜん違う、お前は偽者だ!と指摘されてしまったのだ。


バイオリンだったら竹人の弾き方を完全にコピーしたものを演奏すればよかったのだが…。

竹人のピアノ演奏を僕はしらない。

上手に演奏する事は出来ても竹人自身が持つ細かい演奏表現までを真似る事は出来なかった。


かと言って人間が持ち得ない力をこの世界で使うには少々危険が伴う。


今は力を抑えて生活しているが…

それでも力を完全に消す事はできない。

このままでは…見つかってしまうかもしれない。


正直元来た世界に一刻も早く戻りたい所なのだが…

その時はまだ訪れない。


その時が訪れるのをただただ待つしか僕には出来なかった。


しかし、その間に僕にやるべきことが一つできた。

羽鳥翼との出会いがそれだ。

まさかこんな形で彼と出会えるとは夢にも思っていなかったのだが。

とにかく今僕が出来ること。


それは、

紫苑の暴走を食い止め、繰り返されようとしている運命を阻止することだ。


それができれば、

もし仮にもとの世界に戻ることができなくとも

後悔せずに済む。

そもそも僕はこのためにこの世界に飛ばされてきたのかもしれない、

と悟ることが出来るかもしれないからだ。


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