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第七章:【夢】月光花

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「あなたが蠍座守護神のキク=カですね。お話に聞いていた通りなんとかわいらしい…」


一面に月光花が咲き乱れていた。

白くぼんやりと光を放ち満天の星空の下、白い海のようにさらさらと揺れては

甘い香りを放ちながら咲き誇っている。


月にある宮殿の庭で僕はイネ=ノから紹介を受けた。

跪きアルテミスの真っ白な手をとるとそっとキスをした。


「なんだ、ガキじゃないか。

蠍座って聞いたからどんだけ強そうな奴かと思ったら…。気が抜けるぜ!」

「オリオン!」

イネ=ノが言葉をとめた。


アルテミスの斜め後ろに立っていた大男が僕を偉そうな目で見下ろしニヤニヤと笑って見せた。


なんだ…こいつ…。


「ごめんね、キク=カ。彼はオリオン。君が月に来るって言ったら是非会いたいって言って

遊びに来てくれたんだ」

にこりと微笑みながらイネ=ノがその大男を紹介した。


「それはどうも」

そういいながら大男を睨みつけて見せた。


「ふん。ちびっこい割に気は強そうじゃないか。」

「オリオン、およしなさい。今日はキク=カにこの花を見せたかったのよ。

さぁキク=カ、こちらへ」

そういいながら白いベールの美しいドレスを翻し僕の手をとりさらに花畑の

奥へと案内してくれた。


その後ろからイネ=ノとオリオン、そしてスズ=タケが続いてやってくる。


「あそこに見えるのが地球。

この月光花は太陽ではなく地球の反射光で育つとても珍しい花なの。」


満天の星空の中に浮かぶ美しい惑星がそこにあった。


「あれが地球…なんて綺麗なんだろう…。話には聞いていましたが本当に美しい…」

そういいながらアルテミスの顔をみる。

白く透き通った美しい肌に長いまつ毛。

きらきらと輝く金色の髪、桜色のうつくしい唇に、地球と同じ透き通ったブルーの瞳…。


これほど美しい女性に僕は今まで出会ったことがあっただろうか。


城の中に出入りする人間は限られていて

どちらかというと顔を合わせるのは男ばかりだ。

だからか余計にアルテミスが美しく際立ってこの瞳に映っているのかもしれない。


「この月光花には効能があって、花びらを煎じて飲むと心が穏やかになれるそうよ。

よかったらキク=カも召し上がって。」

アルテミスが目で指す方向をみると

花畑の脇にあるテーブルセットで月うさぎたちがお茶の用意をしていた。


「うさぎ…」

思わず口に出して驚いた。


「ふふ…蠍座の星には大サソリがいるって聞いたけれどこちらはうさぎなの。

皆とても穏やかでよくしてくれるわ。ここの花の世話も彼らがしてくれているのよ。」

「そうだったんですか…」

真っ白な毛に真っ赤な目をしていて二足歩行で歩いている。

服の変わりに首に小さなリボンを巻いていた。


うさぎと一緒にアルテミスの使いのニンフたちもお茶やお菓子を出すのを

手伝っていた。


椅子に座るとティーカップにお茶が注がれた。

桃のような甘い香りがふんわりと漂う。

お茶の色はかすかに若草色に染まっていた。


アルテミスに促され、頂きますと言いながら一瞥すると

ゆっくりとティーカップに口をつけた。


「!!」

思わずカップから唇を離す。


いつもイネ=ノが淹れてくれる様な甘さやまろやかさはなく…

なんというか…少し渋く、あとから苦味も伝わってくる。


「変わっているでしょ。

地球で摘んできた茶葉をブレンドしているの。

月光花自体に味がないから少しアレンジしてみたのよ。

私、以前地球に少しだけ住んでいたことがあったのだけれど

そこで頂いたお茶がとてもおいしくてそれを月光花と一緒にしてみたの。」


「僕がいつも甘いものばかり飲ませているからそれに慣れちゃうと最初は

ちょっと違和感があるかもね。

でも慣れるととてもおいしいよ」

そういいながらイネ=ノもカップに口をつけた。


「子供にゃわかんない味だよな。あーうまいうまい。」

そういいながらオリオンはカップのお茶を一気に飲み干して見せた。


さっきから僕を子ども扱いしたり…こいつはなんて失礼な奴なんだろう。

「あの…あなたはアルテミスとはどういった…?」

「あん?」

オリオンは眉間にしわをよせ僕を思い切り睨みつける。


「狩り仲間なの」

アルテミスが上品に言った。

「え?」

「狩りだよ。か・り。

まぁ君にはまだちょっと無理だろうけどな」


本当にこいつの一言一言が頭にくる。


「じゃあ狩猟の神か何かですか?」

「はぁ?」

また僕を馬鹿にしたような顔で睨みつけてくる。


「オリオンは人間なんだよ。だけど

狩猟の腕はぴか一でね。

アポロン様にその腕を認められたくらいだ。」

イネ=ノが言う。

「そうなの。私も狩りをするのだけれどオリオンと一緒だと良い獲物がたくさん取れるの。

だからよく付き合ってもらっているのよ」


「そうなんですか…」


人間の癖に…と心の中でオリオンをにらみつけた。


「おっと…そんなに羨ましければ一緒に連れて行ってやってもいいんだぜ?」

「え?」

「おいおい、オリオン。キク=カにあまり無茶を強要するのはやめてくれよ。

今日だってここまでくるのにどれだけ体に負担をかけているか」

「ああ、そうなんだぁー。そりゃ残念だなぁ…。

いやー、狩りほど楽しいものはないのに…。ねぇ、アルテミス」

嫌味に目を細め僕をニヤニヤと見た。


「…行く…」


「え?」

イネ=ノとアルテミス、オリオンが同時に僕を見た。


「僕も狩りに行きたい!!」

「ちょ…キク=カ、何を言って…。ほら!オリオン、君が変なこと言うから!!」

「変なことじゃないよ、僕だって狩りしてみたいよ!!」

「キク=カ…」

止めてくれよといわんばかりイネ=ノは助けを求めるようにスズ=タケを見た。


少し離れた所で少し怖い表情で立っていたスズ=タケはそれに気づきながらも

何も言わず黙り込んでいた。


「気持ちは分るけれどまずは体を治すことが先決よ、キク=カ。」

アルテミスが優しく微笑んだ。


「そうだわ、オリオン。

そんなにキク=カと狩りに行きたいのならすこしでも早くキク=カが良くなるように…

そうね…花を届けておあげなさいよ。」


「え?」

オリオンとイネ=ノが声を合わせて首をかしげた。


「そうよ。それがいいわ。キク=カは花が好きなんでしょ。

生の花をみたらたちまち元気になれると思うの。

そうよ、そうしましょう」

楽しそうに一人喜ぶアルテミスだったが

他のものたちは少し困ったように笑ってみるしかなかった。


反論したかったがそれではアルテミスに逆らうことになるため

僕も何も言えずとりあえず皆とあわせて苦い笑顔を作って見せた。


気を取り直してもう一度カップに口をつけ、そっと茶を啜る。

不思議と二度目はさほどの苦味を感じず、さらりと飲むことが出来た。


「あ…おいしい」

するとアルテミスがクスリと笑う。

「持って帰って飲むといいわ。キク=カの体にもとてもいいものだと思うの。」

「ありがとうございます」

にこりと微笑んで見せたがなんとなく恥ずかしくなって

照れ隠しに庭に視線を逸らした。


「…そういえば…あれは何の木ですか?」

月光花の花畑のところどころにぽつりぽつりと、葉が一枚もついていない

なんとも寂しそうな木が植えてある。


「あれは桜よ。今は何もないけれどよく見ると枝の先につぼみがついていて

それが一気に咲き乱れる姿がとても美しいの。」

「もしかして“ソメイヨシノ”ですか?」

「あらご存知なの?

さすが!本当にお詳しいのね。」

「なんだい?“ソメイヨシノ”って」

イネ=ノが小首をかしげる。


「地球に生息する桜の一種なの。

以前地球で生活したと言いましたでしょ?

ニホンという国にいたのだけれど、そこで咲き乱れるソメイヨシノの桜があまりにも美しかったので

こちらに戻ってくるとき枝を何本か分けてもらって植えたのよ」

「そうだったんですか…」


「懐かしいわ…あの時は国中の殿方に結婚を申し込まれてそれはそれは本当に大変だったのよ。

かぐや姫と呼ばれ本当に良くしてもらったわ…。また行ってみたいわ…ニホン」

そういいながらアルテミスはコロコロと愉快そうに笑って見せた。


「さすがにもう地球へはおりられないのでしょ?」

イネ=ノがお茶を一口啜って聞いた。

「…どうかしら…。今は他の星たちのことでいっぱいいっぱいだから…

ひと段落したらまた降りてみたいと思うのだけれど…。」

そういいながら小さくため息をついたアルテミスの横顔が妙に色っぽくて思わず

僕は目を逸らした。


「キク=カも早く体を治して皆で地球の桜を見に行きましょう。」

「え?」

「ね?」

アルテミスが目を細めながら微笑む笑顔がまぶしすぎて

思わず頭が一瞬くらっとなった。


この方は本当に不思議な方だ…。

その未知数な魅力に僕は静かに心惹かれていくのだった。


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