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第六章:【現】精神梗塞

-1-

夢を見ていた。

なんとも生々しい…不思議な夢だった。


ゆっくりとベッドから起き上がる。


体はまだだるいままなのに頭は鮮明にその記憶を覚えている。


まるで夢ではなく現実の出来事だったような鮮やかさだ。


部屋を見回すと

机の上に乱暴に置かれた学生カバン、

脱ぎ捨てたままの制服が床に散乱していた。


パジャマを着た記憶はない。


夕食も摂らず、風呂にも入らず、

いつ自分がベッドに入ったのかも覚えてはいない。


気がつくとなんとも濁った朝を迎えていたのだ。


時刻はいつも起きる時間とさほど変わらなかった。


「紫苑、起きてる?」

そこへ母親が心配げな表情を作り顔を出した。


「ん、何?」

「大丈夫?具合悪いの?」


部屋に入ってくると僕の額に手を当てた。


「熱はないみたいだけど…朝ごはん食べれる?」

「うん。大丈夫。今起きるよ」

そう言ってベッドから体を起こした。


「そう…じゃあ着替えたら台所へいらっしゃい」

そう言って母は部屋から出て行った。


それを見届けてから大きなため息を一つつく。


左手をみると、昨日射川がはめたという指輪が間違いなく小指にはまっていたのだ。


そこでもう一度大きくわざとらしいため息をついた。


それは間違いなく視覚情報として脳がしっかりと認識しているのに、

やはりなぜか触れることが出来ない。


そういえば毒がどうとかって射川が行っていた。

なにかかなりやばい薬でも盛られて幻覚を見ているのだろうか…。


ああ…まてまて、

そうだ、

冷静に考えてみろ。


そうなら辻褄が合うじゃないか。


ホールで何か薬を盛られて体が拒否反応を起こす。

幻覚が見えふらふらな状態の所を他の誰かが見たら不審に思う。

それではまずいということで僕を車にのせて家まで連れ帰った。


ああ…そうだ。

そういう事なんだ。


だったらあの外人も共犯者だ。

得体が知れなさ過ぎる。

もしかするとあの外人が薬の売人で、射川に薬を渡したのかもしれない。


射川といいあの外人といい、なぜ僕を選んであんな事を…。

もしかして僕が昼休みに覗いていたの、気づかれたんじゃ?!

だんだん怒りがわいてくると同時に得たいの知れない恐怖心が芽生えた。


僕一人じゃ解決できる問題じゃないのでは…。


ああ!そうだ。

僕一人で解決できなかったら俺の所に相談に来いって野田が昨日言ってくれてたんだった!

そうだ!野田に相談しよう!!


乱暴にパジャマを脱ぎ捨てた。



-2-


「は?」

「だから…僕何か薬を盛られたみたいなんだよ」


朝、屋上へ通じる階段へ野田を連れ込むと今までのあらましを説明して話した。


「で、その外人に車で送ってもらった、と?」

「そう!ね、変な話でしょ?!」

「確かにやばいかもな」

「でしょ?!」

「お前の頭がな」

「えー!なんでだよ!!


「本当なんだってば!ほら、ここに指輪があるんだよ!

僕には今こうして見えてるのに…野田は見えてないんだろ?」

指をかざして見せるが野田は何も言ってくれない。

しばしの間があった後、

「紫苑、小説の読みすぎじゃないの?てか今日の数学、お前当てられるぞ。

馬鹿なこと言ってないでとっとと教室戻って復習したほうがいいんじゃないの?」

そういうと野田は背を向けて階段をおり始めた。


「ちょ!待ってよ!!

一人で抱えきれなくなったら俺の所来いって言ってくれたじゃんか!」


「それさぁ…マジだったら警察に相談したほうがいいよ。

けど、その話しまんま説明しても病院紹介されて終わりのような気もするけどな」


野田が冷たい。


どうしたら分ってくれるんだ!!


と、そこで一時間目開始の予鈴のチャイムが鳴り響く。


野田は一人先に教室に行ってしまった。


一人その場に置いてきぼりを食らう。


「待ってよー!」

そう叫びながら階段を駆け下りた、と

またズキンと心臓が痛み慌てて胸を押さえた。


ほら…やっぱり!


ゆっくり呼吸を整える。


大丈夫…大した事なんてない。

大した事なんて…。


慎重に階段を降りると教室へと向かった。



-3―


「やぁ、紫苑君、おはよう。」

僕の席の後ろに座っていた射川がニコリと笑顔を作って挨拶してきた。

それを思い切り無視し自分の席に着いた。


こいつにはもう二度と関わらないほうがいい。


そうだ!

そうだよ。

関わらなければいいんだ!


とにかく射川と二人きりになったのがいけなかったんだ。

無視だ!

今後射川の事は無視するに限る!


そう決心したその瞬間に射川が肩をぽんぽんと叩いてきた。


「悪いんだけど数学のノートみせてくれない?どこまで進んでるのか確認したいんだけど」


無視にかぎる!

無視だ!無視!

だんまりと黙ったまま僕は射川の言葉を無視し続けた。

と、

「俺のノートでよかったら見る?」


思わず目を見開く。


野田が自分のノートを射川に差し出したのだ。


「ああ…有難う。助かるよ」


この裏切りもの~!と心の中で野田に怒鳴りつける。


「こいつ宿題やってこなかったみたいでさ。

紫苑のノートあまり当てにならないぜ」

「そ!そんなこと…!!」

と言った所ではっとする。

昨日帰ってきてすぐに寝てしまったんだ。

つまり…

宿題をしてない!!


やばい!!

今日は僕が授業で当てられる日だったんだ!!


「野田…、僕もノート見せてほしいんだけど…」

恥ずかしくて顔が赤くなるのが分ったが…廊下に立たされるのだけは回避したかった。


「ポッキー一袋で手を打ってやるよ。新製品でたんだろ?カバンからチラッと見えたぜ?」

野田がにやにやしながら手を差し出した。


ちぇ!っと口を尖らせるとカバンの中からポッキーの箱を取り出した。


と、突然それを取り上げられる。


「あー、紫苑君ガッコーにお菓子持ってきてるぅー!」

「日向っ!!」


僕のポッキーを高く掲げてクラスメイトたちに見えるようにしてわざとらしく言う。

「返してよ!」

椅子から立ち上がり手を伸ばすがやはり届かない。


「返してほしかったら、こっこまでおいでぇ~!」

わざとらしくポッキーの箱をひらひらさせながら

教室の前まで走っていく。


やばい!

先生に見つかったら廊下行きどころじゃすまない!!

慌てて日向を追いかけた、

また心臓がズキンと痛み

思わず胸を押さえ立ち止まった。


「どうしたんだよ~」

日向がこっちだよーとかいいながら黒板の前に立っていた。


やばい…もうすぐで本鈴がなる…!


再び走り出したところで痛みに耐えられず

その場にうずくまってしまった。


傍にいた女子が心配そうに大丈夫?と声をかけたのが上から聞こえたが、

また呼吸が荒くなっていくのが分った。


と、学園内に本鈴のチャイムが鳴り渡る。


やばい…席に着かないと…。


なのに…体が…

体が動かない!!


「紫苑、どうした?」

野田の声が聞こえたが立ち上がれない。


教室のドアが開く音がした。


数学教師が入ってきたのだ。


教室に先生が入ってきた時点で席についてないと

廊下行き決定…なのに…。


「だれだ、まだ席に着いてない奴は!」

先生の怒鳴る声が聞こえたが胸の痛みが止まらない。


顔を上げることができず下を向いていると

先生の靴が視界に入った。


「おい、観月どうした?具合でも悪いのか?」

珍しく優しい口調の先生の声が上から降ってくるのが聞こえたが

記憶はそこでぷっつりと途切れている。


-4-


さくらが散っていく。


さくらが散っていくよ。


さくら、

さくら、


さくらが散っていく。


なんて…


なんて…


なんて綺麗なんだろうね…。


なんて綺麗なんだろう…。



-5-


「一度病院で診てもらったほうがいいわね。」

保健医にそう言われたがなんとも煮え切らない気持ちで僕はすっかり気落ちしていた。


外では生徒たちの楽しげに弾む声が聞こえる。


午前の授業は全て終わり気がつくと昼休みを迎えていた。


「早退して今から病院行って来なさい」

「え…あ…いえ…あの…明日土曜日なので明日行きます。」

そういいながらゆっくりとベッドから起き上がった。


「本当ね?必ず病院にいくこと。いいわね」

「はい…」

その気は全くないがとりあえず返事だけして保健室を出た。


「紫苑君」

教室へ戻ろうとした所で呼び止められ振り返る。


「具合はどう?」

射川が腕を組みながらそこに立っていた。


頭にかぁっと血が上るのが分った。


すぐさま射川の腕を引っ張ると裏庭に連れ込んだ。

僕がいつも昼休みに小説を読んでいるあの庭だ。


「どういう事?!」

射川の目を真っ直ぐ見つめ怒鳴るように言った。


「え?」

「えじゃないよ!!

全部射川のせいなんだろ!!

はやく僕の体もとに戻してよ!これじゃあ何もできない!!」


噛み付くように言う。


「僕に何か変な薬でも盛ったの?

ちゃんと全部話してよ!

でないと今から警察に行って昨日のこととか全部話すからね!!」


「まって…。

ごめんごめん。

ちゃんと話すよ。だから落ち着いて」

僕をなだめるように言う。


「僕にもわかるように分りやすく説明してよね?!」

僕の前に立つ射川を上目遣いでにらみつけた。


「ああ…分ったよ。

ただ…」

そういって射川は一度言葉を切った。

少し困惑した表情を作ってみせる。


「ただ、何?」

「今から僕が話すこと、到底君は信じられないと思う。

けれどそれがすべて真実である事を分ってほしい。

うそ偽りなくありのままに全て話すから君も最後まで聞いてくれるかい?」


「いいよ。じゃあ話して」

近くにあったベンチにどっかりと腰かけて見せた。


「分った。」

一度小さくため息をつく。

珍しく射川が緊張しているように見えた。


「じゃあ…まず。

僕の本名は”イネ=ノ“。君たちとは本来別の次元に住んでいたんだが…

ちょっとした手違いでこちらの世界に飛ばされてきた。

僕の世界と君の世界ではそれぞれ同じ顔をした人がいて

異なる役割を得ながらもそれぞれ生活しているようだ。


僕自身、この世界に来たばかりで正直全てを把握できていないが

そんなところだと思う。


つまり、君と同じ顔の人間が僕の世界にも存在している。

同時に僕と同じ顔の人間がこの世界にもいたんだが…

彼が僕の世界へ迷い込んできてね…

本来なら彼が元の世界、つまりこの世界に戻ってくるはずだったのになぜか

僕がこちら側に来てしまっている。

ここまでの話し…分ってくれるかな?」


一度話しを切り確認を求めるように射川は僕の目を真っ直ぐと見つめた。



「射川さぁ…君こそファンタジー作家にでもなるべきだよ。

ファンタジーとしては十分面白いと思うよ。

異世界迷い込み型ってやつだろ?

それにしても、どこまで人を馬鹿にしたら君は気が済むんだよ。

もういいよ。

君とは関わらないようにする。

だからもう僕にかまわないでくれる?

じゃ。」


そういってベンチから立ち上がり射川に背を向けた。


「待って!今朝夢を見なかったかい?!」

「夢?」

振り返って射川の顔を見る。


「そう。

僕らの世界の記憶を君はその指輪を得ることによって夢として共有しているはずだ。」


「ああ…みたよ。

僕や野田、それに射川が出てきてた。

で?

ただの偶然でしょ?」


そういい残すと足早に裏庭を後にした。


一体何だって言うんだ。

人を馬鹿にするにもほどがある。


射川が異世界の人間だって?

その異世界人が僕の世界へ飛ばされてきた?!


馬鹿馬鹿しすぎる!!


なんで本当の事を言ってくれないんだろう…。

本当の事を言うと射川にとってまずい事でもある?


…そうか…そうに決まってる。

薬を外人から受取っているところを僕に見られたんだ。

なんとかして必死にごまかそうとしているだけなんだ。


それであんな作り話…。


何が“今朝みた夢”だ!


階段を上がり教室に向かいながら今朝見た夢の事をふと考える。


たしかに…今朝見た夢は妙にリアルだった。


夢の中で僕は“キク=カ”と呼ばれ、野田は“スズ=タケ”と呼ばれていた。

で、射川も出てきた。

射川は僕の主治医ってことになっていて“イネ=ノ”とか呼ばれていたような。


そこではっとして足を止める。


“イネ=ノ”?!


あれ…

さっき射川、自分のこと“イネ=ノ”って名乗らなかったっけ?!


それに僕は夢の中で“キク=カ”と呼ばれていたが…

満天星ホールで射川が最初“キク=カ”という名前に覚えがないか?と聞いて来た…。


………。


え…?


ぐ…偶然…?!


偶然にしては…。


“キク=カ”や“イネ=ノ”なんて珍しい名前、どこにでも転がってるわけじゃない。

偶然にしては…出来すぎてないだろうか…。


「あ!紫苑!!」

トイレから出てきた日向が僕を見つけ声をかけてきた。


「お前さっきの迫真の演技なんだったんだよ。

おかげで俺がお菓子持ってきたってことになっちまったじゃねーかよ!」

「ああ…あれ、あげるよ」

気のない返事をすると僕は日向をその場に置いてけぼりにし教室へと入っていった。


そして考える。


夢の中の名前の事を。

射川そっくりの顔を持つその人物と、

転校生射川の事…。


そして夢の中での僕、“キク=カ”。


ファンタジー小説みたいな展開になってきた。


射川が先に”イネ=ノ“と名乗った後で夢にその名前が出てきたのなら

まだ納得できる。

が、

実際に起きているのはその真逆だ。


僕の夢の内容を射川が盗み見るなんてこと出来るわけがない。

だから夢の中で出てきたその名前を射川が知っている…

その時点で…どういう事なのかがよくわからない。


いや、まて。

じゃあ…頭を柔らかくして…

射川がさっき話したのが全て事実だとしたらどうだろう…。



次元の違う二つの世界が存在したとしよう。

双方で同じ顔をした人間が存在している。


射川はじつは次元がちがう世界の住人で

なぜかこちら側の世界に迷い込んでしまった。

その代わり、本来この世界にいた本物の射川が別次元にいる、ってことで…。


……。


よくわからない。


だからなんだというのだ…。


まてよ…

まともに考えてみろ…。


射川のやつ、頭がおかしいんじゃないだろうか?

僕に変な薬を盛ったのもそうだが、

射川自身がその薬の常用者で…。


あ!そうだ…。

2年間長期療養してたって…まさか

へんな薬…僕の中では突拍子もないが

たとえば麻薬。

射川が麻薬か何かの常習者で薬に依存して治療を受けてた。

でまた戻ってきたけど薬が抜けてないとか?!


ああ…それはありえる……けれど…

まてまて…。

薬に手を出したような人間がうちの学校に入学できる時点で不自然か…。


分らない。


何が正解なんだ?


そうだ…僕と射川の話しを切り離してみたらどうだろう。


胸が痛いのは本当に病気なのかもしれない。

これは病院にいけば解決できる問題であって射川の話しとは無関係。

で、それに対して射川の言っている事は全くの狂言。

だったらどうだ?

いや…だめだ。

夢の話の問題がある。

”イネ=ノ“の名前の一致はどう説明するんだ?



だめだ!!


答えが出てこない!!




「なぁ~に百面相してるんだよ」


野田が自分の席から振り向きながら僕の顔をずっと見ていたことにそこでやっと気がつく。



「紫苑、お前大丈夫か?

てっきり早退したのかと思ってたぜ」


「ああ…ごめん。心配かけて。

大した事なかったよ。

ここんとこ少し疲れてたからそのせいかもしれない…。」


「そう…。顔色もあまり良くないしあんま無理すんなよ?」

「うん。有難う。

ああ…あのさぁ…野田。」

「何?」

「さっき保健室の前で射川が待ち伏せててさぁ…。

朝話した内容…やっぱり本当なんだけど…信じてくれる?」

「まだ言ってるの…?」

大きくため息をついてみせる。

「じゃあさぁ、仮に信じたとして俺にどうしろと?」

「え?どうしろって…野田…それつめたすぎない?」

「そんな事ないよ。変な薬かがされて拉致られそうになったなんて話し、

俺らがどうこうできる問題じゃないだろ。

それこそ本当に悩んでるんなら大人に話したほうが賢明だと思うぜ?」


「………」

確かにそれは…そうだが…。

と野田がはっとした顔をして自分の席に向き直ってしまった。


「なんだよ…本当に冷たいな…。

射川のこと色々とはなしたいんだよ…ねぇってば」

「僕がどうかした?」

背後で声がして思わず背筋が凍りついた。


ゆっくりと振り向くと

射川が戻ってきたところだった。


「べ…別に!」

そういい捨てると自分もぷいっとそっぽ向いて見せた。


-6-


放課後、僕は音楽室の掃除当番をしていた。

野田も射川も違うグループだ。

射川が一緒じゃなかったのは救われたがそれとはまた別の

問題がこのグループにはあった。


それは…

「おい、紫苑。さっきのポッキーまじうまかったんだけどあれもっとよこせよ」

「はぁ?ないよ!てか箱ごと日向にあげたじゃないか!

新製品だったんだよ、あれ。僕が食べたかったのに!!マルゲリータピザ味!!」

「ふざけんな、俺があれの持ち主だって思われて先生に怒られたんだからな?!

ポッキーでチャラなんて安すぎるくらいだ!!」

「僕のポッキー取った罰だよ!だったら金輪際僕にかまわないでよね!」

「なぁ~にが“でよね!”だ!女みたいな言葉遣いしやがって!!こうしてくれるわ!!」


木琴の棒を僕の頭めがけて振り落とす。


こん!となんとも微妙な音が室内に響き

その場にいた生徒たちが大爆笑した。



「ひどい!!なんでみんな笑うんだよ!!

日向の馬鹿!!」

傍にあった別の木琴の棒を手に取ると日向向かって振り回そうとしたが

棒を日向に奪われてしまう。


二本の棒を両手にもった日向と丸腰の僕…。


叶うわけもなく頭をぽくぽくと叩かれる。


「や…やめろよ!!」


「あははは!!中身すっからかんだからいい音!!」


「やめろってば!!」

とたん、また心臓に強い痛みを覚え慌てて抑える。


が…。


痛い…というよりも

体が燃えるように熱くなっていくのが分った。


な…なんだ?


なんだ、この感覚…。


体が熱い…。

胸が痛い…

痛い!!

それに頭が…

頭が割れそうに痛い!!


ばくばくと脈打つ音が耳に響いてくる。

呼吸がまた浅くなり

頭がくらくらする。


なんだこれ!!

なんなんだよ!!



「ぐぁっ!!」


変な悲鳴が聞こえてはっと我に帰る。



気がつくと右手だけで日向の首を絞めてその手に力をこめている自分がいた。


日向が僕の手を思い切り振り払った。


「……え?」

自分でも訳が分らなかった。


ごほごほと咳き込む日向を僕はぼんやりと見つめる。

なんで自分は日向の首を絞めていたのだろうか…。

分らなかった。


ただ…

なんだろう…


なんだか…

何故かしらの快感に近いものを覚えていた自分にも驚いていた。


「ざっけんな!!」

日向が思い切り僕を手のひらで押し倒し

僕は後ろにあった机にぶつかって倒れた。


「ちょっと日向!!やめなさいよ!!

紫苑君、今朝たおれたばかりでしょ?!」

「うるせーな!!こいつ俺の首、マジでしめてきたんだぜ!?」


「大丈夫?!」

別の女子が倒れた紫苑のところへ駆け寄った。


女子生徒の質問には答えずに

ゆっくりたちあがると

日向の目をまっすぐと睨んだ。



まっすぐ、


まっすぐ、


射るように、


殺意をこめて


真っ直ぐににらみつけた。


「な…なんだよ!!」

「殺してやる」

「え?」


-7-

「でさぁ、殺してやるとか言っていきなり倒れたんだよ」

「え?誰が?」

掃除のためにどかしていた机を元に戻しながら野田は聞き返した。


「あ、野田。

さっき音楽室でさ、日向と観月がけんかして大変だったんだよ!」

「またいつものじゃれ合い?」

「ちがうちがう!!

日向が観月の頭をふざけて木琴の棒で叩いてたら観月の奴がぶちきれて

日向の首絞めてさ、

で殺してやるって言ったんだよ!」


言葉が出てこなかった。


え?

だれが?

首を絞めた?

殺してやる?


誰がそんな事を?


紫苑?

紫苑がそんな事を?!


ありえない…


「何かの間違いじゃないの?」

「いやマジだって!おれら目の前で見てたんだもん」


彼らは音楽室の清掃担当グループの人間だ。


「でも…え、ちょっとまって。紫苑、また倒れたの?!」

「そう。今保健室だよ」

「……」

なんだあいつ。

なんか変だ…。

一日に2回も倒れるなんて普通じゃない…。

どうしたというのだろう…。


すると同じく教室掃除当番で掃除をおえ、

かばんを引っ掛けて帰ろうとする射川の姿を見つける。


「射川!!」

呼び止めるとすぐに上品な笑顔をつくって射川がこちらを振り向いた。


「あのさ、ちょっと話しあるんだけどいい?」

「いいよ、なに?」

「ここじゃなんだから…ちょっと」

そう言って廊下を出ると朝、紫苑と話していた屋上へ通じる階段へとやってきた。



「なに?」

射川がニコリと微笑む。


「あのさ、今朝紫苑から変な話きいたんだけど…

それが本当かどうか確かめたくって。」


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