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第四章:【現】指輪

-1-


なんだろう…胸が痛む。


気がつくと真っ白な天井をぼんやりと眺めていることに気がつく。


なんだか胸が悪くなるような、

よく思い出せないが

なんとも不愉快な夢を見ていたような気がする。


一瞬状況が把握できず戸惑うが、頭の回転は鈍い。


ゆっくりと体を起こした。


ここは…どこだろう…。


「気がついた?」

プライベートカーテンの向こうから保健医が顔をだした。


「………あれ…僕…なんでこんな所に…」

すると保健医の後ろから心配そうな表情をつくった射川の顔が覗いて

はっとする。


「大丈夫?突然倒れたって聞いたけど?」

僕の手首に手を当て、自分の腕時計の秒針を見ながら保健医が言った。


「脈は大丈夫ね。倒れたのは今回が初めて?」

「え…あ…はい…」

倒れた?

誰が?

僕が?

訳が分らない。


ゆっくりと記憶の綱を手繰り寄せる。


たしか…

満天星ホールで射川と話していて…それから…

どうなったんだっけ…。

記憶がない。


どうあがいてもその先を思い出すことが出来ない。


一体何が起きたというのだろう。


「どこか痛む所はない?」

「…大丈夫です。」

「そう。

もし何か他に異変を感じることがあったら一度病院で診てもらったほうがいいわよ」

「…はぁ…」


頭が混乱し思わず大きなため息をついた。


「紫苑君、大丈夫?びっくりしたよ、話していたらいきなり倒れるから…」

まっすぐに僕の目を見つめる射川。

話すときに人の目を見つめるのは彼の癖なのだろうか…。


ゆっくりと頷くが正直訳が分らない。


「じゃあ、先生。僕が送って帰りますので」

「そう…じゃあ気をつけてね」


「え?!いや…射川、大丈夫だよ…僕一人で帰れるから…」

慌ててベッドから起き上がる。

「遠慮する事はないよ。はい、カバン」

そう言って僕のカバンを差し出した。


「いや…本当にいいから!」

ベットの下にそろえられておかれた上履きを見つけると

それを履いて勢いよく立ち上がろうとした瞬間、ぐらりと体が大きく揺れて

再びベッドに大きくしりもちをついて座り込んだ。


「大丈夫?!」

保健医が慌てて駆け寄る。


「せっかくなんだからお友達に送ってもらいなさい。

先生も心配だわ」

そう言って手を口元にあてて心配げな表情を作ってみせる。


「さ、立てるかい?」

射川が手を差し出したがそれは受取らず自力でなんとか立ち上がる。


全く…一体どうしたというんだろう…。


昼間まで全然普通に過ごしていたのに…体に思うように力が入らない。

少しふらふらする。


「じゃあ…しっかり家まで送り届けて頂戴ね」

保健医が射川の肩を軽くぽんと叩くとハイ、とはっきりした口調で射川は答え

僕の顔をみてニコリと微笑んで見せた。


-2-


正門につづく真っ直ぐな桜並木を歩いた。

時刻が遅いせいか他に歩いている生徒は見当たらない。


すっかり日が暮れ外灯に白い明かりが灯っていた。


そこを僕と射川は無言で歩いた。

射川は僕のすぐ隣をぴったりとくっつくようにして並ぶ。


ちらりと盗み見るように横をみると

射川の腕が僕のちょうど目の高さにある。


しばし沈黙が続いたがなんとなく息苦しくなり、

やっとのことで先に口を開いたのは僕だった。


「あのさぁ…本当にいいから。

僕一人で帰れるよ。

ここからバスで10分くらいだし」


「遠慮しないで。それにこのまま君一人で帰すほうが心配だよ」


「でも…。あ、そうだ。射川って家どこ?電車じゃないの?」

「それは気にしないで。たしか紫苑君は三階堂みつかいどうだったよね。

ちょうどそっちに用事があるからついでってことで納得してくれるかい?」


「え…なんで僕が住んでるところ知ってるの?!」

驚いて聞き返す。

すると突然射川がぴたりと足を止めた。


「言っただろ?これは運命なんだ、って」


「は?」


思わず聞き返す。


射川が楽しげな表情でニコリと微笑んでいるが

それがかえって不気味にうつる。


「もう僕と君は運命共同体って訳さ。」

そういいながら手の甲を向け僕の目の前まで掲げて見せた。


左手小指に指輪がはめられている。

暗くてよくわからないがなにか小さな小石がくっついている。


なんで指輪なんか…。


「君も左手を見てご覧」

「え?」

そういわれ慌てて左手を見ると、本当だ、いつの間にか

左手小指に小さな指輪がついていた。

射川と同じように小さな小石がくっついている。


いつのまに…?!


慌ててそれを外そうと右手で指輪に触れようとするが

なぜか指輪の感触を感じることができない。


あれ?


もう一度触れようとするが触れられない。


なんだこれ?!



まるでそれが幻であるかのように、

目には見えているのに触れることが出来ない。


「なにこれ…」

思わず声にだす。


「それが契約の証さ。

これで僕らは仲間だ。よろしく、紫苑君。」


「はぁ?…ちょ…待ってよ…。何この指輪…。射川がはめたの?!

てか…どうしたら外れるの?!こんなの学校につけてったら先生に怒られるじゃないか!!」


「大丈夫。僕ら以外には見えてないから」

射川はそういいながらくすくすと笑って見せた。


「はぁ?」


思わず眉間にしわを寄せる。

なんなんだ、一体。


だんだん腹が立ってきた。


この人は僕をからかっているのだろうか?


「もういい!僕一人で帰るから!!」

ぴしゃりと言い切って射川をその場に置き去りにしたまま

正門までの真っ直ぐな並木道を全速力で駆け出していた。


付き合ってられない!

射川に関わってると本当にろくなことがない!!


と…

なぜだろう…

体が重い…。

いつも以上に息が苦しい。

だんだんと胸が痛くなってくるのが分った。

苦しい…。

息ができない!!


「………っ!!」


思わずその場にしゃがみこんで胸を押さえた。


呼吸するたびに耳の奥で心臓の音が聞こえる。

その速度の異常な速さに自分でも驚く。


一体なんだって言うんだ…。


「だから言ったでしょ。

運命だ、って」

真上から射川の声がして思わず体がびくりとふるえた。


いつのまに!


僕の目の前に射川がゆっくりとしゃがみこみ

また僕の目を真っ直ぐと見つめて言った。

「悪いけど心臓を封じさせてもらったから、暫く激しい運動は控えたほうがいいよ」


「…な、に言ってるんだよ…。訳分らない…」


肩で息をしながら射川を思い切り睨みつけて見せた。


「やっぱりだめそうだね」

にこにこと微笑みながら射川はため息をついて立ち上がった。


そして闇に振り向いて言った。


「申し訳ないですが、お願いします」


すると闇の中から人影がぼんやりと現れこちらへ近づいてきた。


その人物が外灯の光を受け、顔が確認できた所で僕ははっと息を飲む。


昼休み射川と話していたあの眼鏡の白人がそこにいたからだ。



「裏に車をつけてあるよ。歩けそうかな?」

「どうだろう…」

そういいながら射川は僕の顔を覗き込んで見せた。

その顔がぼんやりとにじんで見える。


なんで僕はこんな酸欠状態に陥っているんだろう。

どうしてこんなにも胸が痛むのか理解できない。

まるで射川の魔術にでも掛かってしまったかのように体はいう事を聞かず

ただ苦しみもがいている。


「軽そうだね。僕が運ぶよ」

ふわりと体が浮かんだ。

白人が僕の体を抱き上げたのだ。


その瞬間、ふわりと微かに甘いコロンのような香りがした。


意識がだんだんと濁って行く。


抵抗したくても体が動かずただただどこかに運ばれていることだけが分る。


やがてピピッという電子音の後、車の扉が開く音がした。


車の後部座席に押し込まれ車体に体がだらりと寄りかかる。

後から隣に乗ってきた射川が僕の体を支えた。


なんで…車に乗せられたのか訳が分らない。

拉致られる?!


しかし体は依然いう事を聞かず、苦しさのあまりとうとう涙が流れ出し頬を伝っていた。


「ゆっくり呼吸するといい。そう…ゆっくり落ち着いて…」

射川が僕の背中を軽くさすりながら言う。


背中をさする射川の手が心地よく、少しだけ呼吸が楽になる。


やがて微かな電子音がして車がそっと動き出した。


-3-


「少し落ち着いたかな?」

暫くして射川がそっと僕の顔を覗き込みながら言った。

その返事の代わりに僕は射川を思い切りにらみつける。


「…どうか怒らないでほしい…と言っても無理な話かもしれないけどね…。

まずは、僕は君の見方だって事は認識しておいてほしい。

それから、彼も。」

そういいながら運転席のほうに目をやる。


「突然知らない人間の車に乗せられたら誰だったいい気分はしないよね。

観月紫苑君だね。はじめまして、僕は羽鳥翼はとり つばさ

満天星学園大学の3年生。よろしく。」

バックミラー越しに軽く微笑んでみせたようだが

対向車のライトか何かで光が反射して眼鏡のレンズが光り表情がよく見えなかった。


「どこへ連れて行くつもり?」

やっとのことで言葉が出る。


「どこって君の家に送っていくだけだよ。

その体じゃ歩いて帰るのは無理だし一人バスに乗せるのはあまりに忍びなさ過ぎる。」


「…さっきから何を言ってるのか分らないんだけど…

ホールに行った後からずっと体調がおかしいのは…、

まさか毒か何か仕込んだんじゃ?」


すると射川は笑顔を止め、真剣な目で真っ直ぐと僕を見つめた。


「毒…か。あながち間違いじゃないかもね」

「なっ!?」

驚いて顔を上げるがまた胸がズキンと痛み慌てて手で胸を押さえた。


「今日は簡単な説明だけさせて。詳しい話しはまた明日するから。」

そういいながらまた僕の背中をそっとさすり始めた。

それを僕は手で払いのけ、もう一度射川を強く睨みつける。


「そうだね…どこから話そう。」


射川は申し訳なさそうに少し目をうつむかせながら話しだした。


「僕は君を助けるためにここへやってきた。

君のその体の異変は僕のせいなんだ。

君の中に宿る…そう…邪悪な魂、とでも言うべきか

それを封印するために弓矢を放った。

心臓にね。

ただ少し封印の力が強いせいか君の体そのものにも負担をかけている。

だからあまり心臓に負担のかける事は暫く控えてほしい。」


射川が何を言っているのか全く理解できない。

なんだって?

封印?

弓矢?

心臓?


「封印したばかりだから今夜はもう休んだほうがいい。

一晩すれば少しは落ち着くだろうがそれでもあまり無理はしないで。

とにかく詳しい事は明日話すよ。」


いつの間にか停車していた車のドアを開け射川は車外へと出て行った。

窓の外を見ると僕の家の前まで来ていたことに気がつく。


僕がいるほうのドアが開けられる。


「さぁ」

射川が外に出るようにと僕を促す。


全く腑に落ちずなんとも不愉快で仕方がなかったが

とりあえず車から降りると射川からカバンを渡されたので乱暴に受取った。


「じゃあ、また明日」

そう言って僕の肩を軽く叩くと再び車に乗り込みドアを閉めた。


やがて車は動き出し

僕の体と心を置き去りし大通りのほうへと消えて行った。


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