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第十四章:【現】螺旋階段

-1-


雲ひとつないなんとも穏やかな青空だ。


秋晴れと言う奴だろうか。


思い切り両手を伸ばして冷たい空気を肺一杯満たす。


今日は久しぶりによく眠れたような気がした。


バスの車窓に流れるいつもの景色、

いつもの空、

校門に吸い込まれていく生徒たち、

はずんだ声におはようの挨拶、


なんだろう…

なんだか清清しい。


真新しいシャツを着込んだみたいな新鮮な朝の訪れだ。


昨日は一部記憶が途切れている。

気がつくとソファに寝かされていた。


射川たちの話しによると蠍が暴走したのだとか…。


だが全く自覚はない。

ただ、腕がずきずきと痛んでいた。

羽鳥翼が強く握って申し訳ないと謝ってきたのだが…

それすらなんの事なのか理解できなかった。


蠍が暴走すると

僕の記憶が飛ぶ。


日向にカッターナイフをむけたとき、

無意識状態だと自覚しているがたぶんその無意識の中に

蠍が潜んでいたという事になるのだろうか。


だとしたら…それはとても恐ろしいことなのかもしれない。

考えてみれば最近特にぼんやりすることが多くなったような気がする。

激しく記憶が飛ぶという事はないが…だがしかし…。


つまり…その間に蠍が僕の目を通して日向を見つめているのでは…と思うと

ぞっとする。


射川が言っていた。

今日は満月だ。

蠍の力が強まる。


本当なら学校を休むくらいの事をしてくれたほうがいいとまで言っていたが

それが叶わないのなら全力でサポートするからなるべく日向と関わるなと

強く言われた。


それが昨日の夕方、バス停で別れ際に言われた言葉だ。


なんだろう…。

なんとなく心の中がざわつく。

これも蠍の影響なのだろうか。


「おはよう」

教室に入ると野田がロッカーにカバンを入れるところだった。

僕を見つけて挨拶する。


「おはよ、野田。」

「小説どうだった?」

「え?…ああ…読んだよ。つい夢中になって夕方まで教室にいてさ…」

そこではっと思い出す。

その後の出来事を。


「どうした?」

僕が急に黙り込んだのをみて野田が小首をかしげた。


「あ…いや…なんでもない。まだ最後まで読んでないんだった。

今日中にでも読み終えちゃいたいな。次回作ももう買ってあるんだ♪」


「お、早いな。終わったら俺も読んでみようかな。」


「え?!本当?!珍しいじゃん、野田がファンタジーに興味示すなんて!」

「たまにはね。推理物もいいけど紫苑が楽しそうに読んでるからさ、ファンタジー」

そういいながら眼鏡のブリッジを指で押し上げて見せた。


「おっす!」

突然僕の頭の上に掌がボテッと音を立てて乗った。


日向だ。


「おはよ。」


なるべく日向や蠍を刺激しないようにそっと手を払いのけながら挨拶する、

が内心はどきどきしていた。

また蠍が反応するんじゃないかって…。


ちょうど日向の後ろから射川が教室に入ってきたのをみて

思わずほっとする。


サポートしてくれる人が来た、来た。


僕に何か妙なそぶりがあったら全力でサポートするって言ってたもんね。


ここは射川に任せたほうがいいかもしれない。


「おはよう」

僕の視線に気がついて射川が挨拶してきた。


「おはよう…あの…」

今日は宜しくと言うように目でそっと合図してみせた。


気がついたのかどうかは分らないが射川は僕の顔を見てニコリと微笑んでみせる。


とりあえず…今日は何もない事を祈ろう。

小さなため息をつくとそっと自分の席についた。


-2-

1時間目は体育の授業だ。


体操着袋をもって更衣室に行こうとした所で

射川に話があるととめられた。


その間にもクラスメイトたちは続々と教室を出てゆく。


「なに?早くしないと授業始まっちゃうよ。」

「あの…悪いんだけど、今日の体育は見学してくれない?」

射川が申し訳なさそうに小声で言った。


「は?」

「言ったろ。今日は満月。

蠍は少しでもチャンスを見つけると途端君の体から抜け出てしまう。

君の体を抜け出した蠍は日向君の命を間違いなく狙い、そして仕留める。

授業中にそんな事になったら大パニックだよ。

それに…また君が激しい運動して気絶でもしたらそれこそ蠍の思う壺だし…。

とにかく、悪いんだけど見学してくれないかな…」


「えー…って言われても。

毎回そんな事やってらんないよ。

単位とれなくなっちゃうし。」

「いや…今日だけでいいんだよ。

頼むよ。」


そんな事言われても…。


「全力で守ってくれるんでしょ?」

「それはね、もちろんそうだけど…

クラスメイト全員の前でいきなり力を使ったりはできないよ。

収集がつかなくなる。

僕は人の記憶を消す力を持っていないからね。」


「………」


どこまで本当でどこまでが…。


正直射川の話しを100%信じたわけではない。

とりあえず的な感じで従ってみようと思っただけだ。


自分の体さえ治れば、と思ってとった行動だった。


なのに…

授業を休め?



射川は僕の目を真っ直ぐ見つめ

ゆっくりと言った。

「今日の授業はバスケットでしょ?

君は間違いなく倒れるよ。賭けてもいい。」


そう言った射川の目を僕は見つめ返す。


こげ茶色に輝く瞳の中に

不安げな表情をする僕の姿がゆらゆらと映りこんでいた。


「………ああ!

もう…!

分ったよ。

休めばいいんでしょ。休めば。

だけど今回限りにしてよ?

でないと成績に響くからね。」


「有難う。助かるよ。

もちろん君だってこれで救われるんだから」


仕方がなく体操着袋を机の上に置き教室を出た。


体育館に行くと授業の準備をしていた体育教師に

体調が悪いのでと申し出るとすぐに納得してくれた。


僕が何度か倒れた話しが先生にも通じていたらしい。


とりあえず言うこと聞いてやったぞとばかり

体操服に着替えてきた射川をじっと睨んでやった。

それに気づいて微笑み返す射川。


………全く…。


笛が鳴った。


体育館半分の男子がバスケ、もう半分で女子はバレーボールの授業が始まった。


やることがない僕は点数係にされた。

どちらかのチームが点数を入れたら点数表をめくる。

地味な係りだ。


赤チームと緑チームの対戦だ。

赤はバスケ部でもある日向がいる。

それに対して緑チームには射川。


試合開始の笛が鳴った。


緑チームの背の高い生徒がボールを取る。

すかさず射川にパスが回った。


するとチームの期待を答えるように

射川は赤チームのメンバーたちを交わしすいすいとゴール下までたどり着いてしまった。

そして、ザン!と音を立ててゴールにボールが入る音がした。


皆が歓声を上げる。


すごい…。

射川ってスポーツもできるんだ…

いや…射川じゃないんだっけ。

イネ=ノか。


イネ=ノの世界ってバスケットボールあるのかな?


と、気がつくと今度は日向がドリブルで相手チームを攻めていた。


さすがバスケ部だけあって早い!

あっという間にシュートを決めてしまった。


赤にも点数、と。

点数表の数字シートをめくる。


緑の攻撃。

ドリブルで相手チームまで攻めようとするがボールを日向に取られてしまう。


また日向の攻め。


緑チームのメンバーをひょいひょいとかわしゴールを決めようとしたところで

玉が弾かれる。


射川だ。


日向vs射川か…。

なんだか面白そうだ。


と、

ボールを取った射川はその位置からゴールめがけてロングシュートをした。


ボールは高く緩やかな弧を描きゴールまで伸びてゆく。


ザザン!


入ってしまったのだ。


一瞬コートは静まりかえったが次の瞬間わぁ!と歓声が沸き起こる。


すごい!!

射川の奴やるじゃないか!!


日向は悔しそうな顔でゴールを見つめている。


するとボールがこちらに転がってきた。

それを拾う。


「よこせよ!」

日向だ。


「へへ。ガンバってねー」

そう言ってボールを渡そうとした所で

突如胸が…


しかしなんとかこらえ、

何事もなかったようそっとボールを渡した。


ボールを手にした日向が背を向けた。


日向の背中。


赤い、背中。


赤い、


赤い、


赤い背中が…。



「おーい!観月、点入ったぞ!!」

クラスメイトに言われはっとする。


「え?どっち?」

「緑だよ」

慌てて点数表のシートをめくった。


なんだったんだろう…今。


なんとなく

心がざわついたような気がした。


もしかしてこれが…

蠍?


慌てて射川を探すと

相手チームからボールを奪ってシュートを決めていたところだった。


大丈夫かな…。


だんだん不安になってくる。


もし…

もしも蠍が僕の気づかない間に悪さをしたら…。


!!


また…心臓が…。


手で胸を押さえ込む。


頼む。

頼むから出てこないで!


頼む。


意識しながらゆっくりと呼吸する。


少しずつ和らぐ胸痛。


今日一日、もってくれるだろうか。


そっと掌の指輪を見た。


指輪の石はまだ半透明のままだ。


-3-

不安にかられた一日だったが

なんとかして帰りのホームルームまでこぎつけることができた。



この後大人しく帰れば今日一日僕も日向も無事に過ごせたことになりそうだ。


幸い僕らの家の方向は正反対だし日向は部活だ。

放課後顔を合わせる事のほうが少ないくらいだ。


もう勝ったと思っても良いのかもしれない。


日直が号令を掛け皆が例をして頭を下げた。


やった。

終わりだ。


これほど時間がたつのが長かった事があっただろうか。


思わずほっとして後ろを振り返る。


「なんともなかったね」

射川に声をかけた。


僕に話しかけられるとは思っていなかったのだろうか

一瞬射川が目を丸くしたがまた例の笑顔を作って僕に微笑みかける。


「でも、油断はしないでね」

といってカバンを肩に引っ掛けた。


「よし、

野田、僕らも帰ろうか」


「あ、ちょっと待っててくれる?職員室に用があるんだ」

「ん?あ、そう?じゃここで待ってるよ」

「おう、すぐ終わるから」

そういいながら野田はカバンを教室に置いたまま廊下に出て行った。


そうだ、とカバンから例の小説を取り出して読み始めた。

残りページ、わずか。

もしかしたら野田が帰ってくるまでに読み終わるかもしれない。


教室内で華やかに弾んでいたクラスメイトたちの声がだんだんと

明かりの灯ったろうそくの火が消えていくように姿を消して行った。


気がつくと教室には僕一人。


時計をチラッとみる。


あれ…もう30分立つ?

野田の奴遅いな…。


まぁ…僕もその間小説読めるからいいんだけど…。


ぱらりとページをめくったちょうどその時。


「ごめんごめん!お待たせ」

野田が大量のノートを抱え教室に入ってきた。


「明日の実験用のノートだよ。だから白衣忘れんなよ」

「あ、科学の?」

本にしおりを挟みゆっくりと立ち上がった。


「あ、そういえばさっき射川と会ったんだけど紫苑の事呼んでたぜ?」

「え?射川が?」

「満天星ホールで待ってるって言ってたけど…

大丈夫か?俺ついていこうか?」

「う…ん…いや、大丈夫。たぶん大したことないと思うんだ。

すぐ戻ってくるからちょっと待っててくれる?」

「分った」

そういいながら野田は重そうにノートの束を教卓の上にどんと音を立てて置いてみせた。



射川が話し…ってなんだろう。

今日は真っ直ぐ帰ったほうがいいと思ったのに…。


ホールまでの道をゆっくりとたどりながら考えた。


まぁ…日向も部活に行っちゃったからこれ以上何かあるとは考えにくいか。


ホールに続く螺旋階段をゆっくりと上る。

今日は上からピアノの音は聞こえてこなかった。


螺旋階段を上りきった所でピアノの脇に人が立っているのがみえた。


しかし…


思わずその名前を叫んだ。


「日向!!」


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