第六十九話 一世一代の
満足するまでイルミネーションを見て、さて解散、と言ったところでそれは起こった。
ベンチから立ち上がろうとしたわたしを引き止め、代わりに水森が立つ。しかも、わたしの目の前に。
「水森? どうかした?」
そう聞いてみるも、水森は無言のまま。
うろりと視線を泳がせており、どこか迷っているように見える。しかしその目の奥に煌めいた決意は、濁ることがなかった。
ようやく、水森と目が合う。
背後にある噴水が、静かになった。
「柿﨑さん。伝えたいことがあるんです」
「な、なに?」
いつになく真剣な表情をする水森の姿に狼狽えていたら、屈んだ水森にガシリと肩を掴まれた。
「逃げないで」
「に、逃げてなんか……」
嘘だ。わたしの体は逃げていた。
目の前にいる水森から逃げるように、無意識に背が反っていた。
それを封じた水森はほんの少し目を笑わせ、そうして口を開いた。
「今から言うことは俺の本心です」
「う、うん」
「……俺は、初めて柿﨑さんに会ったときから……いや、飛び降り自殺を止めてくれたあの時から……あなたのことが、ずっと――」
水森の口が動いた。
たったの四文字。
しかしそれは、突然噴き出した噴水の音と勢いによって掻き消されてしまった。
流石の水森も驚いたのか、わたしを守るように抱き締めて噴水を見ていた。
ただ、その……。
「み、水森……」
「ただの、噴水ですね……ん、柿﨑さん?」
「近い……」
わたしは目の前にある水森の胸板を弱く押し返しながら、そう言った。
水森もようやく距離の近さに気が付いたのか、ぼふんっと顔を赤くして一気に距離を取った。
「すっ、すすすす、すみません!」
「いい……気にしないで……」
真っ赤になった顔を隠すように俯いていると、不意にこの場にいないはずの声がした。
「あやめちゃーん!」
二人してバッと声の方向を向けば、そこにはわたしを呼んだであろう雷電と、なぎさ・出雲・禍都・月城さんが揃っていた。
恐らく、五人でイルミネーションを見に来たのだろう。
駆け寄ってくる雷電となぎさを見て、水森は大きく溜め息をついた。
「あやめちゃんに水森くんじゃん! なんで二人でこんなとこにいんの?」
「なんでって、デートしてたからですけど」
「は⁉︎ デート⁉︎ えっじゃあ俺の連絡断ったのって水森とデートするからだったのあやめちゃん⁉︎」
「えっ雷電先輩にも誘われてたんですか⁉︎」
「うるさ……」
途端に賑やかになる噴水周辺。
いつの間にか隣に腰掛けていたなぎさが、爆弾を落とした。
「本当はこっちにあやめも誘おうと思ったんだけどねー。水森くんが『俺がデートに誘うから!』って言ってたから、やめといた!」
にぱっ! といい笑顔で言い放つなぎさ。
その言葉に反応した雷電。あと何故か禍都も。
「はぁ⁉︎」
「うるさいのが増えた……なんであんたたち、揃いも揃って静かにできないのよ」
「ばっ、だって、綿津見お前、柿﨑を誘わなかったのって……!」
「だって、一番に動いた水森くんの応援したかったし!」
「まぁまぁみんな、静かに。街中だよ」
月城さんのその声で、一先ずは落ち着いたらしい。
しかし三人はそれぞれが睨み合っている。
何がどうなっているのか理解できていないわたしは、隣にいるなぎさに頬を突かれながら、「デートどうだった⁉︎」などと聞かれている。
全然答える気にもなれずぼーっとしていると、月城さんが一言。
「柿﨑さん、今日は一段とお洒落だね。かわいいよ」
と。
途端、先程の水森のようにわたしの顔が沸騰した。
隣でびっくりしながらも嬉しがっているなぎさと、「はぁ⁉︎」と声を上げている出雲。それから信じられないようなものを見る目で月城さんとわたしを見る残りの三人。
六者六様の様子を見せる集団から顔を隠すように、両手で顔を覆った。
「見ないで……」
消え入るような声は、何故かそこに響いた。
いっそ存在ごと消えてしまえばいいのに……なんて思っていれば、雷電が目の前に現れて「俺の方がかわいいと思ってる!」などと意味のわからないことを言ってきた。
そうしたら今度は水森が「俺が一番最初に思ったんですからね⁉︎ なんなら一番最初に見ました! あとクリスマスプレゼントも渡しました!」と胸を張って自慢げに言う。
すると次に禍都が「お、俺だってか、か、かわいいって思ってた!」と声を張り上げる。あんたもそんなキャラだったの? なんて言う暇もなく、月城さんが更に言う。
「でも最初に言ったのは俺だよね」
この空間を心底楽しんでいる、性格の悪い人の声色だった。
そろそろ収拾がつかなくなってきた頃に、わたしはそろりと水森の側に近寄った。
「ねぇ、水森。さっきは噴水に邪魔されたけど、何言おうとしてたの?」
すると水森は一瞬で顔を赤くして、けれどすぐにバツが悪そうな顔に早変わりして、「また今度にします……」と、しょもしょもと言った。
明らかに項垂れている様子を見ながら、わたしは首を傾げていた。
背後でなぎさがキャーキャー騒いでいることは無視して。




