第六十八話 プレゼント
会計は水森に払ってもらい、店を出てから半額を渡した。
「ちょっと多いですよ!」とか言われたが、知らん。そもそも小銭はあまり持ち歩かない主義なのだから、偶然母が細かいものを持たせてくれたことを感謝してほしい。でなければお札を二枚押し付けるところだった。
渋々受け取ってくれた水森に連れられて次に来たのは、駅前にある大きなショッピングモール。
何を買うのかと聞いたが、決めてない、と返された。
まぁ時間を潰すには丁度いい場所だとは思うが……。
だからと言って、あんたまでわたしを着せ替え人形にすることはないでしょ。
口に出さなかっただけ偉いと思う。そう、わたしと水森は今、何故かわたしの服を見繕うために服屋に来ていた。
あれも似合うこれも似合う、と着せ替えを楽しむ水森。
何着も着せ替えられて、わたしはへろへろになって店を出た。
結局服は買わなかった。お店の人には申し訳ないので、後日母を連れてまた来ようと思う。
と、思っていたのだが。
「柿﨑さん」
名前を呼ばれて振り返れば「ちょっとごめんね」と言われて、胸元にパチンと着けられたなにか。
首を動かして見てみれば、それは青いアイリスの花を模したブローチだった。
「うん。やっぱり似合う」
ふわりと微笑む水森。いつの間に、こんな綺麗なものを買っていたのか。
というより。
「わざわざ買ってくれたの? お金……」
「いらないですよ! これは、その……俺からのクリスマスプレゼントってことで!」
そう言って照れくさそうに笑う水森。
プレゼント、か。それなら、貰わないわけにはいかないな。
そう考えて、そっとブローチに触れる。金属製で冷たいはずのそれは、先程まで水森が持っていたからか、ほんのりと暖かかった。
……よし、こうなったら。
「え、柿﨑さんっ?」
「行くよ、水森」
今度は、わたしが彼にクリスマスプレゼントを渡す番だ。
そうしてグルグルとお店を回り、ああでもないこうでもないと悩むこと、一時間弱。
ようやく満足できる贈り物――ちょこっとお高めなボールペンを見つけた。
水森は「こんな高いもの!」と言って首をブンブン振っていたが、そんなの関係ない。先にプレゼントを寄越したのはそちらなのだから、こちらが決めたものを受け入れてくれなければ困る。
そう言えば、また渋々と受け取ってくれた水森。
けれどその顔はどこか嬉しそうだった。いやまあ、喜んでもらわないと困るのだけれど。
そうして、空はあっという間に暗くなる。
時刻は午後五時を少し過ぎた頃。
わたしたちは再び駅前に戻り、噴水前に置かれたベンチに腰掛けていた。
というのも、このクリスマス期間になると五時半からイルミネーションが光るのだ。
最後にそれを見ようと言い出した水森に追従する形で、わたしはその隣に腰掛けていた。
イルミネーションが光るまで、わたしたちの間に会話という会話はなかった。
強いて言うなら、今日はありがとうだとか、プレゼント大切にしますだとか、今日あった出来事を振り返るだけで。
――そうして、イルミネーションが輝いた。
パッと一気に華やいだ駅前に、会社帰りであろうスーツ姿の男性や、カップルであろう二人組の女性側がワッと声を上げた。
赤と緑、そして白のクリスマスカラーで彩られた駅前。
あまりの眩さに目を瞬かせていたが、不意に隣に座る水森の顔が視界に入った。
水森はイルミネーションを前に子供のように無邪気な笑みを浮かべており、その目には三色の光が蛍火のように揺らめいていた。
イルミネーションより、何よりもそっちの方が綺麗に見えて、わたしは思わず手を伸ばす。
「……? 柿﨑さん?」
水森の丸い目がこちらを向いた。
目と鼻の先に、水森がいる。
三色の光を映していた目が、わたしを映していた。
――もう少しだけ、近くで見たい。
徐にそう思い、顔を近付けていく。
水森は逃げようと顔を赤くしながら顔を背けるが、わたしの手のひらがそれを許さない。
「かっ、か、か、柿﨑さんっ⁉︎」
「なに?」
「な、な、なに? じゃ、なくってっ」
あわあわと慌てる水森に向けて、微笑んだ。
「うん。満足した」
「……えっ?」
わたしはパッと手を離し、本物のイルミネーションへ目を向ける。
「へ、え?」
「イルミネーション、綺麗だね」
「は、あ、はい、そう、ですね?」
「水森も綺麗だけど」
「へっ⁉︎」
声を上げる水森を他所に、わたしはただひたすらにイルミネーションを見続けた。
隣でわちゃわちゃと騒ぐ水森を横目に、これなら来年も来てもいいかもな、なんて思いながら。




