第六十七話 デート
まず向かったのは最近有名なカフェ。どうもリクエストしたラテアートを立体的に作ってくれ、その完成度が非常に高いのだとか。
店に入るときに水森が「二人で予約した、水森です」と言っていたことから、やっぱりこれはデートなのだ、と再確認させられた。
席に着き、話題のラテアートを二杯と、『らぶらぶカップル限定♡甘さ増し増し♡ハニーらぶパンケーキ♡』を頼む。
注文自体は水森がしてくれたのだが、店員さんが注文内容を復唱したときに、何故か水森がほんのりと頬を染めていた。その顔をしたいのはわたしの方なのだが。
ラテアートに描くイラストは、わたしがタコ、水森はネコを選んでいた。
「なんでタコにしたんですか?」
「……なんとなく?」
「ふふっ。なんで柿﨑さんが疑問形なんですか」
「ならどうして水森はネコにしたのよ」
「柿﨑さんっぽいからです」
「は?」
なんとなく、タコ助が頭をよぎったのを隠したくて誤魔化せば、やはり笑われてしまった。
普通の女の子ならタコなんて選ばないだろう。
その反応が少しばかり不服で、なら何故ネコを選んだのかと問えば、あの答え。
わたしが、ネコっぽい?
水森は机に肘を置き、頬杖をついて、何か愛おしいものでも見るようにわたしを見つめた。
わたしも水森を見つめ返した。手のひらは下向きのタイプらしい、なんて、この場の空気にそぐわない考えをしながら。
「ネコみたいに気高くて、気まぐれで、しなやかで綺麗。でも一度心を許した相手には、思いっきり甘えてくれる……ほら、柿﨑さんっぽいだろ?」
珍しく、敬語を外した。
いつもと、何かが違う。気味の悪い違和感でなく、どこか気恥ずかしくなるような、そんな違和感。
わたしが口を開くよりも早く、店員さんが側に立った。
「こちら、ご注文のラテでございます。ネコのお客様は……」
「あ、俺です」
カチャン、と陶器の擦れ合う音がして、わたしたちの前にラテが置かれた。
目の前にあるラテアートは、タコ助に似ているかと言われたら、似ていない。アニメ寄りのかわいらしいデザインではあるが、どうも……。
「……タコ助の方がかわいいかも」
ぽつり。そう呟けば、左中指に嵌めていた指輪が嬉しそうに煌めいた。
その後に届いたパンケーキ。ふわふわのスフレのようなパンケーキが三段も重なっており、上からはバターと、たっぷりと蜂蜜が掛けられている。別添えの容器には泡立てられた生クリームが山盛りに入っており、好きに甘さを調節して食べられるようだ。……もう既に口から砂糖が出そうな程に甘そうだが。
ラテアートとパンケーキの写真を撮った水森は、先に切り分けるのを譲ってくれるらしい。
ナイフとフォークを使って一番上の段を一口サイズに切って口に運ぶ。
「……!」
とろりとした甘さが口に広がった。甘ったるいのではと心配していたが、スフレパンケーキが甘さ控えめで、バターの塩気も相まって丁度いい甘さに抑えられている。
別添えの生クリームは更に甘さが欲しい人用だろう。
だが、わたしにはこのくらいの甘さで充分だ。
パンケーキを食べたあとはラテを飲んでみる。
タコ助もどきには申し訳ないが、所詮は飲み物だ。
甘い甘いパンケーキを食べたあとか、ラテはより一層苦味を感じる。けれど、これで口の中がスッキリした。
ふと、視線を感じる。
顔を上げれば、じーっと水森がわたしを見ていた。
「水森は食べないの?」
「食べますよ」
そうは言うが、水森はニコニコしながらわたしを見るばかり。
もしかして、甘いものがあまり好きではないのではないか。
……いや、それはないか。だとしたらこんな店と商品を選ぶわけがないし。
仕方なくわたしは自分のナイフとフォークでパンケーキをもう一口分切り分けて、せっかくだから生クリームも乗せて、水森の方へ差し出した。
「……へっ?」
「温かいうちに食べなさい。ほら」
「え、あ、う……」
何故か顔を赤くしている水森の口が開いた。
そこを目掛けて、なるべく優しくフォークを差し込んだ。
水森は恐る恐る口を閉じ、咀嚼し始めた。
「どう?」
「……美味しい、です……」
沸騰しそうなほどに真っ赤な顔をした水森を置いて、わたしは目の前のパンケーキを食べて、ラテを飲んでを繰り返していた。
「……間接キスだって、気付いてないのかな……それほど意識されてないってこと? それはそれでショックだ……でも、大丈夫。今日で意識させれば、いいんだから!」
何かをブツブツ呟いていた水森を他所に、わたしは最後の一口を口に放り込んだ。




