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第六十六話 クリスマス・イヴ

 怪盗ルシッドの出来事から早一ヶ月。

 わたしは毎日のようにサッカー部に顔を出してはマネージャー業務の手伝いを行い、十二月前半にある期末テストに向けての勉学も何とか両立させていた。


 テスト結果は、ほどほど。

 殆どの教科で小さなミスを見つけたくらいで、ほぼ満点と言っても過言ではない。間違えている時点で満点ではないのだが。


 またしても学年一位を取ったわたしを自分事のように褒め称える担任(担当教科・美術)は自分の周囲の教師に自慢して回っているようで、どうもわたし自身の肩身が狭い。

 どこに行っても他の教師から「元加治先生(担任)が言ってた子!」と言われるのだ。

 そろそろいい加減にしてほしい。




 まぁそれは置いといて。

 ようやく迎えた冬休み。


 そして冬休みといえば新年、大晦日と並んでの大イベント。クリスマスがある。


 ……といっても、毎年クリスマスと無縁なわたしには関係がない話題だった……のだが。


 ピロンっ。


「あれ、水森からメッセージ?」


 部屋でタコ助と共にぐうたらとしていると、水森からメッセージが届いた。

 アプリを開けば、『二十四日空いてますか?』と文言が。


 先程言った通り、わたしにクリスマスは無縁の行事だ。

 特に出かける相手もいないし、家族でテーブルを囲んで七面鳥を食べるくらいしかやることがない。


 だから、わたしは水森のメッセージに『空いてるよ』と短く返信した。


 すると直ぐに返信が。


『ならデートしましょう!』

『デート? いいよ』

『じゃあ二十四日、昼の一時に駅前の噴水前で!』

『わかった』


 我ながら可愛げの欠片もない返事だ。

 水森はその後、『楽しみにしてます!』とカエルが花を周りに浮かべた笑顔のスタンプを送ってきた。


 デートなどと言っているが、どうせいつものようにサッカー部の部員を何人か集めて遊びに行くのだろう。

 クリスマスに託けてだろうか。水森も遊び心があるな。


 壁にかけられたカレンダーに目をやる。

 当日まであと四日、か。


 わたしはベッドから起き上がり、部屋を出てすぐそこにいた武蔵にクリスマスに出かけることを伝えた。

 ら、あっという間に家中に広がり、部屋に突撃してきた母と伊織によってわたしのクローゼットが全開にさせられた。


 そしてあれよあれよと着せ替え人形にされ、四日後の服装まで決められてしまった。


 そこまでしなくたって、どうせ複数人で出かけるだけなのに……。

 文句を言える空気でもなく、わたしは“無”の表情と感情で全てを受け入れた。




 クリスマス・イブ当日。

 昼を過ぎるよりも早くから準備を始められたわたしは、誕生日会の比でないほどに着飾られてしまった。

 もう、言葉での説明が難しいほどにかわいくさせられた。ただわかるのは、気合いを入れる時にお願いする編み込みが無確認で入れられた、ということだけだ。

 母も伊織も、一体何を楽しみにしているのやら。


 その足で駅前へ向かえば、噴水にはまだ誰も来ていなかった。

 それもそうだ。まだ集合時間まで二十分もある。

 仕方なくベンチに座り、携帯を開く。


 ……?

 何故か、なぎさからカエルがサムズアップをしているスタンプだけが送られている。このスタンプ、流行っているのだろうか。

 特に何もやり取りをした記憶がないので、恐らく送信先を間違えたのだろう。




 待つこと五分弱。

 前方から水森がやってきた。

 青緑色のマフラーを巻いた彼は、遠目から、いの一番にわたしを見つけると、笑顔で駆け寄って来た。


「こんにちは、水森」

「こっ……はぁっ……こんっ……ふぅっ……にち、

はっ……はぁっ……か、かきっ……ざきさんっ……はぁっ……はぁ……」

「落ち着いてからでいいよ」


 一瞬で目の前に現れたかと思うほどに猛ダッシュをしてきた彼は、膝に手をついて息を整える。

 そして今度こそ笑顔で、「お待たせしました!」と言った。


「わたしも今来たところだから待ってないよ」

「そうですか? なら一緒ですね!」


 それはもう嬉しそうに笑う水森。

 わたしはきょろりと周りを見渡した。

 辺りは家族連れかカップルばかり。どこにも他の部員の姿は見当たらない。


「水森、他の人は?」


 そう聞けば、水森は首を傾げて言った。




「デートだから、二人きりですよ?」




 きょとん。とした顔をしていた水森はわたしの手を取ると、街の中へと駆け出した。

 既に行き先を決めているのだろう。


 わたしは手を引かれながら、これがようやく本当の意味での“デート”であると気が付き、水森の知らないところで見せられないくらいに顔を赤くしていたのだった。

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