幕間 メイドと執事
真坂伊織は、柿﨑家に仕える執事である。
双子の姉弟である二人は、齢十五の頃から柿﨑家に仕えていた。
義務教育を終えてすぐに就職を余儀なくされた二人は、運良く柿﨑当主――あやめの父――に拾われることとなる。
それから十五も歳下の“お嬢様”に仕えること、早十年。
二人は武蔵の部屋に集い、定例会議を行っていた。
いつもと違うのは、二人の立ち位置だろうか。
普段は武蔵が伊織を叱るように仁王立ちしている姿が目撃されるが、二人きりの部屋では真逆の位置だった。
伊織が腕を組んで武蔵を見下ろし、武蔵がしょぼくれている。
「武蔵、言ったよな。“その姿”でそんな顔をするなと」
「だってぇ……」
「言い訳するな」
「うぅ……妹が怖いよぉ……」
執事服を身に包み、男であるはずの伊織を「妹」と呼ぶ、しょぼくれた武蔵。
メイド服を身に包み、女であるはずの武蔵を見下ろして無表情の伊織。
二人きりだからこそ見せられる、お互いの“本性”。
「だから俺には無理なんだってぇ! 伊織の真似してカッコイイメイドさんやるとかさぁ!」
武蔵が叫ぶ。
そう。この会話の通り、二人は性別を偽り、性格すらも偽っていた。
というのも、全て伊織の策略である。
曰く、「武蔵は昔からやることなすこと全てが裏目に出るほどの馬鹿だ。だから私の真似をして、メイドとしてこの家に仕えろ」と。
当然武蔵は拒否したが、気の弱い武蔵が、正反対の性格をした伊織に敵うわけもなく。
渋々、二人は兄妹でなく姉弟として、メイドと執事として、性格も真逆にして、この柿﨑家に仕えていた。
定例会議は、伊織から武蔵に対する言動のダメ出し会とも呼べる。
昔は何時間もくどくど叱ることが多かったが、最近は数十分で済んでいる。十年の歳月が成した成果だ。
「――話は以上だ。私は部屋に戻る」
「はぁい……おやすみ、伊織」
「はいは短く」
「はい」
部屋を出た伊織は、隣にある自室へ入る。
そして着替え始めた。腹に巻いていたタオルを解き、サラシを外す。
そして部屋着に着替えた伊織は、ふぅ、と息をついた。
「全く……本当に、武蔵は成長しないな」
いつものドジっ子執事はどこへやら。
そこにいるのは、憂いた横顔をした美女だった。
伊織が性別を偽ろうと言い出したのには訳がある。
兄である武蔵があまりにも能天気で自己犠牲を厭わない大馬鹿者だったからだ。
だから伊織は武蔵に「本来の伊織」を演じさせ、自分は武蔵の真似をした。自分がどうあればいいのか、自分がどう周りから見られているのか、客観視させるために。
伊織はまた小さく溜め息を吐くと、武蔵の真似をして(というか本来の性格のまま)、使用人用の大浴場へと向かった。




