第六十一話 歓談
次に向かったのは神風先輩と快野先輩、二年生の盛り上げ担当のところだ。
二人はどちらが多く料理を食べられるか勝負をしているようで、話しかけるのが憚られた。が、負けそうになっているらしい快野先輩に声をかけられ、その場に混ざることにした。
……一応言っておくが、大食いに混ざったわけではない。
「丁度いいところに! 誕生日おめでとう柿﨑!」
「あ、ありがとうございます、快野先輩。食べ終わってからでもよかったんですよ」
彼らが持っているのは、骨付きの照り焼きチキン。二人とも手と口元をベトベトにしていた。
快野先輩は「いや」と手でバッテンを作りながら真剣な顔をする。
「後輩の誕生日なんだ。祝うのが先だろ」
「そうですかね……隣の神風先輩はチキンに夢中ですけど」
「Hey! これで三本 Reed だぞトーヤ! Oh アヤメ! Happy Birthday to You!」
「あはは……ありがとうございます、神風先輩」
神風先輩はペーパーナプキンで口元を拭うと、ンンッと喉を鳴らした。
「Chicken で喉も潤したので、ここで One Song!」
「アッおいバカやめろ神風!」
首を傾げているわたしを他所に、神風先輩を止めようとする快野先輩。しかし静止も虚しく、神風先輩は高らかに歌い始めた。
曲は『ハッピーバースデー』。場面には非常に合っている。が、歌声が致命的だった。
神風先輩はとんでもない音痴だったのだ。
潰れている快野先輩を見て首を傾げる神風先輩に別れを告げて、ガンガン痛む頭を連れて次の組へと足を運んだ。
次に来たのは二年生の癒し組(に今のわたしは見えている)、皇先輩と静島先輩のところ。
二人は静かに軽食を摘みながらシャンパングラスでジュースを飲んでおり、パッと見ると成長期前の少年と成長期最中の少年の組み合わせで美しい……って、わたしは何を言っているんだ。
先にわたしを見つけたのは静島先輩の方で、わたしと目を合わせると軽く手を挙げてくれた。
今までそんなことなかった為、わたしは目を丸くしてその場に立ち尽くしてしまった。
するとそれに気が付いた皇先輩が眉を顰めて首を傾げてこっちに歩み寄ってくれた。
「何突っ立ってんだ」
「い、いえ……なんでも……」
「そうかよ。……誕生日、おめでと」
「あ、ありがとうございます、皇先輩」
皇先輩の優しい言葉にも驚いていると、追いかけて来た静島先輩とも会話を交わすことになる。
「誕生日おめでとう、柿﨑。招待してくれてありがとう」
「⁉︎ い、いえ……ありがとう、ございます。静島先輩」
「静島お前、柿﨑に対してそんなキャラだったか?」
「お前と対応は同じのはずだが」
「そりゃそうだけどさ。ほら、柿﨑が驚きすぎて固まってんじゃねぇか。……つか、さっき固まってたのもこれが原因かよ」
皇先輩と静島先輩のやり取りを聞きながら、わたしの脳はゆっくりと再起動を始める。
な、なるほど。つまりわたしは、ようやく静島先輩にとって“話をするに値する人物”になったということだな。
そう理解すれば話は早い。
「お二人とも、今日はご来場いただきありがとうございます。ごゆっくりお楽しみください」
「お前もお前で立ち直るのが早ぇな。あと堅苦しいからそれやめろ」
「と言われても……」
「今日の主役は柿﨑だ。ドンと構えていろ」
「静島先輩まで……なら、いつも通りにしますね」
「おうそうしろ」
それからは二人と軽く会話を交わして別れた。
まさかあの二人と雑談するような仲になるとは、思ってもみなかったな。
次に足を運んだのは、四人で固まりながらケーキを食べている一年生サッカー部員の水森・星元・東・禍都のところだ。
すっかり禍都もサッカー部の中に馴染んでおり、どこか嬉しく思ってしまう。
そう思っているのが伝わったのか、バチッと禍都と目が合った。
「か、柿﨑」
どことなく声が震えてるのは気の所為だろうか。
その声に反応した残りの三人も、わたしの方を向いた。と同時に駆け寄って来た水森。
「柿﨑さん! お誕生日おめでとうございます!」
「それ、玄関でも言ってくれたよ」
「あっそうだった……でも、誕生日なんて何回祝ってもいいですから!」
そう言ってニッコリと笑った水森。
倣うように東も小走りで寄ってきてくれた。
東は私服らしい白いブラウスと薄緑のフレアスカートを身につけている。
「柿﨑さん、今日は呼んでくれてありがとう。お誕生日おめでとう」
「ありがとう、東。服、似合ってるね」
「あっありがとう……! お母さんに選んでもらったんだけど、ちょっと恥ずかしかったの……でも、そう言ってもらえて、よかった……」
「柿﨑さんもドレス似合ってるよ!」と言ってくれた東のかわいいことと言ったら。
内心で腕を組んで頷いていれば、未だにスーツ姿に慣れないらしい星元が何とも言えない顔でこちらを見ていることに気付いた。
「スーツ、気に入らなかった?」
そう聞けば、そうじゃないと首を振られてしまう。
ならなんだと言うのだ。
「……俺があんな格好してた理由、聞かないのか」
と思えば、そんなことを聞いてくる。
「どうして? それって今日のパーティに関係ある?」
「……あるわけじゃないが……」
「なら聞かないわ。あんたも、話したいわけじゃないんでしょ」
星元は小さく頷く。
そんな顔をするなら、最初から聞かなければよかったのに。
だがやはり落ち着かないのか、どこかソワソワしているのを水森と東に窘められていた。
最後、禍都に話しかけた。
「今日は来てくれてありがとうね、禍都」
「……おう」
「……なんか今日、素っ気ないじゃない。料理、口に合わなかった?」
「……ちげぇ」
「ならどうしてそんな顔してるのよ」
メイクが崩れるのも気にせずに眉を顰めれば、禍都は頬をほんのりと染めて言った。
「……ドレスが」
「ドレスが?」
「…………似合ってる、から」
…………。
……まさかこいつ、女の子のドレスを見て照れてるのか?
頬が緩むのを感じる。
嬉しいのはもちろんだが、どちらかと言えば――。
「へぇ〜? あんた、わたしがいつもと違う様子だから真っ直ぐに見れなかったんだ?」
「なっちが!」
「なら今すぐこっち見てみなさいよ。見れるんでしょ?」
「うぐっ……」
こいつを揶揄うのが楽しい。
禍都が顔を逸らした方向に体を動かせば、禍都は正反対の方向に顔を向ける。
そうして何度か遊んでいれば、背後から手を引かれた。
「どうしたの、星元?」
手を引いたのは星元だった。
星元はほんのりと頬を赤らめて、小さく言った。
「……服、ありがとう、ございます」
「わたしがやりたくてやったんだから気にしなくていいのに」
「それでも、嬉しかったんです。本当に、ありがとうございます」
そう言って最敬礼をする星元に驚いて、すぐに顔を上げるように言う。
しかし星元は動かない。
なら、と思い付いたことを口にした。
「じゃあお返しに、わたしのこと水森や東と同じように扱ってよ」
「同じように扱う、とは……?」
「それ。敬語。前から気になってたのよね」
星元は最初に出会った頃から敬語を使っていた。
初対面ならわかるが、こうして三ヶ月が経った今もだ。
流石に気になってくる。
「同じ学年なんだし、敬語なんか使う必要ないわよ」
「これは、くせで……」
「じゃあ今日の服のお礼。わたしに対する敬語を外すこと。これでおあいこね?」
そう言えば、星元は目を瞬かせて、少し頬を緩めた。
「わかりまし……わかった」
「うん、よろしい」
そうして五人で歓談をして、最後の人物の元へ足を運んだ。




