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第四十六話 人形の力

 彼女が帰ったあと、わたしは糸の束を片手に工房に戻る。


「おかえり〜! っとぉ? 随分可愛らしいマフラーじゃないか! 貰ったのかい?」

「あんたがアラクネに何か作るようにお願いしてって言ったんでしょ。向こうが何を作るか決めてくれたわよ」

「あー、そっかぁ」

「あとマフラーじゃなくてストールね。その間違い、おじさんクサいわよ」


 そう言えば、レインは嬉しそうな、困ったような顔をして笑った。


「……物を指定しなかったのはあんたでしょ。何でそんな顔するのよ」

「いやぁ……これには訳があってだね」


 と、その時。

 レインの影に隠れていた卓上から声がした。


「これじゃあ話と」

「違うじゃない」

「ボクは一体何を食べて」

「アタシは何を吐き出せばいいのよ」


「あ、あのときの人形たち」


「ただの人形じゃ」

「ないのよアタシたち」

「ちょっと特別な」

「すごい人形なんだから!」


 少年人形のヨウと、少女人形のインが交互に話す。

 合宿先で見つけたこの人形たちと会うのは、帰ってきたときぶりだ。


「二人とも、久しぶりね」

「彼らはずっと事務所にいたからね。あやめちゃんと会うのは一ヶ月ぶりくらいかな?」

「……そうね、そのくらい」


「ボクたちのこと」

「忘れてるんじゃないでしょうね」


「ちゃんと覚えてるわよ。ヨウとイン、でしょ」


 名前を呼んであげればヨウは眉を下げ、インは鼻を鳴らす。

 対の人形らしく、性格も正反対だ。

 息はあんなにもピッタリなのに。


「今ちょっと失礼なこと」

「考えたりしてないでしょうね?」


「別に、考えてないよ」


「ウソだ」


 同じ声が重なった。

 言い当てられたことでほんの少し気まずくなり、目を逸らしてレインの方を向く。


「で、結局アラクネにこれを作ってもらったのはどうしてなの?」


 するとレインは少し悩んだようにしてから口を開いた。


「うーん、本来は適当に作ってもらったものを使う予定だったんだけどね……想定外のものが来たから、予定を変更するよ」


 レインはアラクネの糸の束を手に取ると、数本引き抜いて玉のようにまとめる。




 そしてその繭玉を、ヨウの口の中に押し込んだ。


「ちょっと、何してんのよ⁉︎」


 慌ててヨウの口から吐き出させようとしたが、もう飲み込んだあとだった。


 わたしが目を白黒させていると、ヨウはけぷ、と喉を鳴らして口から何かを吐き出す。

 それは、繭玉と同じ色をした宝石――パールだった。


「質はいいけど量が少ないから」

「大した宝石にはならなかったわね」


「やっぱり数本じゃ微妙だったかぁ」


 なんでもない様子でやり取りをする三人を見ながら、わたしは頭を抱える。

 何がどうしてどうなった⁉︎




 わたしを置いて話は進む。

 今度はレインが宝石を持ち、インの口に突っ込んだ。

 インはそれを飲み込み、ゴロゴロとお腹を鳴らせる。そして次の瞬間、口からごろりと何かが出てきた。


 それは宝石ではなく、角のような……。


「やっぱり程々の」

「状態になったわね」

「はいこれ」

「ジャッカロープの角よ」


「きゃっほーい! ジャッカロープの角! 希少品だー!」


 大喜びで角を手に跳ね回るレインを横目に、二人に話しかける。


「ね、ねぇあんたたち、一体何をしたの?」


「ボクは素材を食べて」

「宝石を作るの」

「インは宝石を食べて」

「別の素材に変換するの」

「これで何をしてたか」

「見習いのアナタにもわかったかしら?」


 つまりこの二人は、性格だけでなく、在り方も対の存在らしい。

 何をしたかは理解できたが、何がなんだか未だに受け入れられていないわたしを見て、ヨウは困ったように、インは小馬鹿にしたように笑った。

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