第四十四話 黒魔術師(嘘)
土曜日になり、二人を連れて『駄菓子屋しゑる』へ向かう。
道中で商店街を案内しながら辿り着いたそこは、シャッターが開けっ放しにされており、いつも通り、どこか懐かしさを感じさせる内装がわたしたちを受け入れた。
「いらっしゃ〜い、あやめちゃん……おや? 今日はなぎさちゃんと新顔ちゃんも一緒なんだね?」
「レインくん久しぶりー!」
手を振るなぎさがタタタッと店の奥へ進んでいく。
それを追う形でわたしたちも奥へ向かえば、二人は既によくわからない話題で話し込んでいた。一体今の一瞬で何があったというのか。
「でね、合宿であやめったら――あっ、そうだ! るりちゃん、こっちがこの間話に出したレインくん! かっこいいでしょ!」
「えへん。かっこいいでしょ、僕。じゃなくて、僕はレイン・カエルレウム。よろしくね」
「……まぁ、月城様には敵いませんが、確かに整った顔立ちですのね。わたくしは……コホンっ」
あ、これは。
「わたくしは、この帳の降りた日ノ本に舞い降りた――以下略――月下の黒魔術師。出雲るりですわ! どうぞ、よろしくして差し上げないこともなくてよ」
「ほほう、なるほど……なるほど……うん、るりちゃんだね。わかったよ」
どやっ、と胸を張る出雲を横目に、すすすとレインの側に寄る。
「ねぇ、出雲さんって本当に黒魔術師なの?」
コソコソと小さな声で問えば、レインも小さな声で答えてくれる。
「少なくとも僕は、黒魔術師なんて存在聞いたことないよ。大方、この年代に高確率で発症する、アレだね」
「やっぱりアレなんだ」
「うん。アレ」
つまりは、厨二病。
同じく魔法に携わる者じゃなかったことに少しの落胆と、それ以上の圧倒的な安堵を覚えながら、出雲に目を向ける。
出雲はなぎさに連れられて店内を見て回っており、多種多様な駄菓子を見ては目をキラキラとさせていた。
それをぼーっと眺めていると、背後からトントン、と肩を叩かれる。
振り返れば、レインがにんまりと笑っていた。
「あの子、見た感じ月城くんが好きなんでしょ?」
「でしょうね。初対面が印象的だったから」
「じゃあ恋のライバルだ!」
「はぁ? なんでそうなるのよ」
「月城くんを巡って二人の女の子がにゃんにゃんキャッツファイト……ひゃーっ! 楽しみっいだぁい!」
「馬鹿なこと言わないで。出雲はそうでも、わたしは月城さんのこと何とも思ってないんだから」
頭頂部にできたタンコブに、どこから取り出したのか絆創膏を貼ったレインが不貞腐れた顔でこちらを見る。
そんな顔したって、レインの考えていることにはならないのに。
「ぶー……全くもう。つまらないなぁ」
「つまらなくて結構よ」
「ちぇ。……話を変えるけど、ちょっとお願いしたいことがあるんだ」
「……なによ」
「召喚して♡」
「はぁ? 今日⁉︎」
「今日♡」
「……あの子たちが帰ったらね」
「わーい!」
「ねぇあなたたち。今何の話をなさっていたの?」
いつの間にそこにいたのか、出雲がじっとこちらを見つめている。
まずい、聞かれた。
「召喚がどうとか……」
「そ、それは……」
睨むようにじっと見つめられ、横に視線を向ける。
当のレインはなんてことないような顔で笑って、言い放った。
「召喚術だよ、黒魔術の」
「黒魔術⁉︎」
出雲と声が被った。
そしてバッと勢いよくこちらを見られる。
「あ、あなた、あなたも黒魔術師なの⁉︎」
「い、いや、わたしは……」
否定しようとしてレインから制される。
確かに、ここで否定して「ならさっきの話は?」と追及されたら終わりだ。
仕方なく、仕方なく……わたしは小さく頷いた。
すると出雲は顔をパッと明るくしてから、すぐに咳払いをする。
「こ、こんな近くに同じ黒魔術の使い手がいただなんて……気が付けなかったわたくしもまだまだですわ」
「こほん。今日からあなたは、わたくしのライバルでしてよ! 同じ黒魔術師に負けるわけにはいきませんわ!」
ビシッと指を差されて体をビクつかせる。
一体何がどうなっているんだ。
理解するよりも早く、出雲は「こうしてはいられません!」といくつかの駄菓子を購入し、なぎさを引っ張って店から出ていった。
「な……なんてこと言ってくれたのよ!」
「えへへ。誤魔化そうと思って〜」
「えへへ、じゃないわよ! あーもう!」
思わず頭を抱えて蹲る。本当に信じられない!
「よりによって人を黒魔術師にする⁉︎」
「じゃあ他になんて言えばよかったのさ」
「うぐ……それは……」
口籠れば、レインは言い負かしたぞ、とでも言いたげな顔で笑っている。
「とにかく、危機は乗り越えたってことで! さ、召喚召喚〜!」
ルンルンとわたしの手を引いて隣室へ連行していくレイン。
もう何を言うこともできず、わたしは無言でそのあとを追った。




