第四十話 最終日の花火
合宿も遂に七日目。最終日だ。
朝から夕方までいつもと同じくマネージャー業務を行う。スポドリ作りは随分と慣れたもので、なぎさの手腕には敵わないものの、最初と比べると中々早く作れるようになってきた。はず。
これもまたいつも通りに夕食の用意をしていると、突然食堂に入ってきた神風先輩と快野先輩がこちらに駆け寄って来た。
地毛の金髪とぴょんぴょんの黒髪。珍しい組み合わせだ。
「Heyアヤメ! Dinner のあとは Party だー!」
「ディナーのあとにパーティ?」
「月城先輩からの伝言だよ。夕飯が終わったら全員で花火やるんだ。コイツ、花火がよくわかってねーからパーティって言ってるだけ。で、柿﨑も参加するよな?」
「まあ、せっかくなら……」
「よしっ! なら先輩に伝えて来る! 行くぞ神風!」
「Dash Dash〜!」
突風のように走り去って行った先輩二人。一体何だったんだ。
それにしても、花火か。こんな辺境な場所だし、流石に手持ち花火だよね。家では「花火をする」なんて文化なかったし、するとしてもうちを主導に町を巻き込んだ打ち上げ花火ばかりだったし。
唯一やったのは三年くらい前だったか。神社の修行から逃げ出してきたなぎさが持ってきてくれた、二本の線香花火。ひとりひとつ持って、どっちの火種が早く落ちるかを競争したっけ。確かわたしが負けた。初めての線香花火だから、って言い訳したのを覚えている。……今思い返しても、言い訳が幼稚すぎたな。
でも、合宿最終日の締めとしては丁度いいのかもしれない。
最後くらい大人数で夏の思い出、作りたいしね。
そんなことを考えながらネギを切っていると、細かくしすぎてしまった。……どうしよう、これ。
夕食も終わり、六之江中サッカー部+わたしでグラウンドに出る。外はいい感じに日が落ちており、花火をするには持ってこいの時間と天気だ。
「あやめ〜! こっちこっち! 花火準備するの手伝って〜!」
呼ばれるままなぎさの元へ向かい、大量の手持ち花火の袋から種類別に分けてまとめていく。
ススキ花火、スパーク花火、変色花火、それから線香花火。
四種類を均等に分けて、なぎさと手分けしてそれぞれに配っていく。
まずは三セットを手に取って、まとまって立ち話をしている水森、星元、皇先輩の元へ。
「お待たせしました、花火です」
「あっ、ありがとうございます! 柿﨑さん!」
いの一番に受け取ってくれたのは水森。
以前、夜中に会話したときとは打って変わって、いつもと変わらない様子の、明るい水森だ。
その様子に内心でほっと息を吐きながら、星元にも手渡す。
「ありがとうございます」
星元も変わらない様子。花火を渡したらすぐに水森と雑談を再開してしまった。
最後に皇先輩。
「どうぞ」
「……ああ」
皇先輩からはお礼を貰えなかった。まあ、お礼を目当てにやっているわけではないのでいいのだが。
だがどうして、この人はこんなにもわたしを毛嫌いしているのだろうか? この合宿が始まるまで大した関わりを持っていたわけでもないのに。
考えても仕方がないので、次の人に花火を渡すためになぎさの元へ戻った。
「…………」
後ろから、じっと見られていたことには気が付かずに。
次は二セット手に取り、少し離れたところでじゃれている白亜先輩と花園先輩の元へ。
辿り着くよりも早くこちらに気付いた白亜先輩が大きく手を振りながら「蟹﨑―!」と呼ぶので大声で訂正しておいた。結局この合宿中、一度も正しい苗字で呼ばれなかったな。
「はい、お待ちかねの花火です」
「おお! サンキューな! で、火はどこだ?」
「まずは皆さんに花火を配ってからなので、まだ用意してませんよ」
「そうか……」
明らかにしょんぼりとした白亜先輩は無視して、花園先輩にもセットを渡す。
「ありがとう」
花園先輩もいつもと変わらぬ無表情で……いや、どことなく目がキラキラしている。いくらクールキャラが染み付いているといっても、根は普通の男子中学生なのだ。
では、と断ってまたなぎさの元へ戻る。
残りは二セット。
「あと渡してないのは?」
「静島先輩と月城先輩だけだよ! 私は静島先輩に渡しに行くから、月城先輩の方よろしく!」
ウィンクついでに一セットを渡され、背中を押された。……また何か変なこと考えてるな、なぎさ。どうせいつもの恋愛脳関連なんだろうけど。
けれど、静島先輩を任されなかったのは正直助かった。あの人、部員以外への当たりが冷たいから少し怖いんだよね。
とりあえず、その足で月城先輩の元へ向かう。
「月城先輩、花火です」
「ああ、ありがとう。柿﨑さん」
くぅ。正しい苗字呼びが沁みる。
いや、向こうが変なだけではあるのだけれど。
「柿﨑さん、一緒に花火するのはどうかな?」
「……いいですよ。ただ火が向こうにあるので」
「じゃあ一緒に行こうか」
なぎさの元に戻れば、明らかに頬を赤らめてはわわわ……! と口を動かしている。狙い通りになってよかったな。
「綿津見、火を貰えるかい?」
「はあい! 月城先輩なら安全なので、チャッカマンごと渡しちゃいますね!」
これで二人っきりだよ!
そんな副音声が聞こえきそうな、お茶目なウィンクをするなぎさ。別になぎさがそわそわするような関係でもないのに。
「水が入ったバケツがあっちにあるので、取りに行きましょう」
「そうだね。じゃあ柿﨑さんはチャッカマンを持っててくれるかい?」
「え? いえ、わたしがバケツを――」
「俺も男だからね。女の子には良いところ見させてくれよ」
「……わかりました」
後ろできゃーっ! と声を上げてるなぎさは完全に無視して、二人でバケツを取りに行く。
小さめのバケツだが中には半分ほどまで水が入っており、意外と重いはずだ。だというのに月城さんはそれを片手で持ってしまい、「あっちの方が人が少ないかな」などと言ってさっさと移動し始めてしまった。
慌ててそれについて行くと、途中ですれ違った水森たち三人組から――特に水森――凄い目で見られたが、特に何かを訂正することもなく、月城さんのあとを追った。




