第5話 転生者、佐藤大河のケース(上)
いつものギルド、いつもの面子。
この田舎町ハルデンで冒険者ギルドの事務員として働く私——クロエは、今日の分の書類仕事を午前中に終わらせ、爪のケアをしながら、ゆるく流れる時間を楽しんでいた。
その時だ。
退屈だけど平穏な日常を破壊するかのように、ギルドの扉が乱暴に開かれた。
「ここが冒険者ギルドか!!」
……また来たよ。
私は静かにため息をつきながら、自信に満ちあふれたキラキラした瞳で堂々と入り口に立つ、その男を見つめた。
彼は部屋の中をぐるりと見渡した後、壁の掲示板へ一直線に向かい、その中でも一番難易度の高い討伐依頼書を引き剥がし、カウンターへ勢いよく叩きつけた。
「これを!それと冒険者登録もだ!もちろん、最初は見習いからだろうが、俺の実力ならこのクエストはやれるはずだ!やらせてほしい!!」
カウンターの奥でその異様な動きを目で追っていた私を、彼はあまりにも眩しすぎる、純度100%の「主人公の目」で見つめてきた。
あー、はいはい。この人は、こういう系ね。
ここは田舎町。
町を分割して治める二つの貴族が定期的にいがみ合っている以外は、何もない。退屈で、平和で、私の好きな町。
だけど。
どうしたことか、こういう奴らがやたらと多いのだ。
街の住人が突然人格が変わったかのように、複雑な横文字を叫び始めたり。
赤子に近いのに、やたらと尊大でませた態度をとったり。
中年の酔っ払いのおじさんのようなことを口走る、見知らぬ少年少女が現れたり。
そして、彼らは等しく、この冒険者ギルドを訪れるのだ。
え?ここは変な奴らを吸い寄せる特異点か!?
街の人たちは「悪魔憑きだ」「呪われた街だ」と騒いでいるが、受付として様々な人間を観察してきた私には分かる。
彼らは『転生者』だ。
それも、おそらく同じ文化圏からやってきている。
今、目の前で目を輝かせている彼なんかは、恐らく「乗っ取り型」の転生だろう。
何らかの原因で死んだ男の身体に、新しい魂が入ったパターンだ。
なぜ分かるかって?元の彼(身体の持ち主)は、村外れの農夫の息子だから。
たまに街で見かけることがあったし、何より日焼けした肌と泥のついた爪がそれを物語っている。
親が可哀想に……昨日は普通に畑仕事を手伝ってたのに、今日から急に勇者になっちゃったわけだ。
私は農夫の息子(中身は別人)に叩きつけられた依頼書を受け取ると、彼の熱い要望に従い、定型業務として登録用紙を差し出した。
「とりあえず、これに名前を書いて」
「おお!これが冒険者ギルドの登録用紙か!!羊皮紙というやつだな!」
当たり前の紙切れを、いちいち大げさに喜ぶ彼。
最近はクズみたいな性格の転生者が連続してたから少し構えてたけど、今回は当たりな方かな?
長生きできるかどうかは、また別の話だけど。
彼は羽ペンを不器用に握り、お世辞にも綺麗とは言えない字で名前を書いた。
……『サトウタイガ』?
いや、そこは郷に入れば郷に従えよ!
まぁ、本人がそれで良いと言うなら良いけど。
気を取り直して、記入項目を確認する。
「はい。ではサトウさん、あなたは今日から見習い冒険者ですね」
「おお!見習い冒険者か!この世界はAとかBとかのランク制じゃあないんだな!!SSSランクを目指していた身としては少し残念だが、燃えてきたぜ!!」
ギルド内に響き渡る大声。
私とサトウタイガ君のやり取りを、部屋の隅でエールを飲んでいた本職の冒険者たちが、怪訝な表情で一斉に見ている。
……そんな目で見ると、この面倒くさい新人をあんたたちのパーティーになすりつけちゃうぞ。
私は心の中で冒険者たちを牽制しつつ、タイガ君に向き直った。
「で、このクエストだけど。見てわかるとおり上級冒険者向けだから。あなたが受けることはできな——」
バンッ!!
サトウタイガ君は、日焼けした大きな手でカウンターを強く叩いた。
「そこを、頼む!!このみなぎる身体の力を、一刻も早く試したいんだ!!」
彼はそう言って、自信満々に農作業で鍛え上げられた力こぶを作ってみせた。
いや、そりゃあプロの農夫なんだから、転生前のひ弱な魂だった頃よりは力はみなぎるだろうよ。たぶん。
呆れる私。
どうして彼ら転生者は、安全な下積み(薬草採取やドブさらい)をすっ飛ばして、いきなり危険なクエストで力を試そうと思うのだろうか。
我こそは隠された攻略法を知っていると言わんばかりの、根拠のない自信。
もしくは、「俺って一般人ですから」みたいな顔で周囲をちらっと見つつ、わざと自虐を言って「えっ、お前そんなに強いの!?」と驚いてほしい構ってちゃんオーラ。
今回の彼は、まだマシで素直なほうだと思ったけど……駄目かも。
話が通じないタイプだ。
でも、悪い人じゃなさそうだし、このまま森に行かせて死なせるのも寝覚めが悪い。
「……仕方ないですね。じゃあ、あそこの暇そうにしている男と模擬戦をして、勝てば許可しますよ。力試し、したいのでしょ?」
私が指差した先。
そこには、木箱に腰掛け、眠そうに剣を磨いている一人の冴えない青年がいた。
「え、また俺?」
彼はわざとらしく後ろを振り返ったあと、自分の顔を指差す。
「きみしか、適任者いないの。頼んだよ。ダン・カイゼル」
ついに受付嬢とモブ男の視点(本編)が始まりました!
『そういう構成だったのか!』と少しでも楽しんでいただけたら、ぜひ★評価で応援をお願いいたします!
【次回予告】
冴えないモブ男・ダンと模擬戦を行う大河。死闘?の果てに大河がたどり着いた結論は如何に。
そして、この物語。ただのコメディ……ではない?




