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転生したら『異世界』だった件 ——勘違いしたイタ転生者が秒で自滅する特異点ギルドの日常とモブ達の物語  作者: セキド烏雲


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第4話 転生者、田中皇帝のケース(下)

「これは⋯⋯」


 そうつぶやいた鏡に映る男の口元が、美しく歪んだ。


 そこにいたのは、まさに物語の主人公と言わんばかりの、黒髪、短髪の男前だった。


 生前の俺様と比較しても、遜色ない。いや、それ以上に優れた器だ。


 鏡の前でポーズを決めていると、『おい。どうしたんだよ〜』とモブ男が再び俺様に声をかけてきた。そいつは酷い寝グセをつけ、ひどく疲れた寝起きの顔をしている。


 誰だこいつ。知らん。

 俺様はこんな奴の仲間でもないし、俺様の仲間に相応しい男にも見えん。


 この中だと⋯⋯

 あの受付のオンナ。


 目つきは悪いが、なかなか整った顔をしているし、スタイルもそれなりに良い。


 胸のボリュームはやや寂しいが、あれくらい慎ましくても、俺様の隣を飾る華としては及第点だ。


 俺様はモブ男を無視して、受付のオンナを射抜くように見つめた。


「ダンが⋯⋯話しかけてるけど?」


 オンナは俺様を気遣うように視線をモブ男に向ける。


「こんなモブ知らん。それよりお前、俺様の冒険についてこい。ただし、いきなり惚れるなよ」

「は。私は仕事中。見れば分かるよね?きみはダンとクエスト受注したところなの。だから、行ってらっしゃい」


 悪い目つきで、オンナは俺様に懇切丁寧に、今の状況を説明した。


 ふん、とうとう好きになってしまったか。俺様の事が。仕事中と言うことは、つまり仕事の後は空いている。そういう意味か。


 俺様はやれやれと首を振り、仕方なくモブ男に振り向いた。


「さぁ、行くぞ。モブ男、ドラゴンか?ガーゴイルか?リヴァイアサンか?何を倒しに行くんだ」

「お前なぁ……。まぁいいや、その中じゃあ、ドラゴンに近いかな」


 冴えないモブ男と俺様は、近くの森の中へ、魔物討伐のクエストへと出発した。


 ◆◆


 薄暗い森の奥。湿地帯の草むらを掻き分けた先で、モブ男が足を止めた。


「静かにしろ。あそこにいるぞ。今回のターゲット、『毒沼トカゲ』だ」


 モブ男が指差した先には、体長20センチほどの、毒々しい紫色の斑点を持った小汚い爬虫類が這いつくばっていた。


「……は?」


 俺様は鼻で笑った。


「ドラゴンに近いだと?ただのトカゲじゃないか。俺様のような選ばれた勇者が狩るには、あまりにも役不足だ」

「バカ言え、こいつの肝は高く売れる。特効薬になるんだ。いいか、絶対に素手で触るなよ。猛毒を持ってるからな。俺がこの網で——」

「引っ込んでろ、モブ男」


 俺様はモブ男の網を払いのけ、堂々とトカゲの前に進み出た。


 トカゲなど、俺様から溢れ出る『真の主人公の覇気』にあてられれば、容易くひれ伏す。この幼竜は、俺様の最初の使いファミリアにしてやろう。


 俺様は優雅にしゃがみ込み、素手でトカゲの背を掴んで捕獲した。


「さぁ、俺様の圧倒的なカリスマに酔いしれるがい——」


 じわっ⋯⋯


「……お?」


 トカゲの背中から粘液が溢れ出て、俺様の掌は焼け付くような激痛に襲われる。


「ぐぁぁぁっ!?」

「バカ野郎!!だから触るなって言っただろ!!早くこの解毒薬を飲め!!」


 ダンが血相を変えて、小瓶を俺様に差し出してくる。

 だが、俺様は美しく微笑み、その小瓶をパチンと弾き飛ばした。


「……愚民め。慌てるな」

「はぁ!?」

「これは……主人公特有の『毒耐性スキル』が覚醒する……神聖なる儀式イベント……だ」


 強がる俺様の額から、滝のような冷や汗が吹き出す。

 視界が激しく明滅し、心臓が早鐘のように打ち鳴らされる。


 ふふっ……来るぞ、脳内に響く『スキル獲得』のアナウンスが……!


「おい!お前、口からすげぇ泡吹いてるだろ!!死ぬ!マジで死ぬぞ!!」

「……ふふっ……美しき……覚醒の……時…………ガクッ」


 俺様は白目を剥き、地面に無様に突っ伏した。


 泥水に顔を突っ込んだまま、俺様の意識は本日二度目の暗転を迎えた。


 ◆◆


 完全なる暗闇。


『……』


 そこには、沈黙があった。


 いや、見えない神の、深いため息が聞こえた気がした。


 だが、俺様は少しも悪びれることなく、見えない存在に向かって不敵に言い放った。


「暗闇の神よ。あの器は駄目だ。俺様の高尚な魂の熱量に耐えきれず、自壊してしまった」

『……自ら猛毒の魔物を鷲掴み、解毒薬を拒否して泡を吹いたのだろう。もはや言葉もないぞ』

「ふん、そもそも汗臭い冒険者など、俺様の美学に反するのだ。神よ、俺様の完璧なプロデュースを手伝わせてやる」 


 俺様は暗闇に向かって、両手を大げさに広げた。


「次は、俺様に相応しい姿で異世界転生させろ!もっと美しく、気高く、夜の闇を支配し、他者の生命(血)を奪って永遠を生きる存在!そう、『真の夜の貴族ヴァンパイア・ロード』のような、危険すら感じる種族と飛行能力を俺様によこせ!!」


 ふふっ……これで完璧だ。圧倒的な魅力で女どもの血をすすり、夜の異世界を支配してやる。


 暗闇は、少しの間沈黙し……やがて、静かに頷いた。


『……ふむ。夜の闇を飛び回り、他者の血を吸って生きる「異世界」の存在だな。よかろう。貴様のその自己愛に相応しい、最高の器をくれてやろう』

「おお!神よ!さぁ、俺様の華麗なる夜の狂宴が幕を開ける——!」


 俺様の魂は、再び猛烈な速度で、新たな器へと吸い込まれていった。


 ◆◆


 目覚めると、俺様は宙に浮いていた。


 おお……!軽い、なんという身軽さだ!


 背中には、夜の闇を自在に舞うための美しい羽。


 俺様は、完全なる『夜の支配者』として生まれ変わったのだ。 


 そして、俺様の洗練された嗅覚が、すぐ近くにある「甘美な血の匂い」を捉えた。


 ふふっ……見つけたぞ。俺様の転生を祝う、最初の生贄だ。


 俺様は羽音を立てて、その芳醇な血の匂いへと一直線に飛翔した。


 だが。


 飛びながら、俺様の視界に映る景色に、猛烈な違和感が走る。


 ここはどう見ても、中世ヨーロッパ風の異世界ではない。


 見慣れたアスファルト。白線。そして、巨大なトラックが走り去る、あの交差点。


 そして、俺様が狙いを定めた「生贄」は——


 あの交差点の脇で、スマホに向かって喋っている、あの生意気なガキのオンナだった。


 まぁいい。あのオンナ、俺様の崇高な血肉の一部となる栄誉を与えてやろう。


 俺様は優雅に宙を舞い、メスガキの白く細い腕へと静かに降り立った。


 さぁ、俺様の甘美な口付け(吸血)を——


「うわっ!」


 メスガキが顔をしかめ、自分の腕を見た。

 そして、俺様に向かって、心底嫌そうな顔で吐き捨てたのだ。


「……ウザっ、蚊じゃん」


 パシィィィィンッ!!!!


 彼女の容赦ない平手打ちが、俺様の華奢な身体を完璧に捉えた。


 圧倒的な物理の暴力。


 ペシャンコにひしゃげ、ガキオンナの腕にへばりつく自分の無惨な姿を認識しながら、俺様の意識は急速に霞んでいく。


 俺様の高尚な魂は、風に吹かれ、あっけなく消滅した。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

クマムシ、蚊……と散々な末路を辿った彼らですが、お楽しみいただけたでしょうか?


さて、次回の第5話から、いよいよタイトルの本領発揮です。


物語は「自滅する転生者」の視点から、それを見つめる「特異点ギルド」側の視点へと一気にシフトします。


なぜ、この街にはこれほどまでに「痛い転生者」ばかりが吸い寄せられるのか?


そして、あくびをしながら彼らを眺めていた「受付嬢」と「モブ男」の正体とは――。


第5話から、キャッチコピーにある「流れ変わったな」という展開が本格始動します。


ここからがこの物語の「真の本編」です。


ぜひ、第5話に備えて今のうちに【ブックマーク】や【★評価】で、二人の行く末を見守っていただけると嬉しいです!

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