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転生したら『異世界』だった件 ——勘違いしたイタ転生者が秒で自滅する特異点ギルドの日常とモブ達の物語  作者: セキド烏雲


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第3話 転生者、田中皇帝のケース(上)

 とある国道の交差点。


 迫るトラックを前にして、俺様の優秀な脳細胞は極限まで加速していた。


 アスファルトに這いつくばる俺様。その視線の先には、驚愕に口をポカンと開け、間抜けに目を見開いている生意気なガキ。


 ——事の起こりは数分前。


 俺様は田中皇帝たなか・かいざぁ。40歳、独身。煩悩まみれの女など興味すらわかない俺は普段、高尚な音楽を少々嗜みつつ、場末のバーなんかで(バイトとして)立っている。


 あとは、タダで読めるWeb小説なんかも適当に読んでやっている。作者どもの作り出した世界を神のごとく俯瞰できるインテリジェンスな趣味だ。


 そんな俺が、スマホで配信していたクソガキを見つけ、この選ばれた存在である俺様も出演してやると話を持ちかけたことに始まった。


 クソガキは、俺様の好意に泣いて喜ぶこともなく、「ウザっ」などと吐き捨てた。


 多少の苛立ちを覚え、

 その身体をコンビニの壁に押しつけた俺様は、壁にドンと手を突き、軽く睨みつけてやった。


 俺様の、ヤクザも道を譲るほどの鋭く研ぎ澄まされた眼差し。それにビビり散らかしたガキは、あろうことか車道へ飛び出しやがったのだ。


 そして、そこへ迫るトラック。


 まったく、世話が焼ける。仕方なくこの俺様が、その身を挺して助けてやったというのに。


 今ごろ、俺様の男気に惚れ込んでも、もう遅いぞ。


 ガンッ!!


「フゴッ!!!」


 俺様の完璧な頭脳が、トラックの汚らしい車底に激突する。


 全身の骨が軋み、視界が赤く染まっていった。


 だが、薄れゆく意識の中、俺様は少しも慌てなかった。Web小説で幾度となく「分析」してきた展開が、俺様の脳裏をよぎったからだ。


 トラックに轢かれて死ぬ……か。見事なまでにラノベの転生テンプレじゃないか。陳腐だが、俺様の新しいステージへの招待状としては悪くない。


 そんな俺様の意識は優雅に遠のき、視界は完全に暗転した。


 ◆◆


 暗転した世界。しかし、俺様の高次な意識は既に復活していた。


 まさか本当に、転生システムが存在するのか?


 俺様は底知れぬ期待に胸を膨らませ、周囲を見渡す。


 だが、何もない。ただの闇だ。


 俺様を出迎えるはずの、俺に惚れるためだけに存在する女神も、全て999を表示するステータスボードも、黒い革張りの、俺に相応しいソファもない。


「お、おいっ!神!!いるんだろ!?転生の神っ!!」


 俺様の威厳ある声は、暗い世界に虚しく吸い込まれる。


「……バカらしい。俺様ほどの魂を誰もエスコートしないとは」


 そう呆れ果て、諦めかけたその時。

 暗闇が……深くため息をついた。


『……また……あの交差点から私に引き寄せられて……。本当に面倒だな』


 その声を聞いた俺様は、心の中で会心の笑みを浮かべた。


「貴様が……神だな」

『そう言われることもある』


 予想は的中した。

 俺様の放つ圧倒的な魂の輝きが、神をも刺激し、運命の交差点から引き寄せてしまったのだ。

 まったく罪な男だ、俺様は。


「よし!俺様を異世界に転生させろ」

『良いだろう。ちょうど、手ごろな魂を探していたところだ』

「ふん、手ごろだと?貴様が見つけたこの魂は、恐らく極上の代物だぞ。感謝するんだな」

『……そうか。それは良かったな』


 なんだ、反応が薄いな。


 底の知れた馬鹿な神だ。俺様の内に秘められた圧倒的な「魂力」に気付けないほど、劣等で節穴な神なのだろう。


 気がつけば、俺様の意識は眼下に突然現れた青い星へと、ものすごい勢いで吸い込まれ始めていた。


「あの星が、俺様の新たな箱庭ステージか」

『そうだ』

「ふん、申し分ない。俺様が入る新たな器は、美しい吸血鬼か?禍々しい美のデーモンか?」


 猛スピードで吸い込まれながら、俺様は暗闇に向かって問いかけた。


『……普通の人間だ』


 人間、か。だが、それでもいいだろう。どんな器であっても構わない。俺様は新しい世界で、この崇高な魂に相応しく、完璧に世界の王として立ち回ってみせる。


 俺様の魂は、祝福されるように真っ逆さまに異世界へと墜落していった。


 ◆◆


 目を覚ますと、そこは文字で何度も読んだ、あの心躍るテンプレの光景だった。


 血と汗と、安っぽい酒の匂いが微かに漂う空間。

 何の特徴もないモブ男たちが、木の掲示板の前で無様にたむろしている。


 ふっ……冒険者ギルドか。チュートリアルとしては上出来だ。


 すると、そのなかの一人のモブ男が、ひどく驚いたような顔をして俺様を見つめてきた。


「大丈夫か!?急に倒れたが……」


 20歳前後の、オーラも何もないパッとしない男。


 俺様はその底辺モブを無視し、辺りを見渡して「俺様の新しい姿」が確認できるものを捜した。


 すると、カウンターの奥から、三白眼で俺様に値踏みするような視線を送ってくる、スレンダーなオンナと目が合った。


 ほう、悪くないオンナだ。だが、俺様に釣り合うかな?


 俺様は心配して声をかけてきた男を完全に無視し、顎でしゃくりながらそのオンナに声をかける。


「おい、そこのオンナ。何か姿見をよこせ」

「は?……そこにあるでしょ、心ゆくまで見なよ」


 オンナは露骨に呆れた顔で視線を逸らした。


 その先には、いかにも質の悪い、薄汚れた背丈ほどの姿見が立てかけられている。


「ふっ、まぁいい」


 まずは俺様の、世界を魅了する新しいアバターとのご対面だ。


 俺様は悠然と立ち上がり、薄汚れた鏡の前に立つ。


「これは⋯⋯」

田中皇帝、最高にイキり散らしていますね。受付嬢のクロエを勝手にロックオンしつつ、モブ男のダンと共に森へ向かいますが……。


【次回予告】

魔物討伐に向かった田中。しかし「毒沼トカゲ」相手に呆気なく。

そして彼が望んだ「〇〇〇」としての再転生先で待ち受けていたのは!?

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