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転生したら『異世界』だった件 ——勘違いしたイタ転生者が秒で自滅する特異点ギルドの日常とモブ達の物語  作者: セキド烏雲


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第2話 転生者、鈴木英雄のケース(下)

 冒険者ギルド。


 街中をコソコソと進んでいた俺の目の前に、ついに探し求めていた看板が現れた。剣と盾が交差した、荒々しくも頼もしい意匠。


 やっぱあったぜ!!冒険者ギルド!!やっぱ最高かよ異世界!!


 幸いなことに、この世界の文字はスラスラ読めたし、行き交う人々の言葉も理解できた。


 死んだ下級貴族の身体(器)にインストールされた恩恵だろう。


「ふっ……」


 言語チート。やはり、俺は間違いなく『選ばれた主人公』だ


 俺は勢いよくギルドの扉を蹴り開けた。


 さあ来い!巨乳の受付嬢!俺に惚れるツンデレ女剣士!エロい装備の魔法使い!どこだ!?


「…………」


 しかし、そこにいたのは、昼間から安いエールをあおる不潔なモブおっさんたち、カウンターの端の木箱で突っ伏して、ひどくうなされながら眠りこけているモブ男。そんなつまらない存在ばかりだった。


 そしてカウンターの奥にいるのは、胸の谷間を強調した美少女……ではなく、ジト目で俺を異物のように睨んでくる胸なし夢なしモブ女だ。


 ま、まぁ……この街は初心者用の『はじまりの街』。

 ギルドもモブみたいな奴ばかりなんだろ。


 俺の切り替え能力は凄まじい。

 つまらないと思ったWeb小説は1話で即ブラウザバックする男だ。


 俺は堂々と胸を張り、受付のジト目女に声をかけた。

 近くで見ると、さすが異世界。なかなかどうして。悪くない。


「冒険者になりたい。俺の『隠された能力ステータス』を測ってくれ」


 冒険者ギルドといえば、水晶やら魔力測定器やらで冒険者登録を行う際に能力測定を行うのは常識だ。


 しかし、ジト目の女の反応は薄い。

 俺のつま先から頭のてっぺんまでを、爪の間に挟まったゴミを小指でほじくりながらジト目で見つめた。


「きみさ……その服装。そのなり、貴族だよね?まともな仕事は他にもあるでしょ」


 などと意味の分からないことを言っている。


「は?俺はここで冒険者として働きたいのだが?」

「こんな掃き溜めに?いつ野垂れ死ぬか分からない、その日暮らしのならず者が来るところなんだけど、ここは」


 ならず者?掃き溜め?


 いやいや、そんなわけあるか。

 冒険者ギルドと言えば、夢と希望とロマンがつまった華々しい組織。常識だろう。

 この姉ちゃん、謙遜が過ぎるぜ。


「それでも良い!俺は魔物を討伐して、最速でSランクに昇り詰めたいんだ!」

「……そ。じゃあ、剣術か魔術、できるのか?」


 どこまでも物わかりの悪い女だ。


「だから!それを水晶玉か魔力測定器で測ってくれと言っている!」

「頭おかしいのか、ただの馬鹿なの?いい年して。自分の実力も分からないような世間知らずを登録するほど、この掃き溜めは腐ってないから。さよなら」


 あまりに冷たい瞳。

 いやいや、そんなわけ……あぁ!なるほど、そういうことか!!


 俺の脳細胞が閃いた。


 これは、あえて無能を装う『フラグ』だ!まずは荷物持ち(ポーター)として下積みのパーティーに入り、絶体絶命のピンチで真の力を覚醒させるやつだ!


「じ、じゃあ、俺を『荷物持ち』として雇ってくれる勇者パーティーはあるか?」

「勇者?自分の力すら測れない足手まといを雇い入れる勇者がどこの世界にいるの?いい加減にしないと衛兵を呼ぶよ」


 バタァン!!


 扉が閉まる。

 ということで、俺は冒険者ギルドから物理的につまみ出された。


 おかしいな……これで2度目の追放だ。追放2連続なら、もういい加減チートスキルが発動しても良いはずなのに


 路上に転がった俺は、顎に手を当てて推理する。


 あぁ、もしかしてこの世界は、俺が『生命の危機ピンチ』に陥ることで初めてリミッターが外れる、スロースターター系の異世界か!


 思い立ったら即実行。


 俺は確信を胸に、魔物や悪党が出そうな森の奥へと足を踏み入れた。


 すると——完璧なタイミングで、薄汚い三人組の盗賊が現れた。


 ほら、キタキタキタァ!!

 これぞThe・テンプレ展開!!完全にフラグが立った証拠だ!!


 俺は不敵な笑みを浮かべ、彼らを指差した。


「おい、そこのモブ盗賊ども。光栄に思え。俺の成長の『踏み台』になれ」

「あ?何言ってんだ、この気色悪いヤツ」


 盗賊の一人が顔をしかめるが、隣の男がハッとしたように俺の顔を指差した。


「おい、こいつ……あのダスクマン家の三男坊じゃねぇか?カイゼル家に恨みを買って、暗殺者に殺されたって噂だったが……」

「マジか。なんで生きてんだ。いや、待てよ。ここで首を刎ねてカイゼル家に持っていけば……」


 ……と、何やら小難しい政治的背景(裏設定)を語っているモブたち。

 だが、そんな細かい話は俺の知ったことではない。


 よし、もう魔術が覚醒している頃だ。詠唱は……厨二っぽく、長めがいいな!


「炎の精霊よ……深淵より来たりて、我が指先に集え!全てを焼き尽くす紅蓮の——」

「うぉっ!?何かしてくるのか!?」


 盗賊たちが一瞬身構える。

 俺はニヤリと笑い、バシッと指を鳴らした。


「——ファイア!!」


 ……しーん。

 そよ風が、森の葉を揺らした。火の粉一つ出ない。


「…………は?何だこいつ、頭湧いてるのか?」

「ただの馬鹿だ、殺せ」


 ズバァァァッ!!!

 モブ盗賊の無慈悲な剣閃が、一瞬にして俺の腹を真横に薙ぎ払った。


「…………え?」


 次の瞬間、俺の腹から、どろりとした『信じられないほど温かいもの』が大量にこぼれおちた。


「いっ、ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!?」


 ボタボタッ!!ズルズルッ!!

 あまりの激痛に、俺は泥の上に崩れ落ちた。

 痛い。痛い痛い痛い!嘘だろ!?なんで防壁魔法が自動展開しないんだ!?


 薄れゆく視界。冷たくなっていく手足。

 やばい。これは、本当に不味い。スキル覚醒どころの騒ぎではない。


 ……いや、待て。違う。落ち着け俺。


 血の海に沈みながら、俺の優秀なテンプレ脳が最後の答えを弾き出す。


 このパターンは……さては『死に戻り』か、『2度死ぬことで真の神に会える』ストーリーだな……?


「こいつ、腹割かれて笑ってやがる?!気持ちわりぃ!!死ねや!!」


 ズバン⋯⋯


 俺の世界が上下逆転し、強く振動した。

 俺の意識は、本日2度目の暗転を迎えた。


 ◆◆


「……ほらな!言った通りだろォォォッ!!なぁ神様!!いるんだろ!!」


 再び訪れた、完全なる暗闇。


 腹を真っ二つにされるという最悪の激痛は嘘のように消え去り、俺は無傷の魂となって虚無空間に漂っていた。


 やはり『死に戻り』だ。『チュートリアル敗北からの真ルート分岐』だった!俺の慧眼に狂いはなかった!


『……またお前か』


 あの聞き覚えのある声が、俺の呼びかけに答える。


 俺は歓喜のあまり、見えない神に向かって指を突き立てた。


「システム神よ!チュートリアルの難易度バグりすぎだろ!初心者にいきなり痛覚100%の即死イベントとか、クソゲーにも程があるぞ!」

『……自ら勝手に死地に赴き、無謀に死んだだけだろう』

「だ、黙れ!今度こそ!!最強の器をよこせ!『異世界』で無双させろ!」

『はぁ。まぁ、望みくらい聞こう』


 俺はニヤリと笑った。今度こそ、俺の完璧なテンプレ知識を最大限に活かすときだ。

 前回の敗因は、圧倒的な「物理防御力」の欠如。ならば求めるべきは一つ!


「まずは『最強の耐久性』だ!!絶対に死なない、どんな過酷な環境でも生き抜ける『無敵の耐性』と『最強の生命力』を俺にくれ!炎も、氷も、放射線も、なんなら宇宙空間の真空すらも耐え抜く、不老不死級のボディだ!!」


 ふふっ……これで『不滅の竜魔人』か『絶対防御の聖騎士』ルート確定だぜ!


 暗闇は、少しの間沈黙し……やがて、静かに頷いた。


『……ふむ。炎も、氷も、真空すらも耐え抜く、この世界から見て「異世界」の最強の生命体だな?よかろう。ならば、その望み……確かに叶えてやろう』

「キタァァァァッ!!さすがだ神様!今度こそ俺のハーレム無双ライフが――」


 俺の魂は再び、足元に現れた青い星へと、猛烈な速度で吸い込まれていった。


 見とけよ異世界!今度こそ俺は、最強の主人公として君臨してやる!!


 ◆◆


 目覚めると、そこは緑豊かな大地の上だった。


 おお……!分かる、分かるぞ!体中にみなぎる、圧倒的な生命力!


 絶対零度でも、100度を超える灼熱でも、致死量の放射線を浴びせられても、果ては宇宙空間に放り出されても絶対に死なない。


 まさに、俺が望んだ『最強の耐久性を誇る無敵のステータス』だ!


 だが。


 俺の視界はひどくぼやけ、身体も上手く動かせない。


 あれ……?おかしいな。


 そして、自分の身体が、人間ではなくなっていることに気がついた。


『最強の耐久性を誇る生命体』――すなわち『クマムシ』として転生したのだ。


 その時。


『――キモっ』


 極小の聴覚器官が、空気を震わす巨大な音響を捉えた。

 霞む視界の奥で、その声の主に見覚え、いや、聞き覚えがあった気がした。


 俺が死んだあの交差点。


 その脇に生えた、俺が居たコケのすぐ横で、あの生意気なメスガキが歩きながらスマホで配信をしている。


 配信中、彼女の実況画面に映っているのは、宇宙空間でも死なない最強の微生物を紹介するショート動画だ。


「マジありえない。絶対死なないとか言っても、これはキモい!」


 ただひたすらに周囲の水分とコケの汁をすすり、乾燥すれば樽状になって休眠し、濡れればまたコケをすする。


 前世で忌み嫌った、工場での『死ぬまでの悲しきルーティーン』。


 最強の生命力と耐久性を得てしまった俺は、文字通り『無限に等しい悲しきルーティン』として、ただ生存本能のままに生きる極小の存在になり果てていたのだった。

最強の耐久性=〇〇〇〇エンド、いかがでしたか?痛い勘違い男の末路としては相応しいですね(笑)。笑っていただけたらぜひ★評価をお願いします!


【次回予告】

新たな転生者が登場!彼もまたあの場所から異世界へ!?

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