奉納祭
エリシオンは隣国ガルシアの奉納祭に公務として訪れていた。
自身も竪琴を嗜むエリシオンはこの音楽に溢れた祭りを楽しみにしていたが、神殿楽士を見るたびにルシアンを思い出して感傷に浸ってしまうのだった。
そんなエリシオンの目はある一点に釘付けになった。
遠目で顔は分からないが、銀の髪の少女が竪琴を持って現われたのだ。
エリシオンはその少女にルシアンを重ねて眺めていた。
そして曲が始まると、歌を無視してただ竪琴の音だけを追っていた。
(ルシアンの音に似ている)
銀の髪の楽士だからそう思えてくるのかもしれないが、エリシオンはその音が気に入った。
そしてあとでもう一度、自分のために奏でる曲を聴きたいと思うのだった。
エリシオンは侍従のアランに命じて、あの銀の髪の楽士を領事館に招くことに決めた。
そしてそれはすぐに叶えられ、奉納祭の最終日にあの楽士が彼の元を訪れることが決まったのだった。
◇◇◇
アリアは戸惑っていた。
奉納祭でダリアたちとともに神様に捧げる曲を無事に披露し終えたところで、楽士長に呼び出されたのだ。
失敗はなかったと思う。でも、それ以外に呼び出される理由が分からない。
不安な気持ちで楽士長の部屋に入ると、待っていたのは彼だけではなかった。
(巫女長様までいる……)
巫女長はアリアを育ててくれた母のような人だ。
その彼女までがいるとなると、自分は何か大変な失敗をしでかしたに違いない。
アリアは顔を青くして二人の言葉を待った。
しかし彼らの話は予想外のものだった。
「アリア。あなたに領事館へのお招きがありました」
(領事館……?)
アリアは楽士長の言った意味が分からなかった。
ただ、自分の失敗の話ではなさそうだということは分かったので、アリアはホッと息を吐いた。
「あなたの竪琴をまた聴きたいと仰せなのですよ」
楽士長にそう言われて、アリアの緊張は高まった。
今頃になって、領事館へのお招きという言葉の意味が頭に入ってきたのだ。
(つまり、神殿の外に出て竪琴を弾くということ……?)
かつては巡回楽士を希望していたアリアだが、今では神殿の外に出なくて済んでよかったと思っている。
なのに、領事館に行って竪琴を弾けと言われても……。
「あの……ダリア様たちも一緒ですか?」
そうなら心強いと思ったが、楽士長の答えは「いいえ」だった。
「私も一緒に参りますから、大丈夫ですよ」
巫女長がそう言ってくれたので、アリアは心強く思った。
(大丈夫、巫女長様が一緒なんだから、怖がることなんてないわ)
そう自分に言い聞かせて、アリアは初めての外出を楽しむことにした。
そして迎えた奉納祭最終日……アリアは領事館へと向かったのだった。




