5話 乱高下
「これ、私の連絡先」
「あぁ。僕も渡しとくね」
スマートウォッチをみると、もう16時になっていた。
「そろそろ出ようか?」
「そうだね」
割り勘で支払いを行い、カフェを出る。
並んで渋谷駅まで歩く。まだ少しぎこちない。
スクランブル交差点で止まる。
信号待ちだ。
「……」
「この前」
「ここで浮いたんだよね」
「……うん」
彼鉈と看空は交差点を見つめる。
人が流れ、外国人やら配信者やら大型ビジョンやら、何も変わらない。
だが、二人だけがこの場所を少し怖いと思っている。
「大丈夫?青だよ」
「あっ、ごめん」
気づいたら青信号になっていた。彼鉈は看空の後ろを歩いた。
「今日はありがとう」
「......う、うん」
「じゃあ」
駅前で止まる。これで今日は終わり...になっちゃうのかな。
「……あの、さ」
「?」
「また……会える?」
その言葉を聞き、看空は琥珀色の目を見開いた。
「学校あるしね」
「……そうだよね」
少し落ち込む。
「……あ」
「でも」
「もう夏休みだったね」
二人で揃って笑い声が出る。
「青凪さんは...どこに住んでるの」
「豊洲のタワマン」
「......すご」
「なにその目...あはは」
いわゆるお嬢様的なやつなのだろうか。
タワーマンションなんて、大体テレビの中の人が住む場所だと思っていた。
家賃だけで、うちの一年分くらいするんじゃないか。
「渋谷まではメトロで一本だからね。遠くはないよ」
「そっか」
電車については詳しくないためわからないが、地下鉄のことでしょ。多分。
「今日って15日だっけ」
「えっ」
咄嗟にスマートウォッチをみる。15日で合っている。
「そう...15日」
「じゃあさ、18日って予定ある?」
「あぁ...基本的に暇だけど」
「じゃあその日、またここで、どう?」
「わかった。いいよ」
「おっけ、じゃあまたね!ありがと空賀さーん!」
彼女は走りながら手を振って、メトロの方に歩いて行った。
看空の姿が完全に見えなくなるまで、彼鉈は見つめ、その場を後にした。
ガタンゴトン、と電車の走行音が鳴り響くなか、彼鉈は端っこの席で今日のことを考えていた。
(上手く自己紹介できなかったな...変な印象持たれてないかな)
(あんま人間関係に良い思い出がなかったからなぁ)
脳裏にそんな考えを置き、19時頃に家へ着いたのだった。
部屋へ戻る。ライブで撮った写真を確認する。
その次にメッセージを見る。電車の中で送ったメッセージの返信が来ていた。
『今日はありがとう』
『こちらこそ』
たった数行だけど、何度も見返してしまう。
ベッドへ倒れ込み、イヤホンを耳につける。
──♪
『Sky Clear』が流れ始めた。
昨日は、この曲を聴いた後に死ぬつもりだった。
でも今日は違う。
「……また会えるんだ」
その一言が、静かな部屋に溶けていった。
◇
一方、その頃。
黒いセダンがゆっくりと高層マンションの地下駐車場へ滑り込む。
「お帰りなさいませ」
自動ドアが開くと、広いエントランス。
磨き上げられた大理石、静かすぎる廊下。
「看空お嬢様。今週の資料になります」
「……ありがとう黒木さん」
笑顔を作る。
それは外で見せていた笑顔より、少しだけ固かった。
部屋へ戻り、ベレー帽を外す。
鏡の前で水色の髪を整える。
スマホが震えた。
空賀彼鉈からメッセージが一件。
『今日はありがとう』
看空は小さく笑った。
『こちらこそ』
と打ち込み、送信する。
「……うん」
画面を見るその笑顔は、本物だった。
ふと横を見ると、机の端に一枚の封筒が置かれている。
《サマーカルム・エンターテイメント 役員会議資料》
その文字を見た瞬間、笑顔は静かに消えた。
「私、まだ17歳なんだけどな」
「黒木さん、17歳でこれって重くない?」
自部屋の後ろで控えている使用人の黒木友来に聞こえる音量で伝える。
「......重いとは思いますよ。ですがお嬢様は次期社長候補。私も仕事ですから」
そう言って、黒木が部屋を出る。
静かになり、ふとDMを見る。
空賀彼鉈。
メッセージの文面を見て、少し笑ってしまう。
でも現実......資料を見れば、笑顔が消える。
そんな自分を置いて、窓の外は東京の夜景が広がっている。
「私は......幸せなのかな」
お読みいただきありがとうございます!どうやら看空には抱えてる何かがあるようで...?
独り言です→なんか()は心の声、『』は過去の声?みたいな感じで分けてるんですけど分かりづらいかな...
感想もお願いします!




