4話 一緒なら
2020年7月15日。二日連続で渋谷へ行くことになった。
片道1000円は田舎以上都会未満の僕には結構な出費だよな...
そんなことを考えながら、電車に揺られる。
DMでやり取りをしていると、昨日行ったライブハウスのところにいるらしい。
「......ぁ」
忘れていた、母さんに連絡しなければいけない。
『今日東京行ってくる』
『夜までには帰ると思う』
今は昼の12時。昼休憩の時間のため、すぐ既読が付くだろう。
「────」
突然、車内に泣き声が響く。
右に振り向く。赤ちゃんだ。
周りの乗客が一斉に顔を上げる。
舌打ちする人やイヤホンの音量を上げる人。
眠そうに目を閉じる人。
母親は何度も頭を下げていた。
……別に、謝ることじゃないだろ。
乗り換えを駆使して1時間35分。1日ぶりに渋谷に来た。
ライブハウスの前、昨日と同じ場所。
水色の髪が特徴的なのですぐ見つけることができた。
「あ……」
向こうもこちらを見る。
目が合う。
逃げる?いや、DM送ったの僕だし。
でも足が動かない。どうしよう。
会釈する?手を振る?いや違う。
そもそも、初対面って何話せばいいんだ。
家族以外とまともに会話しない自分の弱点が出てしまった。
「こんにちは」?
昼だし。
「初めまして」?
DMしてるから初めましてでもない。
考えているうちに、向こうが歩いてきた。
あぁ〜終わった。
「......来てくれたんですね」
「...あ、えっと、いえす」
「私外国人じゃないんですけど...?」
困らせてしまった。
「……」
「……」
車が横を走り抜け、信号機が鳴る。
近くの外国人観光客が笑う。
それなのに。
二人とも、最初の一言が見つからなかった。
「......とりあえずそこのカフェ行きませんか?」
「了解です。ついていきます」
ライブハウスから少し歩いた場所にある、小さめだが洋風の綺麗なカフェ。
店内には洋楽が静かに流れ、コーヒーの香りが漂っていた。
「二名様ですね〜」
「はい」
慣れた様子で店員に答える彼女を見て、僕は少しだけ場違いな気分になる。
窓際の席へ案内された。
「何飲む...じゃなかった飲みますか?」
「えっと……」
メニューがオシャレすぎて分からない。
カフェラテ。エスプレッソ。アフォガート。
……アフォガートって何だ。アルファードみたいなやつか?
「……」
「決まらない?」
「あ、うん……」
「じゃあ甘いの好き?ですか?」
「好き」
即答した。
「じゃあこれ美味しいよ...ですよ」
指差したのは、アイスカフェモカだった。
「じゃあそれで」
注文を終え、店員が離れていく。
また静かになった。
「……」
「……」
渋谷の真ん中なのに。
僕らのテーブルだけ、時間が止まっているみたいだった。
「あ、あの」
「あ」
同時だった。
「どうぞ」
「いや、そっちから」
また沈黙。
「……はは」
彼女が吹き出した。
「ごめん」
「なんか、お互い同じこと考えてそうで」
その笑顔を見て、少しだけ肩の力が抜ける。
「そういえば」
彼女がストローの袋を丸めながら言った。
「名前、まだ聞いてなかったですね」
「あ」
DMでは一度も聞いていなかった。
「えっと……」
少しだけ息を吸う。
「本名ですよね?」
「......それ以外あります?」
そうだよな。本名以外で名乗るのはスパイやら諜報機関だけ。
「空賀彼鉈...です」
「高2」
「来週で、17歳」
「……以上」
「以上?バイトの面接?」
彼女が目を丸くする。
「自己紹介、短いね」
「慣れてなくて……」
「そっか」
彼女は小さく笑って、自分の胸へ手を添えた。
「私は青凪看空」
「高2、17歳」
「よろしく」
「……よろしく」
そこで、僕は止まった。
「ん、青凪……?」
昨日、テレビで流れていたニュース。
『俳優・青凪海都さん死去』
「あの青凪……?」
看空は少しだけ目を伏せた。
「……うん」
「ニュースになってた人、私のおじいちゃん」
言葉が詰まる。
「……ごめん」
「謝らなくていいよ」
そう言って笑ったけれど、その笑顔は少しだけ寂しかった。
「お待たせしました〜!」
ちょうどその時、注文した飲み物が運ばれてくる。
アイスカフェモカとアイスコーヒー。
店員が去ると、看空はストローをくるくる回した。
「昨日のことだけど」
空気が変わる。
「やっぱり、夢じゃなかった」
彼鉈も頷く。
「あの星空、宇宙みたいな...」
「……うん」
なぜか彼女はおぼろげのように見える。
「管理人って人、いた?」
「いた」
即答だった。
「金と銀の髪」
「縞模様のネクタイ」
「あと、片目に細いレンズ」
「.........」
看空は少し目を見開き、大きく頷いた。
「私も会った...んだと思う」
「確信がない...?」
「......そう。私会った、というか見たの4、5歳くらいだったから」
「昔だったんだね」
「「......」」
二人とも黙る。偶然で片付けるには共通点が多すぎた。
「私ね」
看空が静かに口を開く。
「ずっと、一人で調べてた」
「でも」
「一人じゃ、何も分からなかった...」
彼鉈もそうだった。誰にも話せないし、仮に話したとしても信じてもらえないだろう。
だから、
「じゃあ……一緒に調べてみる?」
その言葉は、ほとんど反射だった。
看空は少しだけ驚いた顔をして、それから微笑む。
「そうだね」
「一緒なら、分かるかもしれないもんね」
こうして僕と彼女の、後にも先にも、ずーっと、忘れられない、長い日が始まった。
もし、この出会いも全て世界が仕組んでいたとしたら...
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