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26話 泣き喚くカタストロフィ

「……」


嫌な予感がした。

スマートフォンを開く。


LINEは...開かない。

SNSも...開かない。

パソコンのブラウザも......開かなかった。


「……おい」


何度タップしても反応しない。

電話の欄も開いても、両親、姉、店長、先生。


誰一人として表示されない。

連絡先そのものが消えている。


試しにAIの音声対応ができるかどうか試してみる。


「......Hey, Siri」


『聞いていますよ』


「......は?」


『な、なん、なんd、なんでしょしょうかかかk』


「うわああぁぁぁぁ」


スマホを壁に投げ、急いで部屋の扉を閉める。


「……なんだよ」

「ふざけんなよ……」


何が起こっているのかわからなかった。


さっきまで母親が「おやすみー」と声をかけてくれたのに。

寝落ちして起きたら、誰もいなくなっている。


「そ、外......」


玄関へ向かう。靴を履く。


扉を開ける。

外は、まだ暗かった。


今は午前4時。当たり前だ。

でも、いつもの夜明け前とは違う。


街灯がついている。

信号も動いている。

自動販売機も光っている。


なのに、誰もいない。

車が一台も走っていない。


「……」


最寄駅である五井駅へ向かう。

いつもなら、この時間でも始発を待つ人間が何人かいる。

駅前のコンビニも、明かりがついている。


自動ドアも開く。


「……すみません」


店内に入るが、誰もいない。

レジも空っぽ。バックヤードから音もしない。


「……近藤さーん?誰かー」


返事はない。商品だけが、棚に並んでいる。

まるで、人間だけが世界から切り取られたようだった。


「……なんだよ、これ」


店を出る。空を見上げる。

夜明けから光が差し込んでいて、とても綺麗だった。


「朝になったら……」


朝になれば、人が戻る。

そう思った。そう思わないと、耐えられなかった。



近くを通った公園の時計には午前5時と表示されている。

スマホは壁に投げたまま放置したため、何も持っていない。


──ガタン、ゴトン。


急に遠くから音が聞こえた。


「……電車?」


彼鉈は急いで駅へ向かった。


当然のように、駅員や電車を待っている客は誰一人いなかった。

電光掲示板には、始発列車の案内が表示されている。


『まもなく、一番線に電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください』

少しして、自動アナウンスとともに電車が来た。


いつもと同じ電車。いつもと同じ音。


「……!」


扉が開くが、誰も乗っていなかった。


急いで車両の先頭に行き、運転席を見る。

内房線は本来自動運転ではないが、運転手はいなかった。


それでも電車は動く。


「……嘘だろ」


『一番線、ドアが閉まります。ご注意ください』


電車は何事もなかったかのように発車した。

彼鉈は立ち尽くす。


「……僕以外、いないのか?」


答える人はいなかった。


その瞬間、渋谷へ行こうと思った。


理由なんてない。

ただ渋谷なら、あの場所なら。

もしかしたら、看空がいるかもしれない。

そんな淡い期待を胸に、渋谷を目指すことにした。


彼鉈は、永遠と下を向いて渋谷に着くのを待っていた。

乗り換えし、空気に毒を吐く。


「僕が何したんだよ...」


渋谷に着いた。

改札を無視して、スクランブル交差点に向かって歩く。


人はいなかった。

信号だけが変わる。


──赤。


──青。


──赤。


──青。


誰も渡らない。だって誰もいないのだから。

大型ビジョンには広告が流れている。


音楽も流れているし、店も開いている。

電車も動いていて、音が響いている。


世界は何も問題がないように動いている。

なのに、人間だけがいない。


「……看空さん?」


返事はない。


「青凪さん!」


何もない。


「……みあ、さん......」


「どこにいるんだよ!」


声が交差点に響く。

返事はない。


「……なんでだよ」


膝から力が抜ける。

その場に座り込む。


「僕が何したんだよ……」

コンクリートに拳を握る。


「世界は僕をどうしたいんだよ!!!!!!!!」

誰もいないし、誰も答えない。


「ごめんなさい!ごめんなさい!いじめ返したのも僕が悪かったです」

ただただ泣き喚く。虚無に向かって謝罪を繰り返す。


「看空さんを傷つけました!全部僕が悪いです!」

繰り返す。


「なんでタイムリープさせるんだよ!!!」

ただ、繰り返す。


「僕が世界に何したんだよ!!!ただの社会のゴミでしかないのによ!!!」

繰り返す。


「自分がどうしようもないクズってわかってるから!!!」

繰り返す。


「周りが羨ましくて!!!いじめられたからいじめ返したら僕のせいで!!!告白されたと思ったら罰ゲームで!!!」

義務教育の悪い思い出が蘇る。


「やっと、友達ができたのに........」


「昨日まで……!」


看空と喧嘩した。嫌いになったわけじゃない。

一人になって初めて分かった。


自分は看空と一緒にいたかった。

救いたいとか。幸福を見つけたいとか。そんな綺麗な言葉じゃない。


ただ、一緒にいたかった。


「……看空さん」


名前を呼ぶ。

返事はない。


「……会いたいよ」


涙がどんどん地面に落ちていく。


「……もう一回でいいから」


そのまま、しばらく動けなかった。

気がつき目を開けると、カフェにいた。


2人が初めてあの古本を見つけた、老舗の古い店。

椅子に座ったまま眠ってしまったらしい。


「……」


目を開ける。

店内には誰もいないはずだが。

コーヒーカップがテーブルの上に置かれていた。


スマートフォンを開く。

時計を見る。

──7月20日、8時17分。


「......もう、わかんない」


何も考えられなかった。ただ疲れていた。

眠い。ひたすら眠い。


そう思い、彼鉈は空虚な目を閉じた。

お読みいただきありがとうございます!ストックが尽きてしまったのでここからは不定期投稿になります...すみません。

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