24話 じわじわする決意
──ピピピッ。ピピピッ。
「……ん」
聞き慣れたアラームの音。
彼鉈はゆっくりと目を開けた。カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
まだ眠い。
昨日は久しぶりに安心して眠れたからか、身体が若干重かった。
「んー」
枕元に手を伸ばし、スマートフォンを掴む。
画面を点ける。時刻は8時17分。
そして、その下。
日付を見た瞬間。
「…………」
思考が止まった。
7月19日、と表示されているからだ。
「…………え?」
目を擦り、もう一度見る。
7月19日と表示されている。
「……いやいやいや」
スマートフォンの表示がおかしい。
そう思った。
電源を落として、もう一度点ける。
それでも、7月19日。
「……なんで?」
ベッドから起き上がる。
壁の時計を見る。昨日と同じだ。
急いで階段を降り、リビングに向かう。
「どうしたの彼鉈、焦って」
「今日も早いわね」
母である夏子が味噌汁をよそいながら、彼鉈を見る。
「昨日も早かったじゃない」
「……うん」
「そういえば学校から進路の紙来てるから見ときな」
「母さんたちもう仕事行くから」
「......わかった」
このやり取りも何度目だろう。
横を見ると父、芳樹がコーヒーを飲みながらスマートフォンを確認している。
そして、
「そうだ彼鉈」
聞き慣れた言葉。
「倉庫の古新聞、まとめといてくれ」
「明日の資源ごみの日だから」
「......あぁ」
テレビの方に目をやると、ちょうどアナウンサーが喋っている。
『本日は7月19日火曜日。雨が多少降りますが、本日も各地で猛暑日になる見込みです』
「…………」
同じだった。一語一句同じ。
彼鉈はスマートフォンを握ったまま、しばらく動けなかった。
「……待って」
昨日、確かに20日になった。
自分の目で確実に見た。スマートフォンで確認した。
時計も確認して、そのまま眠った。
そして──。
「……もしかして」
一つの考えが浮かんだ。
「眠ったから……?」
眠ると、意識を失う。その間に時間が巻き戻った。
「……でも、そんなことあるか?」
自分で言って、自分で否定する。
「……」
部屋に戻り、ベッドに座ったまま考える。
もし眠ることが原因なら、今日眠らなければいい。
そうすれば、
「……20日になる?」
自分でも馬鹿げた仮説だと思った。
それでも、今の彼鉈にはそれしか考えられなかった。
「……今日は寝ない」
小さく呟く。
「絶対に」
その決意が正しいのか。それともとんでもない勘違いなのか。
彼鉈には、まだ分からなかった。
◇
夜、22時。
コンビニで大量のコーヒーとエナジードリンクを購入し、日付が変わるのを待っていた。
パソコンを起動し、調べ物をしている。
『タイムリープは実際に起きるか』
AIに内容を出力し、回答が得ようとしていた。
『現実でタイムリープが起きることはあり得ません。マンガやラノベ、アニメじゃあるまいし。あなたは2020年7月19日を生きています』
AIからもありきたりな回答しか来なかった。そりゃそう。
「......使えねー」
──ゴクッゴクッ。
飲みかけのエナジードリンクを一気に飲み干す。
「昼夜逆転は何回もしてるから大丈夫...きっと」
誰に向けて言っているかは自分でもわからない。
そして、23時59分。
あと1分で日付が変わる。
静かな彼鉈の部屋に、時計の秒針がチクタクと鳴る音だけが響いている。
壁時計の長針が一番上に来る。
0時0分。スマホの時計も確認する。
──7月20日、0時0分8秒。
「......20日だ」
間違いない、と何度も目を擦って確認する。
「やっぱり嘘じゃなかった」
「......よかった」
念の為、まだ起きてる母さんと父さんにも確認してこよう。
階段を降り、リビングに向かう。
「......母さん」
「あれ、彼鉈まだ起きてたの」
「母さん、今日って20日だよね?」
「え?今日は19日、、、」
「ぁ、もう日変わったのね。なら20日だわ」
「そうだよね!」
「な、なに当たり前のこと」
「いや...ありがと」
急いで自分の部屋に戻る。
眠い目を擦る。
「おやすみー」
急に夏子が部屋に入ってきた。
「母さん入るときはノックして」
「ごめんごめん」
「ん、おやすみー」
安心した。
ドアが閉まる音がしたので、母さんも寝たんだろう。
「......ん」
自分の椅子に座り、そのまま寝そうになる。
──バンッ。
「痛っ」
机の角に小指をぶつけた。その衝撃で目を覚ます。
「やべ、寝ちゃってたか...?」
スマホを見ると、2020年7月20日、4時09分と表示されていた。
気付かぬうちに3時間も寝てしまった。
壁時計を見ると、なぜか12時の方向を向いて動いていないようだった。
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