↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/29

11話 既読と孤独のエピソード

「……青凪さん?」


『大丈夫?』


追ってメッセージを送るが、既読はつかない。

最初の写真は既読がついたが、追って送ったメッセージには既読がつかなかった。


彼鉈は続いて、メッセージを送った。


『さっきの新聞のこと、気にしなくていいから』


自分で送っといて、他人事みたいなメッセージになってしまった。

数秒待つが、既読はつかない。


「……」


スマートフォンを伏せる。

けれど、3秒もしないうちにまた手に取った。


通知はない。


DMの画面を閉じ、もう一度開くが何も変わらない。


「……なんで」


別に返信を急かしているわけじゃない。

昨日だって、帰宅してからしばらくDMをしていたわけでもない。


看空にも予定がある。家のことだってあると思う。

あんな大きな会社の人間なのだから、自分よりずっと忙しいに決まっている。


頭では分かっている。


それでも、嫌な予感だけが消えてくれなかった。

玄関には、昼間まとめた古新聞。

その一番上にあった一枚。


『青凪海都容疑者、殺人容疑で逮捕』


中身を何度見ても、そこに書いてある名前は変わらない。

青凪海都。青凪看空の祖父。


昨日、博物館で見た映像の中では穏やかな顔をしていた。

あのときの看空の表情を思い出す。


「……」


スマートフォンを握る手に力が入った。。

指が通話ボタンの上で止まる。

……いや、急に電話なんて迷惑だろ。

自宅まで行くなんて論外だ。そもそも、僕は彼女の住所すら知らない。


「何やってんだ、僕……」


検索欄を開く。


『サマーカルム・エンターテイメント 青凪看空』


入力しかけて、消した。


これじゃストーカーじゃないか、と自分でも笑えてきた。

昨日まで、まともに家族以外と会話することすら少なかった。


それなのに今は、一人の女の子──いや。

青凪看空のことが頭から離れない。

たった二回会っただけの人なのに。おかしい感覚かもしれない。


「……女の子、か」


昨日、明治神宮で言っていた。


自分がどう見えるのか。

そんな質問をされたときの顔。


あのときは深く聞かなかった。なんだか聞いてはまずい気がしたから。

でも、今なら少しだけ分かる気がする。


看空は自分が何者なのかについて、ずっと悩んでいるのではないだろうか。

彼鉈は一緒にいた短い時間の中でそう考えた。


「……友達、なのかな」


その言葉を口にしてみる。昨日まで知らなかった人。


「……心配だな」


部屋の時計を見る。19時43分。

階段を降り、軽いバッグを持って玄関へ。


「何してるの、彼鉈」


「母さん......」


「外に出るつもり?」


「うん」

聞かれたことにはすぐに答える。


「何しに?」


「……友達に会いに」


「この時間から?」


「……」


「明日にしなさい」


「……そうだよね」


「あなた、あ(・)の(・)時(・)もこの時間に出て行ったわよね」


「......もういじめ返すことなんてしないよ」


「そうよね」


「でもね、最近闇バイトとかあるし心配なのよ」

あなたがそんなことするわけないけど、と付け加える。


「......うん、ごめん」


「行くなら明日にしなさいな」


そういうと、夏子はリビングに戻っていった。

知っていた。今からどこかへ行くなんて無理だ。


でも───明日なら。


明日、もう一度連絡する。

それでも返事がなかったら。

そのときは、渋谷へ行ってみよう。


理由は分からない。


ただ、あそこなら何か分かる気がした。

最初に僕たちが出会った場所。


そして、僕たちが一度だけ同じものを見た場所。

スクランブル交差点。


「……」


部屋に戻り、ベッドに横になる。

スマートフォンを胸の上に置く。

目を閉じたけど、眠れるわけがなかった。


◇


同時刻、豊洲のタワーマンション。


看空の部屋の照明は消えていて、カーテンも閉めたまま。

東京の夜景だけが、窓の隙間から薄く差し込んでいた。


ベッドの上で、看空は膝を抱えていた。

スマートフォンの画面には、さっきから同じ記事が表示されている。


《元政治家・青凪海都容疑者、逮捕 姫川一家殺害事件に関与か》


何度スクロールしても。何度画面を閉じても。

頭の中から消えない。


「……嘘」

声に出てしまった。


「嘘だよね」


返事はない。当然だ。

今、ここには誰もいない。

看空はスマートフォンを強く握った。


祖父の顔を思い出す。まだ幼かった頃。

庭で転んで泣いた看空を、海都は笑いながら抱き上げた。


『看空、痛かったか』


『……うん』


『そうか』


それだけ言って、頭を撫でてくれた。

私が女の子らしい服を着たくないと文句を言ったこともあった。

母の花蓮は困った顔をしていた。


けれど海都は、


『無理に着る必要はないだろう』


とだけ言った。

その言葉を、看空はずっと覚えていた。

看空が看空でいることを、許してくれた人。


そんな人が、人を殺した。


「……違う」

首を横に振る。


「おじいちゃんはそんなことしない」


でも新聞には書いてある。ネットで調べても書いてあった。

昔のニュース映像まで残っている。


『青凪海都容疑者が──』


「やめて」


自分で調べ、当時のニュース映像を見ていたスマートフォンを投げる。


ベッドの上に落ちた。

けれど、画面は消えない。

写真の中の祖父がこちらを見ている。


「やめてよ……」


「この前死んでただでさえショック受けてたのに」


こんなの知らない。

あまつさえ、看空は未成年だから、というふざけた理由で海都の遺体に対面することすらできなかった。


看空は両手で耳を塞いだ。何も聞こえないようにする。

なのに頭の中では、別の声が響いている。


──青凪家の人間なら。


──もっとしっかりしなさい。


──女の子なんだから。


──そんな格好するんじゃない。


──笑っていなさい。


──お綺麗ですね。


──次の社長候補なんだから。


──それ加工してる?


「……私は」


誰に向けた言葉なのか、自分でも分からない。


「私は、何なんだろう」


立ち上がり、鏡を見る。


そこに映っているのは、水色の髪。

ベレー帽を外した自分。

母に教えられた笑顔。


学校で身につけた笑い方。

会社で求められる振る舞い。

SNSで作った自分。


どれが本当の私なのか。分からなくなっていた。


「……分からないよ」


涙が頬を伝う。


それを拭おうとした手が止まる。

こんな顔を誰かに見られたら。

きっとまた言われる。


『女の子なのに』


『お嬢様なのに』


『次期社長なのに』


「……もう、いい」


ベッドの脇に落ちたスマートフォンを拾う。


画面を見る。

たくさんあるDM欄から、空賀彼鉈の名前を見つける。


『大丈夫?』


その文字を見た瞬間、胸の奥が痛くなった。


「……なんで」


たった二日だよ。

たった二日しか会っていない。なのに。


「……なんで、こんなに」


昨日は楽しかった。

図書館で笑って、アイスを食べて、明治神宮を歩いて......

渋谷で別れるとき、また会えると分かって嬉しかった。


あんなふうに笑ったのは、いつ以来だろう。


「……空賀さん」


なぜか名前を呼ぶ。当然返事はない。

スマートフォンを握ったまま、ベッドに顔を埋める。


「こんな未来なんていらないよ......」


「死んでよ...わたし......」


涙が枕に染み込んでいく。

髪の毛一本一本をむしり取る。

中指を立てて、枕にぐりぐりと押し付ける。


──看空は、胸の奥で何かが切れた。

お読みいただきありがとうございます!物語はまずい方向に向かっていってますね?

感想や誤字脱字あったらお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。