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二刀流への応援歌  作者: 沢村俊介
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マッサージと栄養管理の二つを

4月8日に行われた公式戦で、澤村選手が左太腿の肉離れを起こした時、僕は右足首の骨棘による痛みが完全には払拭されておらず、反って左足の方に過剰な負担が強いられたのだと感じ、右足首の症状の気づきが、トレーナーとして十分でなかったことを恥じていた。

 しかし、主治医である整形外科医、尾川正信先生の言葉で、僕は心の重荷が少し軽くなったような気がした。過去のことを悔いるより、未来志向で右足首関節捻挫の予防、太腿二頭筋の筋繊維断裂の予防策を考えるのが先決だと思った。

 その際まず考えたことは、栄養素と酸素のことだった。酸素は機械による注入でもよいとして、栄養補給の方法だ。サプリメントだけに頼るのは問題だと思った。骨にはその真ん中に管のようなものが走っていて、その管の中を骨髄液が流れ、その液が骨全体に沁みわたり、骨を健全に保っている。樹木とて、その太い幹の中には樹液を保っている。もし、この樹液がカラカラに乾いてしまったら、その木は枯れて倒れてしまうだろう。人間の骨だってそうだ。骨の中を上から下へと縦に走る管の中の骨髄液を良好に保つ、そして、骨と骨の間の潤滑油を切らさないようにする。これらの課題を解決するには、食事療法しかないのではなかろうか。これについては、うちの球団の単身寮で提供される食事のメニューを考える管理栄養士に相談してみる必要がある。もっとも、食材の吟味などがある以上、肉・野菜の購入予算については増加が見込まれる。自分なりに予算について概算要求書を作り、球団事務所と交渉してみたいと思った。事務所の予算担当から了承の見込みが立てば、管理栄養士との話し合いがはじめられる。

 4月の後半、我がチームは10連敗を喫した。そして4月末時点では6勝19敗で、13の借金を抱えてしまった。しかし、5月に入るなり5連勝とチームは息を吹き返す。5月7日は、左太腿裏の肉離れをした日から4週間が経つ日となったが、澤村選手の左太腿の具合も何とか良い方向に向かいつつあり、外のグラウンドに出て、軽いランニングができるようになった。

 そして、寮内のトレーニングルームに戻り、太腿裏にある、大腿二頭筋のマーサージを行った。お互いに無口だが、気分はいい。やはり何といっても、チームの調子が上がってきたのがいい。今はBクラスの5位である。でも、やがてAクラスの3位への浮上も見えて来る。Aクラスにいれば、クライマックス・シリーズへの出場権があり、リーグ優勝へのチャンスは決して皆無ではないのだから。

 左の太腿だけでなく、ふくらはぎも良くなってきた。ここは4月17日頃までは、今たびの大腿二頭筋肉離れによる内出血のため、赤紫色のアザができていた。

 大腿二頭筋は、二頭筋なので、上の部分が骨盤と大腿骨の二つにくっついている。そして、下の部分が腓骨にくっついている。二頭筋の筋繊維が壊れて、腓骨が動き、さらに腓骨と連動している脛骨も動き、これらの骨に連結して走っている、ふくらはぎの筋繊維も傷ついたので、内出血したものと思われる。

 両足のバランスを取ることは大切だ。負傷した左足のみのマッサージだけでは済まない。両足とも同じ時間の施術が必要だと思っている。僕は、下半身をタオル越しに、ゆっくりとさすった。手のひらで筋肉の張りなど、足の状態を感得する。むろん、受け手である澤村選手とのコミュニケーションもしっかり取る。チームの成績が良くなってきたせいか、僕の手のひらも柔らかくなったような気がするし、受け手の筋肉も今日は柔らかいような気がする。やはり気持ちがリラックスするのと、筋肉の柔らかさとは連動しているような気がする。

 まず、左足の足裏、カカト、アキレス腱、ふくらはぎとさすったり揉んだりする。そして、膝の裏にある、ヒラメ筋や大腿骨を揉む。さらに上にあがって、太腿裏の外側にある大腿二頭筋を指先に意識しながら、ゆっくりと人差し指、中指の腹の部分でさする。ここは4月8日に肉離れを起こしたところなので、特に念入りに施術する。

 そして、太腿裏の内側にある半腱様筋、半膜様筋を、手の平を転がさないで、手の根っ子を当てて、圧を掛けながら揉む。半腱様筋も半膜様筋も始めのところは骨盤にくっつき、終わりは脛骨にくっついているが、それぞれの筋繊維の束は、外側の大腿二頭筋に比べて小さく、圧を敏感に感じる箇所なので、受け手と言葉でのやり取りをしながら、ゆっくりと優しくマッサージを進めていかなくてはならない。左足が済めば、今度は右足へと移る。

 日常のケアこそが、怪我や負傷に対する最大の防御となる。そして外からのケアよりも内からのケア、すなわち栄養管理がマッサージよりも大切になってくるのでは、と僕は施術しながら考えていた。(つづく)


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