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二刀流への応援歌  作者: 沢村俊介
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11/26

手術することよりも栄養と休養が大切なんだ

4月も終わりそうだ。明日からはゴールデンウィークがはじまるが、僕は澤村選手とともに都内の病院へ行った。

 酸素治療器を使うためだ。寮のトレーニング室にも置いているが、その治療器より病院のものが酸素濃度が高い。ここへ通う価値はあると思う。やはり、左太腿裏の筋肉細胞の中で、栄養分を酸素で燃やして、気化エネルギーを作り、そのエネルギーで太腿の筋肉細胞の活性化を図り、損傷した筋肉を回復させたいと思う。

 今日は、酸素吸入のカプセル内にも入るということで、その間僕には自由時間ができ、コーヒーを飲もうと12階にある食堂に向かった。自販機でドリップコーヒーを注文しようと思う。カフェラテにするか、カフェオレにするか、機械の前で迷っていた。

「よぉっ、吉原君」

「あっ、先生」

「ごくろうさん」

 澤村選手の主治医である、整形外科の尾川正信医師だった。頭髪はちょっと薄くなり、白髪も見受けられる。白衣がちょっと汚れている。でも、顔つやはよくて、声は元気にあふれている。僕の父は今年還暦を迎える。その父と年は同じようだが、尾川先生の方が若いような気がする。

 コーヒーが落ち、二人でコーヒーの入った紙コップを持ちながら、尾川先生が先ほどまでお昼の定食を食べられていたテーブルに行った。

「先生、この時間にお昼なんですか」

 食堂の時計は、13:45になっている。

「ああ、つい患者さんに説教してしまってね。こんな風に診察時間の終了が遅くなることが多いんだよ」

「でも、すごく熱心に看られると聞いています」

「いやなに。うちの科の看護師に叱られてばかりさ。『先生、もっとてきぱきと患者さんを看てください』と言われていてね」

 でも、尾川先生は看護師さんたちの間では人気者だと僕は聞いている。ざっくばらんなところがいいのだろうと思う。たまに、看護師さんたちとカラオケに行かれるとも聞いている。僕なんかのような若い者にも上から目線でなく、きちんと丁寧な対応をしてくださる。

「そうそう、先日、君のところの監督さんが、澤村君の左太腿裏の症状について聞きに来られてね。その時、監督さんが君のことを心配しておられたよ」

「そうでしたか……」

「まぁね。私だって、迷うこと、いっぱいあるんだからね。澤村君の右足首の骨棘のことだってそうさ。皮膚と肉をちょっと切って、それから小さな細い骨のトゲを、チョンチョンとハサミで切って、あと肉と皮を縫い合わせればいいわけだから。でもね、手術をしてトゲを取ったから、それで万々歳というわけにはいかないんだよ。後足部と中足部の間にはショバール関節がある。中足部と前足部の間にはリスフラン関節がある。これらの関節の部分には潤滑油があって、それらが骨と骨との直接的な衝突を避けて、少々過激な運動をしても足に痛みを感じるということがないんだよ。それに中足部には、小さな四角い骨が五つばかりも重なり合っていてね、それが足の可動性を高めてくれているんだよ。でも過酷な運動を続ければ、こうした骨だって金属疲労を起こしてしまうかもしれない。そして、これらの骨からトゲが生まれてくることもあるかもしれない。つまり、手術をすべきかどうかということよりも、足の骨に栄養を与え、休みを与えてやることの方が、ずっと大事だということなんだ」

 僕は頭を下げた。先生の言葉は、ありがたかった。

 尾川先生は、僕に大変むずかしい足の骨の構造について話をされたけれども、それは、『今年二月初めの時点で、右足首の三角骨の骨棘切除の手術を提言すべきだったのではないか』という僕の悩みについて、何んとか少しでも解消してやろう、というような気持ちではなかったのかと僕は感じた。そして、僕はそういう尾川先生のお気持ちに応えるためにも、過去のことにはあまりくよくよせず、これからのことをしっかり考えようと思った。(つづく)


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