第2話 失踪
「トールス!!」激怒した声が家の中から響く。
家の外で朝食前の軽い運動をしていたトールスは突然の怒声に驚き、慌てて家に入っていった。台所にはカンカンに怒ったアレスタがいる。何に怒っているのかは分からないがとにかく激怒していることはわかったトールスは恐る恐る台所に入っていった。
「ど、どうしたんだい?」トールスはアレスタの顔色を伺うように言う。
「どうしたもこうしたもないよ!あんたまたこっそり夜食食べたね!しかもがっつりと!こんなに食べて私が気づかないとでも思ってんのかい!?」アレスタは夜の内に食材が消えたことに怒っているようだ。
「誤解だ!俺は食べてないぞ!」身に覚えのない話にトールスは全力で否定した。
「じゃあ、なんだって干し肉がごっそりなくなってるのさ!パンも1個なくなってる!」アレスタはまだ疑っているようだ。
トールスは以前にも何度か夜に食材を勝手に食べて怒られたことがある。アレスタがトールスを真っ先に疑ったのは無理もない。とは言えトールスからすれば本当にしていないことなので否定するしかない。
「そ、それは•••アリオが食べたとか•••?」トールスは咄嗟にアリオの名前を出した。
「アリオがそんな大それたまねできるもんかい。」アレスタは信じていないがとりあえずアリオを呼ぶことにした。アリオは普段寝起きがよく呼んだらすぐに出て来るにもかかわらず、今日は返事も返ってこない。しびれを切らしたアレスタはアリオを叩き起こしに行った。
「あんた、アリオを知らないかい?」部屋にアリオがいなかったため、アレスタはトールスに聞く。
「いや。部屋にいなかったのか?」トールスも知らないので聞き返す。
「いなかったんだよ。どこほっつき歩いてるのかね。まあ朝食の頃には帰ってくるか。」
「アリオはまだ帰ってこないのかい。」アレスタはイライラして言う。もう日が高くなり始めているにも関わらずアリオが帰ってこないのだ。
「アリオに何かあったのか•••?」トールスは心配になりアリオを探しに行く。
村の井戸•••いない。魚のいる河原•••いない。子どもたちが普段チャンバラをしたりして遊んでいる丘•••いない。冒険者ギルド•••いない。最期の頼みとして行ったアリオがよく懐いている薬師の家•••いない。村中を探したが、どこにもアリオの姿はなかった。
「アレスタ!大変だ!アリオがどこにもいないんだ!」トールスが家に駆け込んでくる。
「なんだって!?いったいあの子はどこに•••いや、待て、まさかね•••。」アレスタには心当たりがあるようで、顎に手をあてて考え込んでいる。
「アレスタ!何か知っているのか!?」トールスはアレスタに詰め寄る。
あまりの勢いに気圧されつつもアレスタは答える。
「いや、心当たりって言うか、ほら、あれだよ。昨日話したろ。アリオがまた魔法を教えろなんて馬鹿なこと言い出したって。あの時にあの子が家出してやるって言って、私はできるもんならやってみなって•••。でも、あの子に限ってそんな•••。」アレスタは自分で言いつつも半信半疑のようだ。
「と、とにかく守衛に話してくる!」トールスは入ってきた時と同じように慌ただしく出て行った。
「駄目だ。見つからない•••。」トールスは途方に暮れていた。守衛に物見櫓の上から望遠鏡を使って探してもらったが見つからなかったのだ。この村は小高い丘の上にあり、周りは魔境以外は草原で見晴らしもいい。子供が丸1日歩いたとしても見えないはずがないのだ。かと言って村の中も人に尋ね回って探したのでいないだろう。トールスは、いやな考えが頭を過ぎった。
「まさか、アリオは魔鏡に•••。」トールスは青ざめた顔で呟いた。
大人ならまず選ばない選択だ。しかし子供ならあまり危険性を分かっていないかもしれない。そしてもう見つからない理由はそれぐらいしか思いつかなかった。魔境に入ったとなればそれはもう親の領分ではない、冒険者の領分だ。トールスはアリオを一刻も早く探してもらうため、冒険者ギルドに駆け込んで行った。




