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霊ちゃんはお仕事中

神様は食べることも仕事です。緩いところですから。


 七ヶ宿ダムを過ぎて113号線を外れて、萬蔵稲荷に向かう旧街道の道悪の所をスピードを上げて駆けていく。まだ雪が少し残っているけれど、例年よりは少ないくらいだ。しばらく駆けると赤い鳥居の群れが見えてくる。萬蔵稲荷に到着だ。ほぼ1時間。ちょっとゆっくりしすぎたかな?まあお土産もあるし。鳥居の中を突き進みそろそろ頂上に着くという頃に

「お早うなのじゃ、メイよ。そろそろ到着する頃合いだと思っておったよ。」

そう言いながら、ふわふわした毛玉のような姿が、横合いから飛び出してきた。本日のメインイベントたる萬蔵稲荷の主祭神にして最強のマスコットでもある霊ちゃん、いや玉藻様である。しっぽは9本、妖狐という種族で、元は大陸でブイブイ言わせていたそうなのだけど、今の姿からはその片鱗も感じられない。でも齢2000年を数えるというその妖力は、俺でさえ驚かされることがある。出会った頃は子ども扱いだったもんな。まあ、子供だったけど。

「霊ちゃん、お久しぶり。俺が来るの知ってたの?」

「いやのう、虫の知らせでな。それよりなんぞ良き匂いじゃ。歌音殿のおいなりさんかの?是非とも頂きたいものじゃ。」

「いーや、アリアからの差し入れ。朝ご飯代わりに一緒に食べなさいって。」

「なんと、主殿からとな。あやつも料理上手になったものよ。何にしても旨そうじゃ。早う出してたもれ。」

「ではちょっと失礼して。」

背負っていたリュックを(特別製の伸縮自在の逸品だ)脱ぎ下ろし、少しお腹に力を入れる感じで身を震わすと、体は人間としてのそれに戻る。リュックの中から上下のスエットを取り出しささっと着込む。終わる頃には一つトンボを切って巫女服姿の少女のなりになった霊ちゃんが、リュックの中のタッパーを開けて、広げた茣蓙の上に並べていた。

「お茶もあるぞえ、まあ休め。」

いなりずしは霊ちゃんの大好物だ。萬蔵稲荷への寄進もこれが一番と地元の氏子も判っているが、歌音さんのものが一番旨いとは霊ちゃんの言だ。アリアが作ってくれたものも、

「うむ、旨いのじゃ。」

お気に召したようだ。みるみるタッパーの中身が減っていく。

「ん、ん、メイよ、お主は食わんのかえ?」

嬉しそうにほおばるその姿を見ていると俺が食べるのが失礼な気がする。と言うか手を伸ばす隙が無い。まあ、それは予測できた事だけど。

「あ、大丈夫だよ、一つくらいもらえれば。ここに来る前に麓の旅館の仲居さんから昨日の宴会の残り物を頂いたから。お腹は減ってないんだ。

仲居さん、ありがとう。霊ちゃんの嬉しそうな顔を見られるのは、僕も嬉しくなる。

「そ、そうかえ、済まぬな。あまりに旨いので妾だけで食べてしもうて。では一つ、う~むこれと、昨日氏子から献上されたおこわなど、食べてたもれ。」

と言うと、僕の持参したタッパーを抱え込み、残りのおいなりさんをまた嬉しそうにほうばりはじめた。

俺はそれを横目に、霊ちゃんに渡されたおこわに口をつけながら、ここを訪れる前から気になっていた事をおそるおそる、霊ちゃんに尋ねてみた。

「えーと、さっきの虫の知らせの事について、聞いてもいい?」

霊ちゃんはしばらく食べることに集中していたけれど、そう聞くと一瞬にして居住まいを正して、厳粛な声でこう話した。

「うむ、な。どうも北西の方から、あまりよろしくない気配が漂ってくるのじゃ。」

「北西、つまり飯豊山?」

「いや、もっと向こう。月山の霊気の向こう故、鶴岡かそれ以上、もしかすると大陸の方かもしれん。昔ほどには探知の力が及ばぬでな。今この場で伝えてやれるのはこのぐらいじゃ。だが確かに何やら怪しげな力が向かってくるのを感じる。千年前には感じなかったような気配じゃ。」

かつて大陸から渡ってきた大妖怪があまりよろしくないと称する気配だ。これは早いところ舞沢に戻って、歌音さんたちに相談するべきだろう。

 オレがそわそわし始めたのを感じてか、霊ちゃん、いや玉藻様がこう語ってきた。

「妾も少々気になるでな、その内、主殿と歌音殿にお目通りに行こうと思う。おいなりさんの礼も兼ねてな。伝えておいてくれるかの?」

「うん、わかったよ。じゃあ、お茶を頂いたら、そろそろ行くね。」

「うむ。気をつけてな。などとお主に言っても何にもならんだろうがの。」

「いつ頃来るの?迎えに来ようか?」

「そこまで面倒もかけられまいよ。それにお主に憑くのはお主の所の犬神にも無理な話じゃ。妾にしても昔ならいざ知らずな。まあ、今以上になればそれすらも危うい。」

「それは俺が強くなっている、と言う事かな?」

「そうじゃな。今なら明殿に置いて行かれることも無いのではないか?御母堂がどうかは解らんがな。母御というものは複雑じゃて。」

「玉藻様にそう言ってもらえるのは嬉しいな。じゃあ、今日のところはこの辺で。これから学校だし、遅れたらアリアに怒られそうだし。」

「主殿、か。あの方はどこまでわかってらっしゃるものか。と、これはメイ殿に言うても詮無きことか。ふう。」

何事か口ごもっている霊ちゃんに一礼すると、またお腹に力を入れる感じで狼(豆柴)の姿を取り、リュックを背負い直して(人が見ていない場所だと楽だ)、俺は萬蔵稲荷を辞して福島県境に向けて走り出した。少々遅くなったので、天元台に向けショートカットをすることにして、山越え谷越え田圃を駆けて、トンネルの出口辺りで13号線に合流して、えい、この際中央道に乗って、下手にトラック等轢かないように気を付けて、どうにか午前8時頃には舞沢に戻ることが出来た。

玉藻様登場です。一部では玉ちゃんと呼ばれてますが、まあ霊ちゃんです。偉い(人を誑かす系の)妖怪さんです。色々あって蔵王の麓に定着しております。

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