表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

虎が来た

やっと、旅に出るのかな、いやもう少し、手続きがあります。なんせ、生徒会長だし、アリアは。一応都が副会長で、メイ君は庶務です。用心棒とも言うけど。

 舞沢インターから朝と同じ場所に戻ってきた。だいたい2時間くらいか。と、息を整えていると見慣れた姿が塀の上にいた。

「おはよ。」

「あ、お早う。都さん・・・じゃないな。黒、都さんの格好で、何してるんだ?」

「ニャ、おはようニャ。都が許してるからいいのニャ。やっぱりこの格好だと伸び伸び出来るニャ。」

同級生である都さんに憑いている猫又の 黒 が、都さんの見た目で塀の上に乗り、声を掛けてきた。全くこいつは人間世界をどう思っているのか。そんな姿を一般人が見たら、都さんの評判が悪くなってしまうじゃないか。

「こら、黒、人間は塀の上に乗って寝っ転がったりしない。都さんに変な評判を立てるんじゃないぞ。」

「何を今更ニャン。でも都が困るのはだめニャ。判ったから待つニャン。」

トンと音もたてずに下に降りると、黒が訊いてきた。

「こんな時間にどこに行ってたニャン。それに・・・この匂い、あの化け狐ニャン。」

「そうだ、黒、お前、今何か、何か近づいてくるような感じはあるか?」

「ニャー。確かにひげの片隅に同族のそれなりのが近づいてくる感覚があるニャン。でもこのくらいなら、メイや犬神共ならモノでもないニャン。」

そう言うと黒は大きく伸びをして、どうやら引っ込んだようだ。急速に黒の気配が消えて、目の前に我が謙信神社の美人巫女たる都さんの気配が戻ってくる。

「んー、あれ、メイ君。お早う。」

「お早う、都さん。朝から黒に体を預けるなんてどうしたの?」

「うん、黒がね、何か変な予感がするから、メイ君と話がしたいって言うから、メイ君を待ってたんだけど、どうやら、困った黒ね。」

「まあ、聞きたいことは聞けたからいいけど、気を付けた方がいいよ。あいつ、まだ子供だから。」

「いつもは良い子なのよ。それよりもお早う、アリアは学校行ったけど、メイ君も行く?」

「そうだね、今日の打ち合わせも、相談したい事もあるから、行こうか。」

「じゃあまず、戻らないとね。学校の体育用具室で良いのかな?」

「うん、エスコートよろしく。」

「じゃあ、行きましょう。まだ一般生徒は来ていない筈だから、大丈夫でしょう。」

そして俺たち二人で、いや二人と一匹で(見た目上は美少女一人と犬一匹だ)学校へと向かったのであった。春が来たばかりの舞沢市がこれから巻き込まれる事態も想像せずに。


 「みなさん、おはようございます。」

生徒会長であるアリアの発声で、始業式が始まる。うちの高校の美点は第一に、校長先生が前面に出てこないところだ。と言うのが大方の生徒の意見だ。文武両道、質実剛健をもってなる全県下の高校にあって、この美点は代えがたいものではあるが、その分大変なことも多いのよ、と言うのがアリアのいつもの愚痴ではある。生徒たちは基本、自由闊達で、進学校とも思えないかなり突っ込んだ部活があったりする。同好会は無い。部活内にそれに関わりがあったり無かったりする分会があり、それを各冠部の部長が束ねるという形をとっている。「だからなお、実績の査定が難しいのよねえ。」というのがアリアの苦労話だ。まあ、それをこともなげに差配してしまうから、生徒会なんかに引っ張られるんだと言ってるんだけど、頼まれれば断れない面倒見が良すぎる性格のため、毎日忙しそうなうえに、俺や都さんも巻き込まれる形になる。まあ、二人ともアリアの世話になることも多いので見て見ぬ振りも出来ないのだけど。そんな事を考えているうちに、校長先生の簡単すぎるお話も終わり、生徒指導のミヤさん先生の訓示が始まっている。ミヤさんには色々面倒をかけてるから、真面目に聞かなければ、後で何を言われるかわからない。ミヤさんは2年前、僕等が入学する前年に我が校に赴任してきた先生だ。前任校では伝説の教師と言われていた。ミヤさんの前任校の離任が決まった時、離任発表の当日は卒業式だった。その年の卒業生が講堂で式に臨んでいる真っ最中に、社会人を含んだ元ヤンキーや筋者とおぼしき若者がどこからともなく集まってきて、転任の決まっていたミヤさんを校庭に呼び出し、卒業生に構わずそのまま取り囲んで泣きながら胴上げと万歳三唱を行い、大人しく帰っていくという事があったのだ。「ミヤさん胴上げ事件」として今でも語り草になっている話だ。ミヤさんに聞くと、照れくさそうに、あの時の卒業生には悪いことをしちまった、と笑って言うのだが、確かに迷惑な話ではある。だけどミヤさんを語る上では欠かせないエピソードである。「基本、俺は拳でしか語れないからな。」とはミヤさんの言だが、その拳には恐らく愛がある。入学当初の突っ張り返った人狼の僕に、ヘッドロックをかけて拳固でグルグリ出来たのは、後にも先にもミヤさんだけだ。理由のない暴力は振るわない。その時に必要な力を振るう。それがミヤさんに教わった男の生き方だ。俺はそれを肝に銘じている。なんて格好つけすぎだな。ともかくそんなミヤさんのちょっと真面目くさった訓示も終わり、始業式も滞りなく終了した。だけど教室に戻ってすぐ、大変な事態がおきていたのだ。全く予想外の形で。

 アリアと都さん、他生徒会のメンバーと、校長先生ら職員室の先生方に挨拶をして新学期の打ち合わせを終えて、2年1組の今年度からの俺たちの新しい教室に入ったのは、午前10時くらいのこと。一応進学志望のため来年は受験生だ。隣県に行くか(東北地方ではよくある話だ)、東京のどこかの私立に潜り込むかがすでにこの時期の話題の中心だが、幾人か県内に残り地元の大学への進学や企業への就職の道に進む者もいる。それ以上に地元を離れる予定の者が多いので、そういった生徒は、どちらかと言うと大人しくしている割合が高い。田舎ゆえ悪目立ちすることは避けるのが習わしだ。でないと調和がとれない。「ウドっぽくなるな」が合言葉だ。だけどそんな教室にちょっと変わった雰囲気を持つ生徒が二人。人目お避けるようなそれでいて何かを探しているような眼の動き。その眼が追っているのは・・・え、俺?その二人が俺の方にやってきて、開口一番、「ここで一番強いお前に勝負を挑みたい。」と言い放ったのだ。あ、綺麗な標準語。その途端、周りの一般生徒からは明らかな失望の声が上がった。

「まだ、いたのか。」「新入生か?誰か教育しておけよ。」「いや、転入生だろう。地元の者ならそんな無謀なことはしねえよ。」(以上、都合により翻訳ひょうじゅんごにてお届けしました)

何か、色々言われている。決闘を申し込んできた二人は真剣そうな面持ちで俺を睨んでいる。いや、体は小刻みに震えているな。場の空気に飲まれないように気持ちを昂らせているのが判る。身体は大きい。体格差だけなら俺の完敗だけど、でもな、弱い者いじめは性に合わないんだよな。男が廃る。

「いや、君たち、突然どうしたんだい?」

言葉を選んで、出来るだけ和やかに話しかけたつもりなんだけど、一瞬退くかに見えた二人は、やおら上着を脱ぎ捨てると、猛然と掴みかかってきた。あれ、この獣臭は?

 その時、教室に入ってきた都さん。あれ、ネコ耳が生えている。ということは、黒か?

「待つニャおまいら。メイに手を出そうニャンて、10万年は早いニャ。しょうがニャいから、あちきが相手してやるニャン。かかってくる・・・おや、どうしたニャン?」とっさに食らわせた当身が決まり、二人の転校生ちょうせんしゃはその場で気を失っていた。それよりも、みんな都さんを見てる。興味本位の視線。俺にも同じような視線が。

「ね、修羅場よ、シュ・ラ・バ。」

「会長にご注進!」

「面白くなってきたわ。」

同じ中学校出身者は、またか、という目で俺を見ると、ポンと肩を叩いて、くわばらくわばらとか言ってにこやかに去っていく。え、何これ。俺と都さん(黒)と倒れたままの二人を除いて、みんな興味を失うか別の興味を満たすために、まだこの場に来ていないアリアを探しに行ったようだ。しばらくすると生徒の一団に囲まれたアリアがやってきて、俺と都さん(黒)とを引き連れ、別の使われていない教室に移動した。倒れている二人の襟首を掴んで持ち上げながら。

「邪魔になるでしょ、ホームルームの。」

いや、アリアさん、何か怖いんですが。みんな、引引いてますよ。

 アリアは取り巻いていた生徒たちの中の、クラスメイトに何か声を掛けると、何事も無かったように微笑んでいる。誤魔化したつもりでいるのかなあ。ま、今更か。

 さて、しょっ引かれた二人は途中で目を覚ましたようだが、自分たちを持ち上げているのがアリアだと気付くと初め驚いてはいたが、抵抗せず大人しく運ばれるままになっていた。賢明な判断だ。もっとも、更に賢明なのは、そもそも何もしない事だったろうけど。まあ、何か事情があるのだろう

 さて、別室にアリア、都さん(+黒。憑依中)、俺の生徒会トリオの尋問が始まった。他の生徒会メンバーには遠慮してもらった。美味しいところを逃すような二人(と一匹)ではないからだ。どうもうちの生徒会連中は血の気の多い奴が多い。英斗のように頑丈で大人しい奴は貴重なのだ。で、あいつは事後処理に回ってもらおう。

 引き立てた転校生やつらを下ろし、アリアが訊いた。

「あなたたち、目的は何かしら?ことと次第によっては今日に限らず帰れなくなるわよ。」

・・・だから怖いって。そこに都さんが割って入った。

「待って、アリアちゃん。こんなに怯えているじゃない。今回は許してあげましょうよ。」

おや、恐怖のあまり黒が引っ込んでいる。少し怒ったような都さん。でも、アリアは引き下がらない。

「都さん、こういう輩には教育も必要ですよ。あんな公衆の面前で面白いことを仰る面々には正しい作法、と言うものを教えてあげなければ。いかに転校生、それも虎族の方であってもね。どう料理してあげましょう。お二人とも、判るでしょう。廊下の皆さんもその辺は理解しているんですよね?」

二人を連れ込んだ空き教室の外の廊下には、同じ様な目をした複数の生徒が、何かを探るように群れていた。みな、転校生らしい。この時期に、とは思っていたが、こんな武闘派な奴らだったのか。でも虎族って?実力はともかくちょっと嬉しい。彼らの後ろの方では後始末を任された英斗が必死に彼らを止めようと・・・はしてないな。成り行き次第では混ざって楽しみたいという表情だ。だから全く。穏健派だと思っていたんだけどな。

「英斗君、今日はお楽しみはないわよ。でも、誰も逃がさないようにね。」

必死にコクコクと頷く英斗。さすが調教はしっかりしてるな、アリア。翻って転校生とらぞくの皆さんは、おや、こちらもみんな平伏している。あれ、ドンパチは?割と手ごたえはありそうなんだけど。

「アリアちゃん・・・。」

都さんは心配そうにアリアの顔を覗き込んでいる。そして意を決したように言った。

「アリアちゃん、みんなを食べないであげて。多分美味しくないよ。」

あの~都さん。別に食べるとかそういう事のためにこいつらを連れてきたわけではない・・・と思うんだけど。こら、アリア、舌なめずりは止めろよ。はら、そこの転校生、怯えて見せるんじゃない。調子に乗るじゃないか、アリアが。

「申し訳ゴザイマセン。私どもを助けていただきたく、ここまで参りマシタ。もしも私らを食べようと御所望ならば、私一人で後の者はご容赦クダサイ。どうぞ、ドウゾ。」

平伏したまま懇願したのは、最初にいきってきたがたいの良い男子生徒。う~ん、固そうだな。いや、肉が、じゃなくって。アリアは何か考え込むように彼等を見ている。

「それで、あなたたちは何者で、何から助けろと言うのかしら。」

その男子生徒は、ぴくんと震えて、それでもはっきりと答えた。

「はい。私は名を大河、タイガと申します。西の大陸で虎人族の戦士長を務めておりました。我らの集落は熊帝国に隣接する貧しい村なのですが。」

ここで彼は話を切り、こみあげるものを飲み込むように息をついて切り出した。

「平穏だった我らが村に、突然隣国、熊帝国の強襲部隊が攻め込んできたのです。多くの者が捕まりました。奴らに捕まった者は、洗脳され、熊帝国の先兵として西国に送られます。我が祖国の人間もその辺はあまり変わりませんが、それでも我々を少数民族として黙認してはくれていました。でもこのままでは我々は狩られ、他国の戦争の道具として使い捨てにされ、滅びてしまいます。連れ去られた者たちも今、どんな扱いを受けているか。・・・なにとぞ、お力をお貸しください。「主殿」」。

主殿、そう聞いて一瞬、アリアの表情が変わった。

「主殿、そう言いましたね。ではあなたたちは、はるか昔の約定を頼ってここに来た、という事でよろしいですか?それが何を意味するかを知ってなお、助けを求めると。」

あらら、難しい話のようだ。俺もチラッとしか聞いていない。この星の生物たちとアリア達の結びつき。この舞沢の地に来るまでのアリア達、というか歌音さんをはじめとする存在の成してきたこと。それをアリア達は「約定」と呼ぶ。「後はあなたたちぐらいよ。あなただったら良かったのだけど。」いつだったかアリアがぽつんと言った言葉。その意味は良くわからないけど、そのために歌音さんはかつてこめ国を放浪し、父さんと出会ってそのまま一緒に旅をして、ここ舞沢に落ち着いたのだとか。その前は日本のとある地方にいて、そこで黒の親にあたる一族と共に暮らしていたとか。壮大すぎて良くわからないけど、とにかくそういう話の延長線上の事らしい。ちなみに黒はこの世界で最強と言われる猫族、その代表のような生命体だという。つまり彼らが虎人だというのなら、黒がその代表だという事になる。一応世界各地を歌音さんやその前の世代の方達も回っていたという話だから、どこかで誰かが何らかの約束を交わしたのかもしれない。しかも「そういった約定は、みんなここにあるのよ」と、自分の頭をたたきながら戯れに言っていたことがある。そうか、これがその事か。黒の時以来だな、普段とてもそんな面倒そうな話はしないのに。歌音さんもいつもニコニコしてるし、。時折、夫の規範さんとどこかに出かけてることがあるけど、そういう事かな。でも規範さんは普通の人間だよなあ。犬神たちは従属してるけど。


話がやっとアリアに向いてきました。結構とんでもない娘なのですよ。腹黒だし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ