一番可哀想なのは誰だ
俺の名前は福山田潤。
被害者の会を開いたら、その門戸を叩く者が現れた。この入会希望者は一体誰なのか。また、どんな被害に遭っているのか。
これから新たなストーカーの加害者と被害者を紹介する。ただしストーリーの都合上、父さんと代永くん、森久保さんにはお帰りいただき、福山田と新キャラでお送りします。
ここは会議室の一角。しかし、場所が場所ならきっと鹿おどしでも聞こえてくるだろう。この人には、部屋全体をも和テイストに変える雰囲気を持っていた。
「こちら、お茶です」
「あぁもう、気にせんでええから。茶くらい自分で注ぐし」
「大先輩に対して、そういうわけにはいきません」
目の前にいるのは遊佐浩輔さん。十分過ぎるほどベテランなのに、やたら腰が低い。
「こっちが勝手に来ただけなんやから、そんなに畏まらんでも……」
「では、今日はどうされたんですか?」
「それがな、結構前からおかしいなと思うことはあったんやけど、ちょっと後輩からの圧が強うて」
「粘着系ですか?それとも敬愛系?」
「えっ、もうそんなにパターンがあんの?」
「……続けてください」
「その後輩、俺と共演するために後から入り込んでくんねん。自分を押し込む、みたいな」
「それはまぁ〜、初級ですね」
「しょ、初級?!」
「後から自分を押し込むのなんて、ストーカーの定石です。前持って遊佐さんのキャラをプロデュースされたわけじゃないですよね?」
「キャラをプロデュースって……え、スタッフさんにストーカーされてる人がおんの?」
「いやだなぁ!プロデューサー兼声優ですよ」
「ごめん、俺の頭がついていかれへんのやけど、もしかしてかなりの猛者がいるところに来てしもたんかな」
「——大丈夫です。他に被害はありましたか?」
いけない、いけない。つい茶化したようになってしまった。
ストーカーの加害者が後から出演するのはよくあることだ。そこからストーキングが始まると言っても過言ではない。しかし、普通に考えれば自分を追って出演してくるわけだから、恐怖にも感じるだろう。
「その後輩な、『先輩のためなら猫でもやります!』って」
「猫……?」
「俺、そのアニメは脇役なんやけど、後輩は猫からメインキャラになんねん。なんでか分からんけど」
「は?猫から?」
「そう。脚本変えたんとちゃうかな」
「遊佐さんと共演するために?」
「うん」
「でも脇役なんですよね?」
「ゲームでは一応攻略対象やけど、アニメはあんまり出番ないね」
「共演したんですか?」
「直接話すことはなかったかも」
「共演できてないじゃないですか」
「でも、楽しそうにしとったよ」
「そういう問題ではないです」
これは雲行きが怪しくなってきた。ストーリーや脚本を改変してくるとなると、緑川さんレベルの異常性がある。さらにうちの祖父クラスになると、自分が出演しているアニメに子や孫を「連れてくる」ようになる。
もしかすると、この人もかなりの変人である可能性がある。
「年齢も五歳しか離れてへんのに、ずっと『先輩先輩』って言ってくるんやで?共演した役柄が先輩と後輩だっただけやのに……」
「そんなものはただの誤差です。うちの祖父なんて、年上の声優を息子扱いしていますから」
「えっ?石田さんって、ほんまに緒方さんのこと息子だと思てるん?」
「——初登場の遊佐さんのお耳にまで届いていらっしゃるとは」
「黙っとったほうが良かった?ごめんな。あんまヨソでは言わんようにするわ」
「もしかして、俺が緒方さんから息子扱いされているのもご存知ですか?」
「石田家御一行様やろ?こないだ、スタッフが『今日は参観日ですよ』って耳打ちしてんの聞いたから」
これは予想外のボディブローだ。俺の知らないところで噂が広がるなんて、共感性羞恥でいたたまれなくなる。願わくば、一生知りたくなかった。
「最近、認知されるようになったんです。それより、その後輩さんは今どこに?」
「さっき『近くまで来てます』って連絡来てたわ」
「それは話が違う!今すぐ帰ってください」
そんな特級呪物みたいな加害者を、こんなところに連れ込まないでほしい。とんだ疫病神じゃないか。
俺は遊佐さんが大先輩であることも忘れて、扉の方へぐいぐいと押しやった。
「間に合わん気がする——」
コンコンコン。
その音に、俺も遊佐さんも息をするのを忘れた。
「先輩、いらっしゃいます?オレです」
「ほらぁ」
「早いな……」
遊佐さんは狼狽える様子もなく、諦観の念を示した。最早慣れているとしか言いようがない。
俺は、扉越しからする聞き覚えのある声に身の閉まる思いがした。まさか、この人が遊佐さんのストーカーだったなんて——?!




