↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/10

一番可哀想なのは誰だ

 俺の名前は福山田潤。

 被害者の会を開いたら、その門戸を叩く者が現れた。この入会希望者は一体誰なのか。また、どんな被害に遭っているのか。

 これから新たなストーカーの加害者と被害者を紹介する。ただしストーリーの都合上、父さんと代永くん、森久保さんにはお帰りいただき、福山田と新キャラでお送りします。

 ここは会議室の一角。しかし、場所が場所ならきっと鹿おどしでも聞こえてくるだろう。この人には、部屋全体をも和テイストに変える雰囲気を持っていた。

「こちら、お茶です」

「あぁもう、気にせんでええから。茶くらい自分で注ぐし」

「大先輩に対して、そういうわけにはいきません」

 目の前にいるのは遊佐浩輔(ゆさこうすけ)さん。十分過ぎるほどベテランなのに、やたら腰が低い。

「こっちが勝手に来ただけなんやから、そんなに畏まらんでも……」

「では、今日はどうされたんですか?」

「それがな、結構前からおかしいなと思うことはあったんやけど、ちょっと後輩からの圧が強うて」

「粘着系ですか?それとも敬愛系?」

「えっ、もうそんなにパターンがあんの?」

「……続けてください」

「その後輩、俺と共演するために後から入り込んでくんねん。自分を押し込む、みたいな」

「それはまぁ〜、初級ですね」

「しょ、初級?!」

「後から自分を押し込むのなんて、ストーカーの定石です。前持って遊佐さんのキャラをプロデュースされたわけじゃないですよね?」

「キャラをプロデュースって……え、スタッフさんにストーカーされてる人がおんの?」

「いやだなぁ!プロデューサー兼声優ですよ」

「ごめん、俺の頭がついていかれへんのやけど、もしかしてかなりの猛者がいるところに来てしもたんかな」

「——大丈夫です。他に被害はありましたか?」

 いけない、いけない。つい茶化したようになってしまった。

 ストーカーの加害者が後から出演するのはよくあることだ。そこからストーキングが始まると言っても過言ではない。しかし、普通に考えれば自分を追って出演してくるわけだから、恐怖にも感じるだろう。

「その後輩な、『先輩のためなら猫でもやります!』って」

「猫……?」

「俺、そのアニメは脇役なんやけど、後輩は猫からメインキャラになんねん。なんでか分からんけど」

「は?猫から?」

「そう。脚本変えたんとちゃうかな」

「遊佐さんと共演するために?」

「うん」

「でも脇役なんですよね?」

「ゲームでは一応攻略対象やけど、アニメはあんまり出番ないね」

「共演したんですか?」

「直接話すことはなかったかも」

「共演できてないじゃないですか」

「でも、楽しそうにしとったよ」

「そういう問題ではないです」

 これは雲行きが怪しくなってきた。ストーリーや脚本を改変してくるとなると、緑川さんレベルの異常性がある。さらにうちの祖父クラスになると、自分が出演しているアニメに子や孫を「連れてくる」ようになる。

 もしかすると、この人もかなりの変人である可能性がある。

「年齢も五歳しか離れてへんのに、ずっと『先輩先輩』って言ってくるんやで?共演した役柄が先輩と後輩だっただけやのに……」

「そんなものはただの誤差です。うちの祖父なんて、年上の声優を息子扱いしていますから」

「えっ?石田さんって、ほんまに緒方さんのこと息子だと思てるん?」

「——初登場の遊佐さんのお耳にまで届いていらっしゃるとは」

「黙っとったほうが良かった?ごめんな。あんまヨソでは言わんようにするわ」

「もしかして、俺が緒方さんから息子扱いされているのもご存知ですか?」

「石田家御一行様やろ?こないだ、スタッフが『今日は参観日ですよ』って耳打ちしてんの聞いたから」

 これは予想外のボディブローだ。俺の知らないところで噂が広がるなんて、共感性羞恥でいたたまれなくなる。願わくば、一生知りたくなかった。

「最近、認知されるようになったんです。それより、その後輩さんは今どこに?」

「さっき『近くまで来てます』って連絡来てたわ」

「それは話が違う!今すぐ帰ってください」

 そんな特級呪物みたいな加害者を、こんなところに連れ込まないでほしい。とんだ疫病神じゃないか。

 俺は遊佐さんが大先輩であることも忘れて、扉の方へぐいぐいと押しやった。

「間に合わん気がする——」

 コンコンコン。

 その音に、俺も遊佐さんも息をするのを忘れた。

「先輩、いらっしゃいます?オレです」

「ほらぁ」

「早いな……」

 遊佐さんは狼狽える様子もなく、諦観の念を示した。最早慣れているとしか言いようがない。

 俺は、扉越しからする聞き覚えのある声に身の閉まる思いがした。まさか、この人が遊佐さんのストーカーだったなんて——?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。