第一回 被害者の会
俺の名前は福山田潤。
父にも負けず祖父にも負けず、過保護なプロデューサーにも執着心の強い後輩にも負けず、丈夫な声帯で精進すると決めた。これからは、どんなことがあっても動じずに、己の声優道を極めてみせる!
というわけで、今回は新たな試みを始めることにした。ストーカーに悩む声優たちで構成された、公式カウンセリングの会である。
「第一回、被害者の会〜」
「——なんか彗が生き生きしてる!」
そう言って拍手をしているのは、悲しい哉、父さんだけである。
「森久保さん、これ食べますぅ?」
「おう!じゃあ貰おうかな」
代永くんと森久保さんは、被害者の会に関係のない話を続けている。俺は父さんからの熱い視線を浴びて、やりにくいったらありゃしない。
「皆さん、真面目にやってください!と言うか、どうして父さんがここにいるんですか?あなたは俺のストーカーでしょう」
「パパだって父親からストーカー被害に遭ってるんだから、立派な被害者だよ!この会に参加する権利はあるんだからねっ」
「こういう被害者が加害者にもなる縮図、この作品の醍醐味ですよね〜。意味分かんないですけど」
「森久保さんがこの会に来ている時点で、キミも加害者側だからね?」
「森久保さんは違いますよぉ」
「オレは代永に誘われて来ただけだ。会の意味はよく分かってねぇ」
「そぉ〜ですよねぇ?♡」
「やはりアホの子だったか…」
森久保さんは仕方がないとして、こんなまとまりのない人たちで集まっても、有意義な会になるとは思えない。それにしても、一番大事な人がこの会に参加していないじゃないか!
「ところで、どうして兄さんは来てないんですか?代永くんはちゃんと誘ったんですか」
「声掛けましたよぉ。でも、『福山田さんが来るなら、俺は遠慮しておきます』って言ってました。結局、岡本さんが来ないのは自分のせいじゃないですか」
「ぐっ……。せっかく兄さんに会えるならと思って企画したのに!俺だけが父さんからのストレスを受けるという結果になるとは」
「彗、大丈夫?お薬飲む?」
「そもそもの元凶が何言ってるんですか……」
精神的なダメージは受けたものの、会を開いたからには全うしなければなるまい。それが俺の、ここでの役割である。
「仕方がないので、これから皆さんには最近あったストーカー被害を報告してもらいます。それで、お互いの傷を癒やし合いましょう」
「はーい!じゃあパパからね。父さんにSNSのアカウント乗っ取られて、仲良しな写真をアップさせられました」
「父さんにとって問題なのは、アカウントを乗っ取られたことよりも『仲良しな写真をアップされた』ってことなんだろうな……」
「いやいや、アカウントの乗っ取りはマジでやばいでしょ。石田さんはハッキングのスキルもお持ちなんですか?」
「なんか、いつの間にかペアレンタルコントロールされてた。保護者だから、管理するのは当然なんだって」
「それを疑問に思わないオツム、ポンコツ過ぎる……」
「だから、彗のSNSもパパに管理させてよ!」
「なぜそうなる?!」
「だって、パパだって彗の保護者だもん!監督責任があるよ」
「絶対に嫌です!そもそも俺は親子関係に納得していません」
「パパは認知してるよ!」
「『養育費払ってます』みたいな雰囲気出しても無駄ですからね!この話はもういいです。散れ!」
「そんなぁ……」
父さんは、塩もみされた野菜よりもしおしおになって黙ってしまった。たまにはこれくらいガツンと言ってもバチは当たらないだろう。
「では、続いて代永くん。被害を報告してください」
「……思い出すだけで腹が立つので、あんまり口にもしたくないんですけど」
「その気持ちはよく分かる」
「ずいぶん前に、緑川さんのラジオに呼ばれて行ったんです。これはもうお仕事なので、ワガママ言ってられなかったんですけど、その時の緑川さん、背中に白い羽背負ってました」
「……翼か」
「なんの嫌がらせかと思いました」
「パッ見可愛いからね。気づきにくいよね」
「そういうところが小賢しいんですよ」
「でもさ、代永くんも緑川さんに似てるところあるよ」
「はぁ?本当の親子でもないのに?」
「緑川さんってさ、あざと可愛くしてるじゃん?女子高生みたいな」
「……言わんとしてることは分かります」
「代永くんそっくり」
「はあ?!」
「代永くんって、写真撮影とかできゃぴるんしたぶりっ子ムーブするじゃん。『あぁ、緑川さんに似てきたな』って思ってたよ」
「血縁関係のない声優に『似てきた』ってどういうことですか?!嬉しくもなんともないんですけど」
「親子でブリブリしてんなぁって」
「やめてください!オレは森久保さんみたいな、硬派な兄貴分を目指してるんです」
「現状、真逆を行ってるけどね」
「なんか言いました?!」
思ったことをそのまま言っただけなのに、代永くんに怒られてしまった。あまりの勢いに、俺も思わず黙ってしまう。
そんな一瞬の間を縫うように、外から会議室の戸が叩かれた。控えめな音の後に、標準語のイントネーションとは異なる声が聞こえてきた。
「あの〜……ここで声優の被害者の会をやってるって聞いたんやけど」
「?!」




