正確なプロファイリング
俺の名前は福山田潤。ストーカーに悩む遊佐さんから被害の内容を聞いていたところ、なんと加害者が乗り込んできた。
最初はよくあるタイプのストーカーだと思っていたけれど、どうも雲行きが怪しい。マジでとんでもなくヤベェ奴が来たらどうしよう。
いよいよご対面だ——!
「せんっっっっぱい」
「呼び方のクセが強い!」
遊佐さんのストーカーは、鳥海浩二さんだった。ベテラン声優がベテラン声優を追う、なんて不思議な組み合わせだ。
「鳥海くんさ、仕事の空き時間にわざわざ俺のところに来んでもええんやで?自分のことに使い?」
「これは趣味なので、大丈夫です」
「えらいけったいな趣味しとるんやね」
「ザ・京言葉!」
「それほどでもないですよ」
「効いてない!」
遊佐さんってあんまり皮肉とか言わない人だと思っていたけれど、鳥海さんには結構ストレートな婉曲表現をしていた。
(——ストレートな婉曲表現とは?)
とにかくまぁ、伝わらないなら仕方がない。遊佐さんの拒絶にも気づかず、鳥海さんはどこ吹く風といった感じで、全然効果なしだ。そもそもストーカーの加害者って、被害者が何を言っても聞かないところがあるから、これもまあ通常運転と言えばその通りだ。
「鳥海さんって、いつから遊佐さんのことを、その……先輩だと慕っているんですか?」
「オレと先輩の馴れ初め聞いちゃう?」
「——その言葉の使い方はいかがなものかと思います」
「誤解されかねないから、やめとこうな」
「とあるアニメの刑事役で共演したことがきっかけなんだ。先輩はその頃からクールでカッコ良くて、オレの憧れなんです!」
「あぁ、ちょっと離れてもろて。物理と精神で距離が近いかな」
「鳥海さんは、遊佐さんと共演するために猫でもやっちゃうような人ですよね?ちょっとやり過ぎじゃないですか?」
「あれねー。さすがにオレもやり過ぎたと思って、それ以降、先輩が出てるアニメに自分をねじ込むようなことはしてないよ」
「意外とまともだ——!」
「福山くん、そもそも普通の人は脚本を捻じ曲げたり自分のキャラを押し込んだり、そういうことはしないんよ」
「はっ!そうだった」
俺としたことが、変人たちに囲まれているせいで、常識を見誤っていた。そもそも鳥海さんは遊佐さんのストーカー。まともな人はストーカーをやらない。
「そうなると、鳥海さんは遊佐さんとの共演を諦めたんですか?だから日常生活で付きまとっている?」
「嫌な言い方はやめてくれよ。付きまといなんてしてないし、共演を諦めたわけでもないよ」
「少々自己認識にズレがあるようですが」
「オレが先輩と共演したい時は、原作を十分に読み込むようにしてるんだ」
「……原作を読み込む、とは?」
「オーディションを受ける前に、先輩に似合いそうなキャラを予想するんだ」
「分析型か……新種ですね」
「それで、先輩がオーディションを受けそうなキャラの近くにいるキャラを、オレが仕留める」
「それはヤバいです!やってることは獲物を狙うハンターと同じですよ」
「慣れると簡単だよ。先輩のことは大体わかるし」
「わかってはいけないレベルです」
「それで聞いてよ!バッチリ予想的中したキャラがあってさぁ!京都出身でクセの強いキャラなんて、先輩しかできないでしょう?!」
「あの自転車アニメの収録、しんどかったわ……」
「そのアニメ、俺も出てますけど、俺のような遊佐さんのリアル後輩役は考えなかったんですか?」
「そもそもオーディションを受けた時、キミのキャラはまだ原作にいなかったからね」
「あっ……なんか無知ですいません」
「仮にいたとしても、ただの後輩役じゃ意味ないんだよ」
「どういう意味ですか?」
「先輩がオレに執着する!オレだけを見てる!こんな最高なアニメ他にないでしょう?完璧なキャスティングだったよ!」
「遊佐さんのキャラが鳥海さんだけを見ていたわけではないと思いますが、鳥海さんがかなりヤベェ奴だってことはわかりました」
「福山くん、俺に代わってこの子止めてくれへん?」
「無理ですよ!この狂気、今まで出会ったストーカーの中でも群を抜いています」
「ストーカーだなんて失礼だなぁ。オレ、先輩の迷惑になることは一切してないよ」
「どの口が言ってます?」
「確かに、俺に実害はないかもなぁ。やってることが狂気地味てるだけで」
「だから、先輩を追いかけるのは趣味だって言ってるじゃないですか」
「趣味やったらしゃあないか!あははは」
「あははは……」
遊佐さんは最終的に、鳥海さんにいいように言いくるめられていた。本当は全然趣味の域を超えてるし、推し活にしても度が過ぎているのに。
声優界には、とんでもない奇人変人だけでなく、狂人までいる。
俺は、こうはならないでおこう。




