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共演に執念を燃やす男

 声優界は闇が多い。その変人の多さたるや、他業種とは比べ物にならない。ストーカーがストーカーを呼ぶ。『保護者参観』だけでなく、制作者側に回り込むのもお手のもの。なんなら血縁関係のない我が子のプロデュースまで始める。

「今日はどんなイカれた人に出会うんだろう……」

 そんなことを考えながら歩いていると、遠くからとてもいい声でケンカをしているのが聞こえた。プロの声優は地声もいいので、ケンカの声も収録かと思うくらい聴き心地がいいのだ。

「ツバサ、こっち向いて?ん〜今日も可愛い♡」

「だから、カメラを向けないでくださいって言ってるじゃないですか!」

 すごくいい気分だったのに、一気に台無しになった。ここは親子の愛情と言うより、ストーカーとその被害者に見える。

「あ、福山くん。おはよう」

「おはようございます、緑川さん。福山田、です」

「福山くんもツバサのブロマイドいる?データもいいけど、僕たちの世代はやっぱり生写真を持ち歩きたいよね」

「結構です。緑川さんはいつも通りですね」

「ツバサがいつも可愛いからね」

「福山さん、早くこの人から離れましょう。写真に写り込んじゃいますよ」

「大丈夫♡焦点はツバサにしか合ってないし、もし入り込んでても切り取って保存してるから」

「他人への配慮は怠らないのに、本人の許可は取らないんですね」

 俺がそう言っている間にも、緑川さんは代永くんにカメラを向け続けた。世間が許せば、ユーチューバーのように代永くんの動画を永遠に撮り続けるような気がする。

「そういえば、代永くんはどこかで緑川さんの息子役をやったの?執着されてるってことは、そうなるよね」

「もう十五年以上前のアニメですよ……」

「あの時はツバサが僕の遺品を持ち歩いていて、『家族』がテーマの大会で僕をイメージしたケーキを作ってくれたんだよね」

「それだと緑川さん、普通に亡くなってますけど大丈夫ですか?」

「あははは!亡くなってるって、役柄の話でしょ?」

「その役柄を公私混同してるのはどこの誰ですか……」

「代永くん、落ち着いて。こういう人たちは、都合のいいところだけ自分の身に置き換えて話をするんだ」

「余計タチが悪いじゃないですか!」

 代永くんの怒りは収まらない。まあ、相手が相手だからムカつく気持ちはわからんでもない。

 でも、悲しいことにその感情は、家族に向けるイラつき方によく似ているんだ。

「三橋!こんなところにいたのかっ」

「うわ、また厄介なのが来た……」

 突然やってきた彼に、代永くんはわかりやすく嫌そうな顔をした。

 彼の名前は中村悠二(なかむらゆうじ)——。過去の共演者に特定の感情を抱く者の一人だ。

 お互いにデビューしたての頃に出演した作品で、中村くんは代永くんへの思い入れが強く、結果執着することとなった。でも代永くん以外の人には興味がないようで、実は俺もそのアニメに出てるんだけど、一度も執着されたことはない。

「三橋……なぜ俺と共演してくれないんだ?!」

「今は仕事をセーブしてるって、何度も言ってるじゃないですか。それに中村さんは売れっ子だから、オレに執着する必要ないでしょ」

「俺はお前と共演するためにアニメに出てるんだ!心ないファンから『中村、最近のアニメに出過ぎ笑』とか『ゆうきゃんどこにでもいるよね笑』なんて言われても、めげずにオーディションを受けるのは、お前と一緒に仕事をするためなんだよ!」

「えっ?おっも……オレにそんなクソデカ感情を向けられても、何もできないですよ」

「お前はそのままでいいんだ。全部俺が受け止めるから」

「怖い怖い怖い怖い……」

「実際、中村くんは何作品くらい受けたの?」

「スタジオオーディションに進んだのが四十作品ぐらい?」

「立派だ〜」

「でもオレとは一回も共演してないです」

「——え?」

「なぜか三橋とだけ外れるんだっ……」

「そんなことある?」

 中村くんの圧は強い。これまで共演したい欲がある人は見てきたけれど、そのためにオーディションを受けまくる人は初めて見た。なまじ実力があるもんだから、中村くんだけ出演が一人歩きしているのだろう。なんとも不憫な人だ。

「俺は三橋と共演するためにいろんなアニメに出てるのに、なぜ一緒にならないんですか、緑川さん!」

「おいおい。ここ、繋がってたのかよ……」

「今度このアニメのオーディションがあるから、受けてみたらどうかな?ツバサっぽい可愛い役もあるみたいだし」

「マジっすか、あざす!一生緑川さんに付いていきます」

「カルト教の教祖と信者っぽいところ失礼ですが、中村くんは緑川さんに付いていっても代永くんと共演できてないんだよね?このまま緑川さんに付いていっても意味ないんじゃないかな」

「意味ないわけないでしょ!俺が三橋と共演できなくて、グレて女みたいな乙女ゲームのキャラをやった時に、途中からアイドルとして三橋を連れてきてくれたのは緑川さんなんだ。あんなことができるのは緑川さんしかいないっ」

「いやー、あの時は森久保くん効果で見事にツバサが釣れたからね!宇宙一可愛いツバサが見れたし、中村くんに恩を売ることができたし、文句なしの采配だった」

「やっぱりアレは仕組まれたものだったんだな!ふざけんなよ、クソ親父。オレに謝れ!」

「あはははは!言葉遣いの悪いツバサも可愛いね」

 代永くんの怒りは収まらず、反抗期の中学生のような悪口を言っている。緑川さんがその様子をカメラで撮影し、火に油が注がれた。それでも終始ご機嫌な緑川さんを見ていると、サイコパスが実際にいたこんな感じなんだろうなと思った。

 今日も声優界は変な人で溢れている。こういうのを見ると、俺の置かれた状況って、まだマシなんじゃないかって安心しちゃうよね。

 ——実際にマシかどうかは別として。

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