過保護なプロデューサー、登場
俺の名前は福山田潤。父親と祖父から執着され、唯一の心の拠り所である兄からはやんわりと拒絶され、行き場のない虚しさを感じている。
『保護者参観』などという謎のシステムにより、キャストでもない人が現場にいることがそもそもの問題だ。しかし、ここまで保護者としての自認が根深いと、最早どうすることもできない。
ため息しか出ないこの状況の中で、ここにもまた一人、『保護者参観』に苦しめられている声優がいた——。
「あっ、代永くん。久しぶり」
「……お久しぶりです、福山さん」
「福山『田』ね」
俺の苗字を盛大に間違えた彼の名前は、代永翼くん。俺と活躍時期がほぼ同じで、ほとんど同僚みたいなものだ。
「そんなことより、随分やつれているね。何かあったの?」
「あったも何も、福山さんもオレの状況、ご存じでしょう?」
「……もしかして、緑川さん?」
緑川光さん——。昭和の時代から一世を風靡し続けている、言わずと知れたレジェンド声優だ。令和になった今もなお第一線で活躍する、それはもうすんばらしい方なのだが……。
「ツバサ〜!」
遠くから自分を呼ぶウットリした声が聞こえるというのに、当の本人は嫌そうに舌を出して苦々しい顔をした。
「今日も可愛いね♡写真撮るからこっち向いて?」
「やめてください。盗撮は犯罪ですよ」
「堂々と撮ってるから、盗撮じゃないもん」
「またそんな屁理屈を……」
「うふ。困った顔のツバサも、宇宙一可愛い♡」
「肖像権の侵害です」
「父親が息子の写真を撮って、何が悪いのよ」
「だからオレは、あなたの息子じゃありません!」
そう言う間にも、緑川さんは自分のスマホで代永くんの写真を撮り続けた。名の知れた大物声優でも、オフだと……ああなるらしい。
代永くんには悪いけど、血縁関係のない親族に執着される状況が俺と酷似しているため、最近はなんとなく親近感を持っていたりする。
「緑川さんも、代永くんと共演したいって思うんですか?」
「う〜ん、思わないわけじゃないんだけど……」
「オレがかなり警戒してるから、共演はほとんどないよ。少しでも気配を感じたら、即、逃げるようにしてるからね」
「気配って、大げさな」
「宇宙一可愛い♡……キャラの役って、緑川さんがオレにあてがうために作ったキャラだって知ってました?」
「そんなわけ…………本当ですか?」
「ツバサには可愛い役が似合うからね」
「あっ、これマジなやつだ」
「そう考えたら、迂闊に近づけないでしょ」
「だから、ツバサには違う形で愛を表現してるの♡」
「違う形……?」
緑川さんは自分の鞄からお洒落な眼鏡ケースを掴み、中からさらにお洒落な眼鏡を取り出した。
「見て?これ、僕がプロデュースした眼鏡なんだけど、ホラここ!ここに翼のモチーフがあしらってあるの」
「あ〜……そういう気持ち悪さ」
「あとは、ツバサってば森久保くんの追っかけやってるから〜」
「だからそれは、そういうんじゃないですってば!」
「森久保くんのキャラが自転車競技部に入れば自分も入って、忍者の組頭になればその下に付いてるのに?」
「立派なストーカーですね」
「だから〜、森久保くんの周りを張って、ツバサに似合いそうなキャラにテコ入れしてるの♡」
「緑川さん、ご職業はプロデューサーでしたっけ?」
「オレが何度やめろと言っても聞かないんですよ……」
「どんなツバサも、宇宙一可愛いからね♡」
そう言いながら、緑川さんはまた一枚、代永くんの写真を撮っていた。
愛の形って、共演だけじゃないらしい。俺のところは、さすがにここまでじゃない。キャラの造形までは口出ししないし——。
ちょっと待て。
父さんのデビュー作に似てるからって、俺に当てがわれたキャラがあったよな?それに、俺のDNAを持ったキャラだからって、父さんが抜てきされたキャラもいたな?
一体なんだそれは、もう意味がわからん!
隣の芝だけが青い、なんてことはなかった。うちも結構青かった。
そうしてストレスがまた一つ増えた。




